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【ショートショート】お客様は仏様です

「昨日さ、駅前の居酒屋に居たろ。飲まないお前がこんな所に居るわけないって最初は他人の空似だと思ってさ、でも帰り際にもう一度確認したらやっぱりお前でさ」
「ああ、ちょうど客を接待してたんだ」「いやいや、一人カウンターで飲んでたじゃないか」
「俺、霊感が強くてさ」「…何の話?」
「ある副業を始めてね。生前まだまだ飲み足りなくて死んじまった霊に身体を貸して酒を飲んでもらうサービスを始めたんだ」
「…いや、言ってる意味が全然分かんねえや」
「具体的には身体に霊を憑依させて、俺の身体を通じて酒を飲んでもらう。やっぱりお供えの酒よりもこっちのほうが断然美味いって評判なんだ」
「イタコ?みたいなことを言っている?」「まあそうだな。俺は独学でやってるから実際のイタコがどうやってるかは知らないが」
「まあいい、とりあえず一旦信じるわ。でもさ、サービスったって支払いが無理だからビジネスとして成り立たんだろ」
「もちろん霊に金を要求しても無理だ。その代わりのモノを支払ってもらう」
「代わり…例えば?」
「なに、本業の手伝いをしてもらうのさ。俺の場合、喉から手が出るほど欲しいスキルを仏さんは持ってるからね。お互いWin-Winさ」
「…何か掴めてきた」
「だろ。流れとしては、予めこちらが用意したお題に対して、準備ができた霊から来店してもらう。憑依したらまずその『答え』をメモ用紙に書いてもらうんだ。
それに信憑性があって信頼できる内容だったら契約成立で後は思う存分に飲み食いしてもらう」
「完全に身体を乗っ取られるの?」「さすがにそれは怖い。基本ハンドルは預けているが、勝手なことをしようとしたら強制終了するイメージかな。教習所の教官みたいなもん」
「なるほどね…お前が我が社のエース記者として最近、神がかり的にスクープを連発してる理由が分かったよ」
「まあな。ところで、今日も接待する予定なんだけど、あるオプションを要求されてさ。いつもいい裏付けをくれる信頼できる常連なんだ。ちょっと協力してくれないか」
「オ、オプション?」

「ああ、やっぱり一人より乾杯して飲みたいんだってさ」

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