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【ぬいぐるみの恩返し】11「ガーの写真」

 次の日、佳乃さんがぼくを抱き上げ、ぼくに写真を見せた。

 壁にガーの写真がたくさんはってある。どれも旅行の写真だ。ガーは16年も佳乃さんと一緒にいるから、きっと佳乃さんと一緒にたくさん旅行したのだろう。大仏の前で頭にカラフルな丸い物を載せているガー。「雷門」と書かれた大きな赤い提灯の前で腕組みをしているガー。ペンギンのぬいぐるみと一緒に写っているのもある。このぬいぐるみも佳乃さんのだろうか? まだ会ってないけど。

 「プトラも行きたい?」と佳乃さんが言った。
 もちろん行きたい。ぼくも佳乃さんと一緒にたくさん旅行したい。佳乃さんはぼくを机に寝かせると、定規でぼくの身長を測ってつぶやいた。
 「30センチ。やっぱり大きすぎるかなあ・・・。」

 大きすぎる? たしかに、この家のぬいぐるみの中ではぼくが一番大きい。でも、ぼくは自分のことを大きいと思ったことはない。店で売られていた時、ぼくより大きいぬいぐるみがたくさんいたからだ。ぼくは見たことがないけれど、人間と同じくらい大きいぬいぐるみもいるらしい。

 大きいのは良くないのかな? ぱん田くらい小さければ、ポケットに入れて連れ歩ける。でも、ぼくは軽いし、旅行に連れて行けない大きさじゃないはずだ。この間もお出かけに連れて行ってくれたじゃないか。ぼくも旅行に行きたい。佳乃さん、ぼくを旅行に連れて行って!
 
 ガーが言った。
 「その旅行は佳乃と一緒に行ったんじゃないよ。ガーが一人で行ったんだ」
 一人で? ぬいぐるみが? 

 「日本にはぬいぐるみのための旅行会社があるんだよ。旅行会社の人間がぬいぐるみを連れて、旅行する。写真もたくさん撮ってくれる。持ち主は旅行の様子をSNSで見ることができるんだ。ガーはその会社のツアーに毎年参加してる。そこに貼ってあるのは東京ツアーと鎌倉ツアーの写真だけど、他にも横浜ツアーとか神戸ツアーとかにも参加したことがある。その会社のツアーには日本だけじゃなくて、他の国からもぬいぐるみが参加する。だから、ガーは日本にも他の国にも友達が大勢いるんだ。」

 旅行ができてぬいぐるみの友達もできるなんて、最高だ。ぼくも行きたい! ぼくもツアーに参加する!

 「お前は無理だよ。佳乃が旅行に行かせるのはガーだけだ。ガーは佳乃のお気に入りだからな。それに、団体旅行だから、大きいぬいぐるみがいると旅行会社の人間が大変なんだよ。身長が20センチぐらいまでじゃないと参加できないんだ。」

 そうなのか。佳乃さんが言ったのは、ツアーに参加させるには大きすぎるということか。小さくなりたいな。小さければ、旅行に行かせてもらえるだろう。そうつぶやくと、ぱん田が言った。
 「ボクは大きくなりたいけどね。ボクは小さすぎて、旅行に行かせてもらえないんだよ。他のぬいぐるみと一緒に写真を撮るには、ガーの大きさがちょうどいいんだって。」

 そうなのか。小さすぎてもだめなのか。体の大きさなんて、頑張ってもどうにもできない。いや、体の大きさだけじゃない。ぬいぐるみには頑張ってもどうにもできないことばかりだ。

 ぬいぐるみのためのツアー。行きたくてたまらないけど、ぼくは行けそうにない。


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