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【ショートショート】継承

「何というか…『向けられる側』だったのがついに『向ける側』になるんですね」
「ほんとに。いつまでも若いつもりなんですが…なんだか寂しいですね」
式典会場に並んで着席する二人の中年男性は、互いに苦笑いを向け合った。
「それでは皆様、壇上にご注目ください。各世代の代表者による継承の儀を執り行います」
司会の声が会場に響くと、継承旗を持った高齢世代代表の男女二人が壇上の上手より登場した。
舞台中央ではそれを迎えるべく中高年代表の男女二人が待ち構える。
中央に到着し向かい合うと一礼した。
「それでは、高齢世代より中高年世代へ『近頃の若いもんは』の継承です」
厳かな音楽が流れ、高齢世代から中高年世代へと継承旗が受け渡された。拍手が巻き起こる。
「あぁ。ついに継承されちゃいましたね。でもね。私正直なところ言わない自信はあるんですよ」
「実は私もなんです。若者に理解ある大人でありたいと常日頃考えてますし、式典をしたからといって実感はないですよね」そう語る二人の拍手は形式的なものだった。
すると前方で参列していた一部の若者達が指笛を鳴らしたり、警備員の制止を振り切り壇上へ上がる様子を皆ではやしたて、スマホを掲げて撮影している姿が見えた。

「全く近頃の若いもんはなってないですね」
「ほんとに」

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