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来たるメタバース時代に向けて、Snapchatが持つ大きな可能性👻 Weekly 「黎明」 -The Rise of Neo Digital Native- #4

決算から見るSnapchatの来し方行く末

直近開催された第3四半期業績説明会で、CEOのEvan Spiegel氏は、SnapのDAU(デイリーアクティブユーザー)が3億人の大台を突破したと発表しました📈

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皆さんの中には一時期そんなアプリ流行ってたな〜と思う方も少なくないかもしれませんが、実はここ数年で、Snapは北米は勿論、グローバルのZ世代にとって最も愛されるプロダクトの一つになりつつあります

上場直後はかなり調子が落ち込む時期もありましたが、その後シュピーゲル氏のリーダーシップの元、堅実な技術開発や機能追加・買収などにより着実にユーザーの信頼を回復してきました。

今回のnoteでは、日本ではここ数年忘れられつつあった(あくまで自分の主観ですが)スナチャが、実はめっちゃ可能性に満ち溢れてそう!(特にARメタバース文脈で)ということを皆さんに共有できればと思います🙌

(AR×メタバース文脈が特に気になる方は、②コミュニケーションと③カメラの項を先に読まれることをお勧めします💁‍♂️ )

✔︎決算サマリー

まずは現状を把握するため、今回の決算のまとめです📃

🗝 2021 Q3決算 Summary & Key Highlights
👻 DAU:3.06億人(前年同期比23%増)
👻 ARPU:$3.49(前年同期比28%増)
👻 売上:$1.06B(前年同期比57%増)
👻 ARレンズDAU:2億人
👻 Spotlight(短尺動画)コンテンツ投稿数:Q2比100%増加
👻 1日当たりの平均アプリ起動回数:30回


✔︎そもそもスナチャとは?

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Snapchatとは、スタンフォード大学の学生だったEvan Spiegel、Bobby Murphy、Reggie Brownの3人によって2011年に開発された、カメラとインスタントメッセージング機能を組み合わせたアプリです。大きな特徴としては、写真やメッセージが一定時間で強制的に消えるような仕組みになっている点が挙げられます。
ただ、後ほど詳説しますが、最近は単なるメッセージ・SNSツールから、フィルターカメラ・動画・AR・地図機能などを組み合わせた総合エンタメプラットフォームへと次第に変貌を遂げて行っています(SNAPは自らのことをカメラカンパニーと表現しています。)。
また、その気軽さから、USをはじめとしてZ世代から圧倒的な支持を得ているのもSnapchatの特徴です。

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(Tiktokの追い上げも凄いですね👀)

✔︎今後の注力ポイントと課題

今後のスナチャの継続的な成長には、SNSビジネスで最重要と言われる、DAUとARPUを伸ばし続けていく必要があります。そのためには、ユーザーからの支持をしっかり獲得し、ライバルとの過処分時間の争奪戦に勝ち残らなくてはなりません。
スナチャは以下の5つのプラットフォームをコアとして、ユーザー体験を向上させようとしています。
①マップ 
②コミュニケーション
③カメラ(&AR)
④ストーリーズ
⑤Spotlight
今回のnoteではこれら全てを俯瞰的に解説し、個人的な考えを共有できればと思います。

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①マップ:Snap Map / Zenly

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スナチャには友達と位置情報を共有できたり、その他のユーザーが訪れた様々なスポットの評価投稿や"今何が起きているか"が分かるストーリーズが散りばめられた「Snap Map」というパーソナライズマップがあります🗺
毎月約2億5000万人以上のユーザーが利用していて、現在3000万件以上のコンテンツが溜まってきているとのことですが、ここが起点となり友達に場所やコンテンツの情報を共有したり、予約等ができるようになっています。
最近ではLayersという新機能が追加され、近場のパートナー主催のイベントや評判の良いレストラン等の施設を見つけることもできるようになっているとのこと。
加えて、同じマップ機能を軸とした日本でも人気のZenlyはスナチャの傘下にあります(2017年に200億円超で買収)。Zenlyは特に日本・台湾・インドネシアなどのアジア圏とロシアなどで人気で、コロナ禍での逆風を受けながらも2020年時点で200万人以上のDAUを獲得しています。
Zenlyとしてはスナチャの傘下に入ったことでマネタイズを気にせずユーザーニーズにフォーカスした独立性を保ったプロダクト作りができ、スナチャ側としては様々な地域のユーザーフィードバックが得られる実験場のような存在だということでWin-Winの関係なのかもしれません。上記の地図のパーソナライズ化という発想もZenlyでの成功からSnap Mapにもたらされた可能性もありそうです。
実はSnap MapとZenlyはまだマネタイズがほぼ開始されていませんが、地図広告によるマネタイズは今後重要な収益の柱の一つとなる可能性を秘めています。
例えばGoogle Mapには以下のスクショのようなローカル検索広告が表示されますが、このようなマップ×広告のビジネスチャンスはかなり大きく、現在のMAUは約10億人、2023年にはマップ単体で1兆円を超える売上を叩き出すと予想されています。

