【ぬいぐるみの恩返し】10「新しい家族」
その日の夜、ぼくはぱん田の隣に寝かされた。ベッドで寝るのは初めてだ。持ち主と一緒にベッドで寝ることも、ぼくの夢の一つだった。
ぱん田がぼくの新しい家族のことを教えてくれた。
佳乃さんは日本人で、マレーシア人に日本語を教えている。男の人は佳乃さんのご主人。ご主人は中華系マレーシア人だ。二人には子どもがいないと聞いて、ぼくはがっかりした。この家で子どもを見ていないから、たぶんそうだろうと思ったんだけど。
佳乃さんが子どものようにかわいがっているのが猫だ。茶色のオス猫、2歳。佳乃さんは「ふうちゃん」と呼んでいるけど、本当の名前は「風太郎」らしい。しょっちゅう家の裏で近所の猫とけんかをしているということだ。
それからぬいぐるみ。佳乃さんはぬいぐるみが好きだけど、この家のぬいぐるみは多くない。
まずは、ぱん田。佳乃さんがパソコンやスマホを使う時、ぱん田はいつも画面の前に置かれる。ぱん田が小さくて、邪魔にならないからだろう。ぱん田は佳乃さんと一緒にSNSをしたり、ニュースや動画、オンラインセミナーを見たりする。佳乃さんが紙の本を読むときにも、一緒に読む。「最近は佳乃さんと一緒に児童文学を読んでるよ。そこにある『星の王子さま』も良かったよ。」とぱん田は言った。
ドラちゃんはたいていクローゼットに入っているということだ。クローゼットの中なんて真っ暗で、ぼくは嫌いだった。いつも外に出たいと思っていた。でも、ドラちゃんはクローゼットの中が好きらしい。暗い方が落ち着くそうだ。それに、佳乃さんのクローゼットは古くて、戸の隙間から光が少し差し込む。それがいいらしい。
「それから、今ベッドの反対側にいるのがガーだよ。ガー、自己紹介する?」
ガーと呼ばれたのはオレンジ色の猫のぬいぐるみだ。ベッドの反対側からガーが話す。ぼくたちとガーの間で佳乃さんが寝ているけど、人間にはぬいぐるみの声が聞こえないから大丈夫だ。
「お前は拾われたんだろ? ぱん田とドラちゃんは友達からのプレゼントで、リビングにいるドラゴンは佳乃の旦那さんが買った。佳乃が自分で選んで買ったのは、ガーだけだ。」
ガーは自分のことを「ガー」と呼ぶ。
「ガーは寝るときはもちろん佳乃と一緒だし、食事のときもダイニングテーブルに同席する。もちろん食べられないけど、たまには食べるふりをさせてもらうんだ。佳乃が外出する時は、ガーを連れて行く。今日のお散歩にはたまたま行かなかっただけだ。ガーのシャツは佳乃の手作りだよ。他にも佳乃の手作りのシャツを4枚持ってる。ガーは16年前からずっと佳乃と一緒にいるんだ。」
16年も愛され続けているなんて、うらやましい限りだ。ぼくもこれからずっと佳乃さんにかわいがってもらえるだろうか。
ガーは言った。
「佳乃のお気に入りはガーだよ。お前は同情されて拾われただけだろ。どうせすぐに飽きて遊んでもらえなくなるよ。」
そうなのかな。ぼくは少し不安になった。
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