【ショートショート】秒読家の意義
N市郊外の山奥にひっそりとその屋敷は建っている。
秒読家。
江戸時代から続くとある伝統を、一子相伝で現代に引き継ぐ名家だ。
敷地内の離れ、通称『秒読庵』にて日々粛々とソレは執り行われる。
「あ、九千九百九十万九千九百九十びよぉーう」
御年88歳の15代目当主、秒読平之進が独特の節回しで読み上げる。
手には初代から受け継ぐ『刻槌』を持ち、コツコツと打台を打つ動作で秒を刻み60秒毎に読み上げるという流れだ。
正確に秒を刻むようになるまで10年はかかる妙技とされた。
「ついに1億秒