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source:CNBC The Rise Of Google Maps

現在Snap MapのMAUはGoogle Mapの4分の1程なので、今後数年のうちに数千億円規模の新たな売上が見込めるかもしれません。
友達や世間のみんなが今(過去の体験も)どこで何をしているのか、どこが今一番ホットなスポットなのか、やっぱりどうしても気になっちゃう人は多いと思います。
シュピーゲル氏曰く、今はそのニーズにしっかり応えるための機能改善期とのことですが、そこでユーザーエンゲージメントを高めていくのと同時に、将来的には地域の店舗やイベント主催者と繋がり広告ビジネスを立ち上げていくことも考えているとのことで、この地図周りは大きなビジネスチャンスの1つだと思います。

②コミュニケーション:Chat / Games / Minis

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様々な機能進化が注目される昨今のスナチャですが、その根幹はやはり友達同士のコミュニケーションツールという部分といえるでしょう。
最近では友達とのチャットを開くと、「ゲーム」と「ミニ」というタブが表示されるようになっています。
こういった仕掛けを見ると、流石友達とのコミュニケーション活性化の”口実”作りが上手いなと感じます。
ゲームに関しては、もう既に日本版も意外と数が多く用意されていて、そこそこのクオリティのものが集まっている印象です。また、以前はアディダスやルイヴィトン、グッチなどがコラボゲームをリリースし、特にアディダスとコラボした野球ゲームでは、実際にゲーム内でアディダスのスパイクを購入できるような仕組みも導入されていました。

ミニに関して、これはテンセントのWeChatや最近ではLINEでもお馴染みのミニアプリを意識して作られた機能だと思いますが、こちらも今後更に普及していくような気がしています。
上記の画像にもあるように、ユーザー同士のコミュニケーションの習慣部分を抑えていると、まずアプリの起動回数が単純に多くなりますし(スナチャユーザーは平均1日30回アプリを開く)、そしてその分マネタイズの機会も増加します。
例えば友達との飲み会に行った時の割り勘にチャット×送金(決済)機能があると便利だったり、誕生日にギフトを送りあったり、旅行予約等々、様々な価値提供のチャンスがあるでしょう。
WeChatはコミュニケーションから離れた領域(下の画像を参照)までもカバーし尽くし、日常生活を全て完結させられるほどの力を持つ、スーパーアプリと呼ばれています。アメリカではこれだけ細分化しているものを、WeChat上であればアプリ内部のミニアプリで完結させられるわけです。
ミニプログラムの利点は大きく2あります。1つはインストールが不要な点。母体のアプリ内で起動承認するだけで事足ります。2つめはアカウント登録の必要がない点です。スナチャ内でも自動でアカウント情報と連携される仕組みになっています。例えばWeChatでは決済情報の入力や登録も先に済ませているので、ミニアプリ内のECで何かを購入する際にいちいち情報を追加入力するといった手間もありません。こうしたアカウント登録、クレカ登録の煩雑さは離脱ポイントになりかねませんが、ミニプログラムではこういった課題が一気に解消されます。
WeChatでは既にDAUがミニアプリだけで4億人超、1日の平均使用時間は1350秒と中国国民の生活に根付いています。

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過去のスナチャのパートナーサミットでもミニ機能が紹介されていました。

様々なサービスと連携して、アプリストアでダウンロードする必要なく、スナチャ上で起動承認するとそのままログイン情報を引き継いで使用することができるようになっています。これは上記のゲームも基本的には同じです。
例えば自分が最近使ってみたミニでは、友達と株式投資のミラートレードをして遊んだりすることができました。

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スナチャではこの2年間で2億人ものユーザーがゲームやミニを利用したとのことですが、今後もどんどん良いコンテンツが投下されていくことで裾野が広がっていきそうです。

