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愛や勇気のヌルい話で人生を肯定されてたまるか『恐怖の構造』

一応、最近読んだ本の書評です?
なぜかクエスチョンマーク付き・・。

この記事のタイトルとは、一見全然関係のないように見える本の紹介、なのだが、その本に出てくる著者の言葉なのであった。

記事タイトルと画像が合ってないぞ、ツッコみたい人もどうぞお付き合いください。

『恐怖の構造』平山夢明 (幻冬舎新書)

著者の平山夢明氏は、ミステリー小説のカテゴリーにも入っていますが、恐怖小説、ホラー小説などを書いている作家さんです。

この本「恐怖の構造」は、小説ではなくて、「恐怖」に関する考察を書いた分析本のような構成になっています。
終盤は、著者と精神科医の春日武彦氏との対談も収録されています。

著者は恐怖モノの小説を書くだけあって、ホラー映画、小説、漫画などが、子供の頃から大好きな人間。

世の中には、ホラーが苦手な人と好きな人がいますが、その差は何なのか?恐怖と不安の違いは何か、などについて考察されています。

ホラー嫌いとホラー好きな人の違いは何か?

ホラーが嫌いな人とホラー好きな人の差は、基本的に「人生がどれほど絶望的か」なのではないか、というのが著者の解釈です。

ホラー嫌いは、悩みを健全な形で、前向きに解決できるタイプ。
おいしいものを食べたり、おしゃべりしたりして、フラストレーションを発散させることができる人です。
こういう人は、恐怖や残酷は日常の幸福を台無しにする存在と考えて嫌悪するのではないだろうか、という分析です。

一方で、現実に絶望している人にとっては、そのような低刺激のストレス発散方法は効果がありません。
ケーキを食べたくらいでは解消できないのです。
こういう場合、過剰なほど悲惨な人間を目撃すると、胸のつかえがちょっと楽になる、という効果が(恐怖には)あるのではないか、とのこと。

この理論は、著者の子供時代の経験に基づきます。
ここで、この記事のタイトルにつながります。

僕は子供時代にホラー映画や怪奇漫画に触れることで、嫌な日常をいっとき忘れられました。生半可な愛を謳った映画や勇気をくれる漫画は小指の先ほども役に立たず、かえって「こんなヌルいもので人生を肯定されてたまるか」という気分になったんです。

『恐怖の構造』平山夢明

本の序盤で出てくる文章なのですが、いきなり心の琴線に触れてきたフレーズだったので、記事、そしてタイトルにまでしてしまいました。

恐怖と不安の違いとは

この本では、恐怖と不安の違いについても書かれています。

恐怖と不安は別もので、「恐怖」と思っているものは、実は「不安」のほうが多いのではないか、という説。

「恐怖」というのは、何かを恐れるストレートな感情なので、戦うか逃げるか、などの対処が可能です。
○○恐怖症とかであれば、それを避ければいいわけで、日常生活にさほど支障を与えずに暮らすことができます。

しかし、「不安」は厄介で、恐怖の対象がはっきりしていないため、四六時中避けることができません。
常に「~かもしれない」「~したらどうしよう」というおびえた状態が「不安」なのです。

若者にホラー好きが多い理由

ホラー好きは若者が多い理由もそのへんにあり、若い人ほど将来に対して、ネガティブな意味での「未知の可能性」があるから、と言います。

若者の未知の可能性というと、とてもポジティブに聞こえますが、同時に何もかもがうまくいかない可能性も秘めています。
しかも、その対処方法がはっきりしないため、常に不安と隣り合わせになっています。

中高年や高齢者は、すでに人生の大部分を過ぎているので、恐怖の対象は「死」や「病気」といった具体的なものなのですね。

一方で、若者は将来への不安が抽象的すぎて漠然としている。
その不安の解消方法として、ホラーを好むのではないか、未知や無知に対して備えておきたいという欲求があるのではないか、という考察です。

もちろんホラーが嫌いな若者も多いでしょうが、おもしろい解釈だなと思います。

私は基本的にホラーが嫌いですが・・

私は基本的にホラーは嫌いという自覚があります。
決して、好んで見ようとは思いません。

しかし、過去を振り返ってみると、意外とホラー映画を見ていたり、ホラー小説を読んでいたり・・ということに気が付いて個人的ホラーでした。

書籍『恐怖の構造』には、数々のホラー映画や小説が登場します。
よくある作品レビューのような形ではなく、文章の中にズラズラと登場するので、高評価なのか、ダメ出ししているのかを注意して読まないといけません。

少し意外だったのは、『ゴッドファーザー』や『タクシードライバー』も恐怖映画の1つとして解説されていたこと。
そういう見方もあるのか、という気付きもありました。

『エクソシスト』『シャイニング』『羊たちの沈黙』『ゾンビ』など、メジャーな作品も当然出てくるし、古典的なマイナー映画も登場します。

この本を読んでいて、「あ、これ見たわ」「これ分かる」という作品が多かったり、「これ見てみたいな」と思う自分がいておりましたわ。

若い頃、日本映画の『リング』『らせん』も、見たくもないのに劇場に見に行ったし(行くなや)、小説でも小林泰三、澤村伊智、三津田信三、恒川光太郎、飴村行、乙一などのホラー小説を読んでる…と思い出しました。
ミステリー小説のカテゴリーかと思いきや、ホラー作家ですね。


”生半可な愛を謳った映画や勇気をくれる漫画”も嫌いではありませんが、タイトルにもしたように、著者の言う通り「こんなヌルいもので人生を肯定されてたまるか」という気持ちと、「過剰なほど悲惨な人間を目撃すると、胸のつかえがちょっと楽になる」、という効果は、何となく腑に落ちます。

そういえば、少し前に以下のような悲惨な映画の記事も投稿しました。
トラウマ級の映画なのに、トラウマになっていません。
あながち間違っていなかったのかもしれません。


私も人生に絶望してたのでしょうか。
初めて知ったわ。

人生に絶望している皆さん、まずは『エクソシスト』でも試しにご覧ください。

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