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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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2022年10月の記事一覧

【ショートショート】精神的手錠

「身体を物理的に拘束しない『精神的手錠』の試験導入を実施する」 という警視庁の発表は世間を驚かせた。 マスコミが取材をするが詳細は解明出来ず、かろうじて ・殺人犯、または凶悪犯罪犯ではない事 ・その扱いへの一定の知識を有する事 との関係者の証言を得ることが出来たが、かえって謎は深まり 『まさかの催眠術だったりしてww』『ちょ、誰か捕まってこい』とネットは沸いた。 程なくしてとある有名芸能人Yが薬物所持で逮捕されたとのニュース速報が流れ、もしやと世間は双方向にざわついた。 テレ

【ショートショート】その肉の味

しっとりとしたジャズが流れる店内。夫婦は向かい合い夕食を共にする。 「この肉は何の肉だろう。食べた事ない味だな」 「ええ。猪や鹿と同じで好みは分かれると思いますけど、私はこの味好きですわ。ソースの味がとても上手に全体をまとめていますね」 「ああ、同感だ。是非ともシェフに聞いてみようか」と通りかかったウエイターを呼び止めた。 「お口に合いましたでしょうか」 「今日も絶品だったよ。毎月ここのおまかせコースを家内ともども楽しみにしているんだ。ちなみにメインの肉は何の肉かな」 「実

【ショートショート】継承

「何というか…『向けられる側』だったのがついに『向ける側』になるんですね」 「ほんとに。いつまでも若いつもりなんですが…なんだか寂しいですね」 式典会場に並んで着席する二人の中年男性は、互いに苦笑いを向け合った。 「それでは皆様、壇上にご注目ください。各世代の代表者による継承の儀を執り行います」 司会の声が会場に響くと、継承旗を持った高齢世代代表の男女二人が壇上の上手より登場した。 舞台中央ではそれを迎えるべく中高年代表の男女二人が待ち構える。 中央に到着し向かい合うと一礼し

【ショートショート】記憶相場

東の空は朝を迎えつつ、西の空には夜をまとった月がまだ居座り続ける静かな早朝。 とある進学塾に、けたたましくアラート音が鳴り響く。 「五分後に急激な記憶高の予想!全生徒に一斉通知完了!講師は授業準備!」と当直の塾職員は館内放送マイクに向け声を張り上げた。 同時に宿直室で仮眠をとっていた講師は飛び起きると、消防士よろしく階下の教室へ滑り棒を伝い降下する。 アラートからわずか一分後にはWebカメラに向け授業は開始された。レンズの向う側では幾千の生徒が眠い目をこすりながら勉強を開始し

【ショートショート】副業で代行を

「え?それじゃあ山田って代行サービスの副業やってんの?ガッツあるねぇ」 「はい。ここが副業OKな会社でよかったです」 「ちなみに何の代行してんの?」 「ここだけの話ですけど…人生の代行です」 「…人生って、いわゆるあの人生?」 「はい。その人生です。様々な理由で依頼者が継続できなくなった人生を代わりに生きるんです」 「生きるんです。って、いや、無理じゃん。今山田としての人生謳歌しちゃってるじゃん」 「実は先輩…山田の方が代行なんです」 「そっちかよ!だとしたら代行で本業してる

【ショートショート】悩める貯金箱

商店街の鮮銭店にらっしゃいと威勢のいいダミ声が轟く。 貯金箱母さんはうんと見つめ商品を目利きする。 「今日ご主人開封日だっけ。新鮮で良い五百円入ってるよ」 「じゃあ、五百円玉をひとついただこうかしら」 「あと百円玉も五枚ください」と千円札を出した。 「まいど。百円おまけしとくよ」と店主は笑顔で百円を六枚入れ袋の口を縛った。 「ただいまー」貯金箱父さんの声にチャリンチャリンと貯金箱坊やは玄関に走った。 父さんは坊やを抱っこする。「いやぁ。だいぶ貯まってきて重くなったな。いや俺