また、スナチャでのコミュニケーションといえばあの特徴的なアニメ調のアバターが有名ですが、このデジタルアバターサービス「Bitmoji」は実は2016年にスナチャが買収したものです(当時はBitStripes)。Bitmojiとは、自分のアバターを作成できる機能で、アバターをスタンプとしてメッセージのやり取りに使ったり、地図でアバターが自分のアイコン代わりに表示したりと、スナチャ世界での自分の分身のような立ち位置になっています。実際に、Snapユーザーの70%以上がBitmojiアバターを自分のアカウントにリンクさせています。

他のサービスとスナチャの多種多様な機能を連携させることができる「Snap kit」という開発キット群があるのですが、そのひとつにBitmoji Kitというものがあり、様々なサービスにBitmojiを導入するような動きも見られます。

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最近ではBitmoji FOR GAMESという、Unityを通じてゲームメーカーや開発元がモバイル・PC・コンソールゲームにBitmojiを連携させられるような仕組みも整備されてきています。
Unityが新しいプラグインを開発して、モバイル、PC、コンソールゲームに3D Bitmojiを導入する背景には、ゲーム内でBitmojiを使用するプレイヤーは、2倍プレイ時間が増えるという実証結果も出てきているとのことです。

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(めっちゃクオリティ高い...自分のアバターを3Dでぬるぬる動かして大冒険できたらかなり愛着湧きそう)

デジタルアバターを開発している企業は世界中に数多くありますが、その中でもスナチャは、

・Bitmojiという既に一定程度ユーザーに浸透しているデジタルアイデンティティーを保有している点
・そのアバターを多くのプラットフォーム、コンテンツに横展開していける技術力を有している点

でやはり有利だなと。

自分はレディ・プレイヤー1やサマーウォーズのようなSF作品がめちゃくちゃ好きなんですが、昨今話題のこのようなメタバース空間では様々なデジタルプラットフォームやコンテンツ上で自らを表す統一的なアカウントが必要になってくる可能性が高いと言われています。この統一的なアカウントを提供できる主体はメタバース的な世界観の中でインフラとなるポテンシャルを秘めています。上述したようにスナチャのBitmojiは横断的なデジタルアイデンティティーとなり得る要素を備えているので、長期的なメタバースの文脈でも今後どのように外部サービス等に取り入れられるのか含めて、動向に注目するべきだと見ています。
今期決算のカンファレンスコールを聴いた感じでは、スナチャがスーパーアプリ化やメタバースのハブを目指しているかはまだ不透明でしたが、Z世代からこれだけ指示を得ていてエンゲージメントが高いコミュニケーションツールを押さえているとなると、恐らくシュピーゲル氏は長期的な方向性として上記のような世界観を構想しているんじゃないかと期待しています。

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source:Oh Snap! 👻 The Next Great Platform Company Everyone Forgot About - Not Boring by Packy McCormick

③カメラ&AR

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スナチャといえば「カメラカンパニー」であると創業者自ら定義していますが、ここも進化著しい領域となっています。以前はただ単に過激な写真を送りつけるために使われていた節もありますが、今では世界最高水準のAR技術までを有する企業となっています。
前回の決算で発表された数字としては以下のようなものがあります。

・1日あたり平均2億人以上のユーザーがARレンズ機能を使用
・1日あたり平均60億回以上ARレンズ機能が利用されている
20万人以上のクリエイターがLens Studio200万個ARレンズを作成
・毎月1.7億人スキャン機能を使用
・3Dアニメ風の自撮りができる「Cartoon 3D Styke Lens」が1週間で28億インプレッションを獲得

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特に自分と同世代の方々には共感してもらえるんじゃないかと思いますが、最近TikTokやインスタなどのメディアでARフィルター系の自撮りや動画を見かけることが本当に多くなった気がします。
度々プライバシーの問題も指摘されるARレンズですが、現状は上述したように多くのスナチャユーザーが毎日のようにこのレンズを使って友達とコミュニケーションしていますエンゲージメントの高いユーザーを大量に抱えているため、自社以外のARクリエイターも集まり、それが更なるUX向上に繋がるという正の循環が見られます。冒頭で現在のDAUの伸びはインド等の欧米以外の新興国での伸びが顕著だという話をしましたが、決算ではこのARレンズのバイラルがユーザー獲得に寄与しているということも言及されていました。
この「バズ」との相性の良さに関連して、これまではどちらかというとインスタのような近しい友達間でのSNSだったスナチャですが、最近追加されたTikTokライクな短尺動画プラットフォームであるSpotlightでの応用も期待できるでしょう。
さらに、今回ARクリエイターを支援するLens Studio4.0が発表されました。4.0という数字からも分かるように、ユーザー動向等の分析から、クリエイターがより才能を発揮できる環境を整えるため進化し続けています。今回は3D機能、試着機能等の最新テクノロジーが実装され、クリエイターはノーコードでこれまで以上に洗練されたLensを構築できるようになりました。

