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【ショートショート】小村川忠之

映画館で今話題沸騰の作品を鑑賞した。
感動的なエンディングを迎え画面が暗転すると
『小村川忠之に捧ぐ』
と表示されエンドクレジットが始まった。

カフェに立ち寄り、読みかけの小説を読み終えた。
衝撃のラスト、そして最後のページにはこう締めくくられた。
『この物語を小村川忠之に捧ぐ』

足早に書店に入る。文庫本コーナーの棚に行き、本棚から無作為に1冊手に取り最後のページを開く。
『小村川忠之に捧ぐ』
別の一冊をとり恐る恐るページを開く。
『小村川忠之にこの物語を捧ぐ』
心拍数が上がってくるのを感じた。
呆然と海外文学の棚に行き1冊手に取る。
最終ページには特に何も書かれていなかった。
流石にそうだよなと安堵するもふと胸騒ぎがして巻頭ページをめくった。
『Dedicated to Tadayuki Komurakawa』
逃げるように書店を後にした。

「あ、どうもこんにちわー。こんな所で奇遇ですね」
偶然出会った会社の同僚は漫画雑誌を抱えていた。
表紙絵には人気漫画のキャラクターが描かれており『堂々最終回!』と派手な装飾の字が踊っていた。
「すみません。ちょっと見せてもらってもいいですか」
雑誌を借りその漫画の最終ページをめくる。
小村川忠之はぐっと目を閉じそのまま動かなくなった。
「小村川さん…どうなさいました?」

パタンと雑誌を閉じふうと深い溜息。
「俺はいったい何をしたんでしょうか?」

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