実験・調査実習は遠隔授業で可能なのか #3 遠隔で実験する場合の注意点

実験編の #2-(2) とか #2-(3) とかで紹介したツールを駆使すれば,実習授業での実験・調査の実施のフェーズを遠隔化することは不可能ではないと思います。もちろん,実験の種類によってはできないタイプのものもありますし,履修学生の状況が見えにくいため対面授業以上に気を配らないといけないなど,他にも考えなければならない点は多々あります。

が,その全てを今ここで語るのは能力的にも時間的にも無理なので,調査・実験をオンライン上で行う時の一般的な注意点を考えてみたいと思います。

参加者が調査・実験に参加する環境はさまざま

オンライン調査・実験について,最初の頃からずっと言われてきた問題です。

・モバイル端末かPCか
・自宅や友人宅からか,公共交通機関等で移動中か,大学の実習室からか
・周囲に人はいるか,いないか
・部屋は明るいか,暗いか
・音は出しても大丈夫か,ダメか
etc. ...

それ以外にもいろいろな側面があり,環境の統制はまったくとれていません。まあ,全ての実験においてガチガチな条件統制ができるわけもないですし,実習授業の場合もそこまで完全な統制がとれているわけでもないので,気にしすぎる必要はないかもしれません。ただし,一部の実験では注意が必要でしょう。

例えば,感覚・知覚系の実験だと,刺激の種類によっては実験が成立しなくなる可能性もあります。

・音声刺激を呈示したいのに,参加者側の PC にスピーカーがないか,周囲がうるさくて聞き取れないとか
・微妙なコントラストの画像を呈示したら,光の加減で違いがわからない,とか

あと,注意 (attention) の実験だと,周囲に人がいて気が散るとか,実験中に別のアプリの通知が表示されて反応を間違えるとか,いうこともあり得ますね。

参加者の課題に対する注意集中の問題

注意そのものの実験ではなくとも,参加者が課題にきちんと注意を集中せず,教示を読み飛ばすといったこともあり得ます。オンライン調査におけるこの手の行動(サティスファイシング)については,私があれこれ語るよりは,この辺を読んだいただくと良いかも。

ただし,協力を依頼する通常の研究の参加者よりは,授業として参加している学生の方がサティスファイシング行動は少なくなるような気もします。また,普通の参加者に対して以上に,「なるべく静かな場所から参加し,実験に集中するように」という最初の教示が効果を持つかもしれません。もちろん,希望的観測かもしれず,保証の限りではありませんが。

ただ,一方で,モバイル端末だと PC よりもさらに教示を読んでいないというデータもあります(今年,某学会で発表の予定だったのですが,どうなるやら)。教示・説明や刺激の呈示方法については,気をつける必要があると思います(まあ,それも含めて失敗経験として蓄積していく,というあたりでいいのかも)。

端末の技術的制約の問題

オンライン調査・実験の場合,参加者は基本的にブラウザでアクセスしてきます。ということは,ブラウザで呈示できるかどうかが,刺激として使えるかどうかを決めてしまうことになります。もちろん,嗅覚,味覚刺激は呈示できませんし,触覚刺激も無理そうですね(将来的に可能になるかもしれませんが,少なくとも現時点では現実的ではないです)。となると,視覚,聴覚刺激がメインとなります(まあ,基礎実習で扱う実験テーマの多くは問題ないでしょう)。

さて,視覚刺激は呈示可能なのですが,ここでちょっとした注意が必要です。#2-(1) で挙げた実験のうち,ストループ,フランカー,サイモンといった注意・認知系の実験はまあ大丈夫でしょう。ただ,呈示時間がとても短い実験(例えば,Masked Priming でマスク呈示が短い場合とか)だと上手くいかないかもしれない,という指摘もあります。

どこまで一般化できるかはわかりませんが,刺激の呈示時間が 80ms 以上となるような場合は大体大丈夫だけど,それより短くなると結果が再現されないようです。

あと,視覚・聴覚刺激を動画で呈示する場合,ファイルサイズの問題もありそうです。

他にも考えなければいけないことはあると思います。思いついたら追記します。

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