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AR体験によって更なるユーザーエンゲージメントとARPUの向上を狙うスナチャですが、直近ではARならではの体験を活かした経済圏を構築する動きが見られます。
例えば、EC機能。シュピーゲル氏曰く、ARを使ってショッピング体験の再構築を目指しているとのことです。
スナチャにはカメラで写したコンテンツや物を分析して、関連情報を瞬時に表示するScan機能というものがありますが、これがアプリ内で目立つ形で表示されるようになりました。そこに今回「Screenshop」と呼ばれる機能が追加され、ショッピング用途の性能向上が図られました。例えば友達が着ている服をスキャンすると、何百ものブランドからオススメのショッピング情報がすぐに表示されます。他にもキッチンにある食材の写真を撮影すると、その食材を使った料理のレシピが表示される機能の導入も予定されているなど、スキャン機能の展開には大きな可能性がありそうです。

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ARショッピングでは当面アパレルとアクセサリー領域に注目しているとのことですが、このジャンルのEC上での大きな課題の一つである「試着」に関しても想像以上に進歩が見られます。米国の消費者の10人に4人は、商品を見たり試したりできないことがオンラインショッピングを躊躇させる最も大きな要因であると感じていますが、小売業者やブランドがARやバーチャル試着体験をより広く普及させることでこの問題は緩和される可能性があります。
また、米国のミレニアル世代の44%は、今後1年間に洋服の買い物の大半をオンラインで行う予定だと答え、米国のスナップチャッターの49%も同様に答えています。先ほど紹介したLens Studio4.0では「TrueSize」という時計やアクセサリー向けのリストトラッキング技術が実装されました(これまであったフットトラッキング技術を補完するもの)。
このような技術によってユーザーのスナチャでのEC体験に対する信頼感・安心感を高めることができるでしょう。実際、スナチャによると買い物客の半数以上がARによって商品に対する信頼感が増したと感じているとのことです。
またARを通じた商品購買では返品がなんと25%減少しており、返品問題のような無駄も抑制できる可能性があります。
ただ、シュピーゲル氏曰く、アパレル分野に関してはまだ技術的課題があるらしく、リアルな生地の質感の表現など完全な試着体験の提供にはもう少し時間がかかるとのことです。

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ARを通じたマネタイズの動きとしてもう一つ注目しなければならないのが広告領域です。
スナチャの魅力は、一般的な画像・テキスト・動画以外も含めて、以下のような多種多様な形でユーザーに寄り添った魅力的な広告フォーマットを提供することができるという点です。

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これまで紹介してきたARレンズなどを通じて、より「体験」を通じてブランドの世界観や魅力に触れることができますし、魅力的な体験を提供すればバイラルする可能性も高まります(友達に「これ似合ってる?」と聞いてみたり、というような感じでユーザーが自ら拡散してくれる)。
実際に、ブランドがARレンズとSnap広告を組み合わせたポートフォリオアプローチを活用すると、高いROIと成果あたりのコスト削減に繋がるという事例が決算コールで紹介されていました。
例えば、世界的なスポーツストリーミングサービスであるDAZNは、ARレンズ、スナップ広告、ストーリー広告、コマーシャルを活用した総合的なキャンペーンを実施し、チャンネルの認知度向上、アプリのインストール、ストリーミングサービスの契約促進を図りました。結果的に数百万人のユニークなスナチャユーザーにリーチし、これによってインストール数と購読数が増加したとのことです。
また、GUCCIとのコラボでは、ARレンズのフットトラッキング機能により、実際にスニーカーを履いているように見える試着体験を提供しました。これにより平均24秒間ユーザーをレンズに注目させ、1800万人のユーザーにリーチすることに成功しました。

