【ぬいぐるみの恩返し】2「計画」
ぼくはこの家を出て、新しい家族のところに行くことにした。新しい家族を見つけるためには、外へ出て、他の人間に出会わなければならない。でも、どうやって?
ぼくはぬいぐるみだ。ぬいぐるみは動けないって人間は思っているけど、本当は動けないことはない。ただ、人間の前では動かないようにしている。これは生まれた工場を出るときに、約束させられたんだ。ぬいぐるみが動くことがばれたら、人間に働かされるらしい。だから、ぬいぐるみはみんな動けないふりをしている。それに、動けるといってもとても遅いし、力もないからドアなんて開けられない。だから、ぬいぐるみの移動は人間に運ばせるのが一番だ。
でも困ったことに、人間にはぬいぐるみの声が聞こえない。だから、「外に連れて行って!」と叫んでも無駄だ。
ぼくは考えた。どうすれば外へ出られるか。どうすれば他の人間に拾ってもらえるか。どうすれば、子どものいる家族のところへ行けるか。ぼくは一日中考えた。他にすることもないから、一日中考えていられる。そして、ついに計画が完成した。
ぼくの計画はこうだ。
ジェニファーはスーパーへ行くとき、クローゼットからエコバッグを取り出して持って行く。大きなしっかりしたバッグで、ぼくが余裕で入る大きさだ。ぼくはそのエコバッグに潜り込む。次にスーパーへ行くとき、ジェニファーはぼくに気づかず、そのエコバッグを持って行く。ジェニファーがスーパーに入ったら、ぼくは全身の力をふり絞ってエコバッグから出て、床に落ちる。ぼくは軽いから落ちても音がしない。ジェニファーはぼくのことには気づかずに、そのまま行ってしまうだろう。
やがて他のお客さんがぼくを見つけて、店員さんに渡すだろう。店はしばらくぼくを預かる。ぼくはお客さんの「落とし物」だから、大切に保管されるはずだ。でも、何日たっても戻って来なければ、きっと店の誰かがぼくを連れて帰る。その「誰か」は、子どもがいる人に違いない。
こうしてぼくは新しい家族、子どものいる家族の元に行くんだ。我ながら、なかなかいい計画だ。
ぼくはもうすでに、子どもに抱っこされたり、子どもと一緒に絵本を読んだりしている自分を想像して、ワクワクしてきた。
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