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【ぬいぐるみの恩返し】5「女神」

 もうだめだ。終わりだ。

 ぼくがそう思った時、誰かがぼくを持ち上げた。女の人だ。ぼくが見ていた方と反対から歩いて来たらしい。女の人はぼくの顔を見た。体もあちこちから見た。ぼくの体をあちこち触る。良かった。きっと助けてくれる。そう思ったのに、女の人はぼくをゴミ箱の上の洗面器に戻してしまった。

 え、拾ってくれないの? ぼくはまだきれいだよ。拾ってよ、今すぐ!

 女の人はズボンのポケットからスマホを取り出し、ぼくの写真を撮った。ぼくが写真を撮られたのはこれが初めてだ。写真を撮ってもらうことは、ぼくの夢の一つだった。でも、ゴミ箱の上にいる写真なんて、嫌だ。それに、今は写真どころじゃない。ゴミ収集車はもう目の前だ。

 女の人はゴミ収集車をちらりと見ると、急いでぼくをトートバッグに入れ、その場を去った。

 助かった!!!

 ぼくを助けてくれたのはおばさんだ。眼鏡をかけていて、化粧はしていない。髪は白髪交じりでボサボサだ。首回りが伸びた黒いTシャツを着ている。若くもないし、美人でもない。

 でも、この時のぼくには、このおばさんが女神に見えた。


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