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そして、企業がスナチャアプリ内にブランドのプロフィール拠点を作成できるようにもなりました。ユーザーは各企業が「Shop」機能を通じて提供する販売アイテムをはじめ、Lenses、Highlights、 Storiesなどのコンテンツをいつでも見ることができるようになります。
直近では、FarfetchやPRADAがそれぞれのブランドプロフィールを開設していますが、ここではユーザーがインカメで全身を写すと、身体データを3Dで計測する「3D Body Mesh」が作動し、アイテムの試着・購入をすることができます。先程のGUCCI等の例は身体の一部をトラッキングするものでしたが、顔や手足のパーツだけでなく、遂に全身+動きをカバーできるようになってきています。

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若干広告からは話がそれますが、これが何故重要だと考えているかというと、仮想現実世界(メタバース)に紐づいたEC購買体験をスナチャが抑えられるポテンシャルを秘めているからです。
まず、全身をフィルターを通じて表現できるようになると、上述したBitmojiのようなデジタルアイデンティティとなるアバターの使い方の幅が広がります。例えば自分のダンスの動きにBitmojiのフィルターを重ねて現実世界に投影してみたり、実際に身に付けている提携先の服や靴、アクセサリーなどを仮想現実世界に投影できるようになる(特許申請済み)など、リアルとヴァーチャルでのコンテンツや所有物の同期ができるようになるかもしれません。
例えば、プラダのようなスナチャとパートナーシップを結んだリアルの店舗で購買した商品が、ヴァーチャルのBitmojiにも共有されるという体験が可能になります(ヴァーチャルでの購買体験がリアルに反映されるという逆のパターンもまた然り)。このような体験を通じて、アプリ内でのブランドとユーザーとの繋がりをより強めていくことで、スポンサーシップやアプリ内課金でより多くの収益を得ることができます。また、アバターグッズ購買のプラットフォームのようなポジションを取れるかもしれません。これは中長期的にかなり面白そうな新しいマネタイズポイントだと思っています。
メタバース世界でのデジタルアイデンティティーであるBitmojiとそのアバターに紐づく購買体験を支える技術と信頼を抱えるスナチャはやはりこの領域で大きな可能性を秘めている稀有な存在だと改めて感じています。

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話を戻して、AR×広告領域に関してもう一つ面白そうなのが、ARクリエイターと広告主を繋げるSnap’s Creator Marketplaceです。AR広告を上手く使えばROIが高まると上述しましたが、そのノウハウを自社で備えている企業はそこまで多くないでしょう。ARクリエイティブ作成のリソース・ノウハウが無くても、このマケプレを使用すればトップARクリエイターの力を借りることができます。このようにAR活用のハードルを下げることで、上記のような世界観の実現を早めることに繋がるかもしれません。将来的にはAR以外のクリエイターにも拡大していけそうです。

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最後に、今年のパートナーサミットで初のAR搭載型グラス「Spectacles」の第4世代がクリエイター向けに発表されました。
MicrosoftのARヘッドセット HoloLens 2(566g)より軽く、2台のRGBカメラ、4つの内蔵マイク、2つのステレオスピーカー、タッチパッドを搭載しています。

Q2の決算コールの中でシュピーゲル氏は、

「Spectaclesは、コンピューティングを世界に重ねるという当社の目標に向けた新たな一歩となる。」

と述べています。世界に重ねるという言い回しからも分かるように、スナチャはヴァーチャル世界を一から作る(例えばFortniteのような)というよりも、リアルにヴァーチャルをオーバーレイさせるようなイメージを持っているのではないかと思います(VRというよりAR)。
最近ではこのタイプのメタバース的概念は「現実空間内包型」「ミラーワールド」と呼称されています。
これと関連して、このカメラに関する項目の一番上の画像に「LOCAL LENSES」という機能がありますが、これは昨年発表されたもので、ユーザーが現実世界に対してAR上で様々な表現をして投影できるようなものです。そしてそのAR上の投稿はその場所を訪れた他のスナチャユーザーも見ることができます。

この動画にもあるように、AR上に現実世界を作り出すためには、ユーザーの撮影した写真や動画、新しいMap機能から得られるデータ等を活用しながら3Dマップを作っていく必要がありますが、スナチャはそれらのデータをある程度自社で賄える可能性があります。つまりスナチャは、今後単にカメラファーストのメッセージングアプリを作っていくのではなく、空間情報のオペレーティングシステム、つまり上述の、「Mirrorworld」を構築しているのではないかと目されています。
スナチャでは、このメタバース的世界でのインフラとなるウェアラブルデバイスとしてSpectaclesを位置付けているのではないかと推察することもできるでしょう。

