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【ショートショート】三日坊主と十年和尚

深緑の山奥にある寺。
新発意しんぼちの坊主、三念が神妙な面持ちで和尚の部屋を尋ねました。
「和尚様。三念でございます。相談がございます」
「どうした三念、そんな暗い顔をして。話してみよ」
「私は何をするにも三日と持ちません。どうすれば和尚様の様に何事も長続き出来るのかを教えてください」
すると和尚は庭掃除をしていた千代を部屋に呼び寄せました。
「三念よ。今日から一日一枚、経を半紙に認める事」
「千代には別でこれを命ずる」そう言うと和尚は千代を手招きしコソコソと耳打ちをしました。
「分かりました和尚様」千代はコクリと頷き、腑に落ちない三念と共に部屋を出ました。
「和尚様に何を言われたんだい?」気になる三念は千代を呼び止めましたが「内緒」と千代は微笑み庭へ戻って行きました。

日は流れ、寺も落ち葉の赤に染められる頃。
唐突に和尚の部屋に呼ばれた三念は焦っていました。
「さて、夏に命じた経の写しは何枚になったかの?百に届く勢いかな」
三念の手には見事に三枚の藁半紙しかありません。
遅れて千代が部屋に入ってきました。手には藁半紙の束を持っています。
三念は目を丸くしました。
「和尚様。一体これはどういう事でしょうか」
「アッハッハ。三念よワシも千代も基本的には三日坊主なんじゃよ。千代よくがんばったね。あの日ワシに耳打ちされた事を三念に教えてあげなさい」

「はい。『今日から一日に一文字も書くな』と言われそれを守ろうとしました。でも四日目で無性に書きたくなって駄目でした」

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