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【ショートショート】振替輸送

「すみません。今しがた事故の影響で電車が運転見合わせになってしまって。出社遅れます」
「そうみたいだな。わかった」
部長は部下から立て続けに遅刻の連絡を受けた。
「電車組の出社が遅れてるから朝の会議は延期しようか」
その直後電車組の1人が出社してきた。
「最寄り駅が乗換駅で私鉄の振替にスムーズに乗れました」
程なくもう1人出社するがスーツが皺くちゃに着崩れしていた。
「ど、どうした?」
「駅の近くが競馬場で運良く競走馬に振替乗馬できました」
始業5分前になって駆け込んだ社員は汗だくで今にも倒れそうだった。
「な、何があった!?」
「最寄り駅から沿道に近隣の人たちが旗振って応援してくれてたんで、振替マラソンで来ざるをえませんでした」
肩を揺らしてそう言うと本当に倒れ込んだ。
「後は吉田だけか…それなら会議は予定通り行おうか。皆、C会議室だ」

会議も終盤、突然女性社員が悲鳴をあげた。
「部長!あれ!」窓の外を指差した。
「何だ…鳥?なのか…。あれ…誰かいるぞ…よしだ…もしかして吉田なのか!?」
「気絶してるぞ!」
「だってあいつ高所恐怖症だもん」
「あの振替輸送は初めて見たな…」

鳥の大群に掴まれぐったりした姿で飛んでくる吉田の姿があった。

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