この記事の中では、今後スナチャのAR向けデバイスがFacebook(Meta)のOculusは勿論、AppleのiPhoneやGoogleのAndroidともライバルとなる可能性も示唆されています。メタバース的な世界観が実現すると、既存のコミュニケーションツールがアップデートされてしまう可能性があるため、以下に基幹部分を抑えられるかが肝要になってくるからです。

④ストーリー:STORIES/DISCOVER

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今ではストーリーといったらインスタを真っ先に思い浮かべる方も少なくないのではないでしょうか。しかし、この「一定期間内に消える縦型動画」という斬新な発想は、スナチャ側が考案し先に導入していたものを後からインスタが上手くトレースした、というのが通説となっています。検索、共有機能の作り込みの甘さや動画の質の問題など様々な面で遅れをとってしまったのがその原因ではないかと言われていますが、このストーリー機能は現在でもスナチャ内で友達同士でのコミュニケーションに欠かせないものとしてユーザーに利用されています。
ただ、この約2年間のコロナ禍によってストーリーの使用頻度に一定程度の減少が見られています。
シュピーゲル氏曰く、Snap全体のコンテンツ試聴時間はコロナ禍で増加したが、ストーリーの投稿量・視聴時間は前年比で減少していたとのことです。しかしこの傾向に関しては一時的なものでありそこまで懸念しておらず、リオープニングの流れに乗ってまた上昇基調に戻るのではと楽観的に語られていました。
個人的にはストーリーの投稿頻度は普段の生活の移動距離とある程度相関がある気がしています(自分も在宅ワーク主体の頃は著しく投稿頻度が落ちていました)。
スナチャ内のストーリータブ内では、上から友達のストーリー、そしてその下に「ディスカバー」が設置されています。このディスカバーでは、企業・ブランドやSnapスター、コミュニティ等からの動画(スポンサー付きのものも)が表示されています。

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動画を見て気に入ったらそのアカウントを登録することが可能で、登録済みのアカウントのコンテンツは友達のストーリーのすぐ近くに表示されるようになります。またその動画コンテンツを友達にシェアすることも可能で、企業やブランドは自分たちをより身近に感じてもらいやすくなります。
Q2時点では9社の大手パートナーがアメリカだけで3000万人以上の新規ユーザーにリーチすることに成功し、海外のディスカバーチャンネルも177個増加したとのことです。特にインドでのコンテンツの総視聴時間は前年同期比150%増加しています。

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このディスカバーからはスナチャが高クオリティな動画コンテンツの制作、収集にも力を入れていることが伺えます。
実際に見てみると、基本的にはteenが好きそうな刺激強めのコンテンツが多いのですが、中には下の画像のようなクオリティの高いオリジナル動画コンテンツも見られます。前四半期では8つのオリジナル作品が新たに追加されました。

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スナチャによると、毎月5千万ものユーザーがこのオリジナルコンテンツを見ているとのことです。
ただ、このディスカバーコンテンツには課題もあり、よりユーザーからの注目を集めるために一部メディアや投稿者による、性的・過激なコンテンツも少なくなく、直近では親による視聴コンテンツのコントロール機能も追加されています。
このような課題はこの後紹介するSpotlightのような短尺動画プラットフォームでも度々問題視されますが、膨大なコンテンツの中でユーザーの注目を集めるためにサムネを含めてより過激なものが選択されているという根本的な問題があると思います。そういったコンテンツが増えてしまえばまともなコンテンツを提供しているブランド等にとってはブランドの毀損になってしまうため、この傾向が改善されなければ「悪貨は良貨を駆逐する」というような悪循環に陥ってしまう可能性もあるかもしれません。

⑤Spotlight

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Spotlightとは、スナチャが昨年11月に発表した新機能で、Tiktokによく似た短尺動画プラットフォームの名称です。
現在は最大60秒の短尺動画が投稿可能で、スナチャ内の様々なARフィルターを使用したり、その他のクリエイティブ機能を活用することで誰でも動画の作成・投稿を行うことができます。
Q2時点でDAUは前四半期比で49%増加。Q3時点では、世界150カ国まで拡大し、1日あたりの平均コンテンツ投稿数はQ2の倍になっています。

zストーリー機能を生み出し、自らをカメラカンパニーと称するスナチャですが、何故今このタイミングで短尺動画機能をリリースしたのでしょうか。
様々な見方ができるとは思いますが、ひとえにTiktokの爆発的な成長への強い危機感がこのような経営上の大きな意思決定を生んだのではないかと思っています。
Tiktokのグローバルでの急成長は周知の事実かと思いますが、改めて直近のファクトを振り返ってみると、Facebookを抜いて世界で最もダウンロードされたアプリとなり米英においては1ユーザーあたりの平均動画再生時間がYoutubeを超えています
この背後には、静的なテキスト、画像から動画へ、更に長尺動画から短尺動画へという情報取得方法に関する2つのマクロトレンドがあるのではないかと考えています。
特にこのトレンドはこれまでの固定観念、習慣の縛りが弱い若年層において顕著で、そのトレンドの申し子のような存在がTiktokなのではないかと思います。
スナチャからしてみると、自分たちのターゲットユーザーであるZ世代の可処分時間を考えたときに、Tiktokという存在はかなり厄介な競合として写っているでしょう。幸いスナチャはTiktokがバズる以前から若年層のコミュニケーションレイヤーをある程度抑えているので、ユーザーを喰い合うような状況(どちらかが成長したらもう一方が衰退する状態)にはなっていませんが、今後Tiktokが圧倒的なユーザー支持を基に様々な施策を打ってくることは容易に想像がつきます。
また、Youtube ShortsやInsta Reelsなど、大手各社も次々に短尺動画プラットフォームをローンチしている中で、スナチャとしてもこれまでに培われてきた若年層への知見とカメラ技術を基に上記のトレンドを逃さないように進出を決めたのではないかというのが個人的な仮説です。
このようなマクロトレンドがある中で、プラットフォームは優秀なクリエイターに選ばれる立場になりつつあります。そのため、各プラットフォームではクリエイターファンドを作り、直接金銭的なメリットを提示することで優秀なクリエイターに自社プラットフォームにより労力を割いてもらおうとしています。クリエイターと視聴者双方にとって優先度の高い動画プラットフォームとなれれば、広告主からみた魅力度も高まるのでどの企業も抜きん出ようと必死です。
スナチャのクリエイターファンドでは当初毎日1億円がクリエイターに還元されていましたが、投稿動画内容の偏り(賞金を貰っているクリエイターの動画をコピーする人が続出した)など様々な理由から現在ではこの還元内容は修正されています(修正前時点で5,400人以上のクリエイターが合計で1億3,000万ドル以上を獲得しました)。それにより別のプラットフォームに移籍してしまったクリエイターも少なくないとのことです。
直近では、投げ銭やクリエイターマーケットプレイス機能の活用も進みつつあり、上述のように視聴時間などの各指標はある程度の成長を見せています。ただ、他先行プラットフォームと比較すると、クリエイティブツールの充実によるコンテンツの作りやすさ、アルゴリズムの正確性、クリエイターの質と量など多くの面で遅れをとっている印象は否めません。これまで蓄積してきた若者世代への知見とAR等の技術力を駆使して、このマクロトレンドをどう乗りこなしていくのか、個人的にかなり注目しているポイントです。

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✔︎ Revenge of Snapchat👻

冒頭でも述べたように、2017年の上場前後ではスナチャの将来性を危惧する声が多く、個人的にもこの時期辺りで使わなくなってしまいました。
2018年にはトップインフルエンサーのKylie Jennerが「もう誰もスナチャ使ってないの...?」とツイートし一時株価が暴落しました。

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冒頭のユーザー数のグラフを見ても2018年頃は停滞してるのが分かります。
しかし、そのような危機的状況において、ユーザーの声に耳を傾けた冷静な軌道修正、一方で今回紹介してきた野心的な機能追加、買収施策が奏功し、DAUはグローバルに上昇基調が復活してきています。

ただ、直近では大きく2つの新たな課題が生じてきていることが最新のQ3決算から読み取れます。

一つはコロナ禍特有の問題で、広告主のニーズに変化が出てきてしまっている点です。
パンデミックの影響はまだ世界中で続いており、特にサプライチェーンと労働力の不安定化は依然解消されていません。広告主側としては新規で予算を注ぎ込み、新しい需要を生み出すインセンティブが弱くなっていて、マーケティング費を削減している可能性があるとコール内で語られています。

もう一点は、アンチトラッキングというマクロトレンドによるものです。
ここ数年、個人のプライバシーがITビジネス界でも論点となり、EUのGDPRやカリフォルニア州のCCPA法案を筆頭に、世界的に個人情報保護の動きが進んでいます。
周知のように、今やユーザーの個人情報がデジタル上で大きなビジネスを生み出す原動力になっています。もちろんメリットもある一方で、大手IT企業の保有する個人情報が、2016年の米大統領選挙のような国家の重大な安全保障に関わってくる形で悪用される事例も出てきてしまっています。
個人情報というデータが使い方によっては国家間の政治、経済に大きな影響を与えるほどのパワーを持っている時代に私たちは生きているといえますし、今後もその影響力は増していくでしょう。
そうした潮流の中、グローバルで、個人情報の保護は基本的人権であるという認識が高まってきています。

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今年Appleが実施したiOS14.5のアップデートの中で、広告トラッキングの許諾は、ATT (AppTrackingTransparency)システムでユーザーにIDFA(Identifier for Advertisers)の追跡許可を求めることがアプリに義務づけられました。IDFA取得に関するこの重大な変更により、Snapにおいても広告ビジネスに混乱が見られるとシュピーゲル氏は決算コールで伝えています。
iOSアップデート後の広告効果測定ソリューションでは、広告キャンペーンの詳細な測定・管理が難しく、広告主のROI向上に貢献することが困難になっているとのことです。以上の2点が広告収益等の誤算を生み、収益やEPSは市場予測を下回る結果となりました。今後のガインダンスでも控えめな見通しが示されていて、結果として、決算後Snapの株価は20%以上暴落してしまいました。

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ただ、上記のトレンドによってAR分野のデータ及び開発力、ユーザー成長率(若者からの厚い支持)などのアセットが失われているわけではありません。中長期的な展望としては、本記事で解説してきたカメラ・AR分野を筆頭とした各5分野の施策を押し占めることで、ミラーワールド世界のARプラットフォーマーとして最重要企業の一つとなる可能性を秘めている稀有な企業だと考えています。

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今年で創業10周年となるSnap。当初、簡単なチャットとカメラ機能のみのSNSだったサービスが、現在では

✔️地図情報から、その場所での流行や友達たちの動きやクチコミを把握し🗺
✔️ミニアプリでチャット体験が進化。Bitmojiで自分のアバターを作り👻
✔️多様なARレンズで友達と遊んだり、憧れのブランドを試着してみたり📸
✔️ストーリーで友達にシェアしてもらったオリジナルドラマを観てみたり📺
✔️Spotlightに友達と動画投稿してみて気軽にクリエイターになってみたり💃

ユーザー視点で一部主要機能を抜粋しただけでも10年でこれだけのことができるようになりました。

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(創業から10年間のイノベーションとDAU推移)


今後に関して、これまで蓄積してきた若者からの信頼を損なわないようマネタイズを行いつつ成長率を伸ばし続けられるのか。苛烈な可処分時間の奪い合いの中でユーザーをどれだけ魅了し続けられるか...
厳しい道のりになるかもしれませんが、解説してきたマクロトレンドに対し、Snapが、Evan Spiegel氏がどのような舵取りをしていくのか、引き続き1ユーザーとして注目していきたいと思います。

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(創業期のEvan SpiegelとBobby Murphy.)




📣お知らせ

直近の調達・上場・M&Aしたスタートアップの中で個人的に気になった企業100社をリストアップしたデータベースを作成しました!
個人的な趣味でC向け(特にエンタメ、ゲーム、Fintech、Crypto、EC )企業が多めです🛒
もしご興味ある方がいましたら下記のツイートをRT・いいねしていただければDMで共有いたします🤝


ではまた次の黎明でお会いしましょう!!👋


−連載シリーズタイトル「黎明」の由来–
この「黎明」というタイトルは、数年前、自分が学生時代に取り組んでいた若年層向けのスタートアップコミュニティの名前を引き継いでいます。
「夜明け」「新しい事柄が始まろうとすること。また、その時。」という意味合いに魅かれて使っていた名称なのですが、この連載を読んでくださった方々にとって、小さなことでも何かのきっかけとなるような情報や意見の発信をしていければと思い名付けました。

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