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P・F・ドラッカー氏の『イノベーションと企業家精神』を読んで考えたこと①

ピーター・F ・ドラッカー『ドラッカー名著集5 イノベーションと企業家精神』 ダイヤモンド社、2007。(原著1985年出版)

ひと昔前『もしドラ』がベストセラーとなったことでもその名が知られたピーター・F・ドラッカー氏であるが、その著作を読むのはこれが初めて。

手にした理由は、「イノベーションとは何か」「いかにしてそれは成功するか」について探求したいと考えたから。

これまで、イチゴル自身が手に取ったイノベーション論をテーマとする書籍は以下の通り。
 ・『イノベーションのジレンマ』( クレイトン・M・クリステンセン氏 )
 ・『ジョブ理論』( クレイトン・M・クリステンセン氏 )

そもそも、なぜイチゴルがイノベーション論に興味を持ったかというと、この5年間で自分自身の練り上げたサービス(ゴルフスキルの向上のためのメソッド)が、(少なくとも自分の目から見て)ゴルフレッスン業界という世界において、これまでにないものが出来上がったのではないか、と感じるようになったことがきっかけだった。

こういうと、「どんな凄いレッスンなの??」という目で見られるかもしれないし、少しでもゴルフをかじったことある人が、イチゴル自身が提供しているゴルフレッスンを見たときの感想は、確実に「え?それのどこが革新的(これまでにないもの)なの?」と思われることも重々承知である。(なぜなら、ドラッカー氏が伝えている通り、「成功したイノベーションのほとんどが平凡」なのだから)

そんな矢先に読んだ『イノベーションのジレンマ』と『ジョブ理論』は、まさに自分が今のサービスを練り上げてきたプロセスを、より一般化して言語化したものであった。

これが社会(ここでは、一般アマチュアゴルファー界)に広まれば、一つのイノベーションの形ともいうべきものではないか、というところまでは確信している。

このような状況で、自分自身の興味関心は、「イノベーションとは何か」 「いかにしてそれは成功するか」という問題意識が芽生えたのである。

そして、この問題意識に関連して気になっていたことが一つあった。

それは、世の中一般で用いられている「イノベーション」というコトバと、イチゴル自身が想定しているそれが必ずしも一致しないということ。

ドラッカー氏の『イノベーションと企業家精神(以下、本書)』は、この問題意識を探求する上で、大きなヒントを得ることができた。

そこで、本書を読んで考えたことをnoteに残しておこう。


◆本書を読んで、書き留めておきたいこと。

本書はイノベーション論の古典ともいうべき本なだけあって、含蓄に富む内容である。それゆえ、簡単にはまとめることはできないし、仮にまとめたところで、それを読んでも「知った気」になるだけであるため、そのような記載はしない。(*1)

ここでは、イチゴルにとって、特に意義深かった3つの内容に絞って記載したい。

1つは、ドラッカー氏が「イノベーションの7つの機会」と呼ぶものについて取り上げる。これを取り上げる理由は、上述した世の中一般におけるイノベーションとイチゴルの考えていたイノベーションの違いについて、納得のいくものの見方であったからだ。

2つ目は、7つの機会のうち、第3に挙げられる「ニーズを見つける」というイノベーションの機会について取り上げる。

「顧客のニーズ」は、今や使い古されたマーケティング用語であるが、果たしてこれを本当の意味で把握し、それをイノベーションの機会として活用できているか、という点について改めて検討したい。また、本書で具体例として用いられている数学教育の例について、イチゴル的な視点で言及する。

3つ目は、「イノベーションの原理(第11章)」について取り上げる。これはこの章が特に示唆に富む内容であることから、備忘もかねてnoteに残すこととする。

なお、2つ目と3つ目については、別noteにて発信する。
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(*1)そもそも、「良い本」は、やはり何回も読んでその真髄を自分なりに咀嚼するべきものというのがイチゴルの立場である。

これは、自身のゴルフ上達メソッドをブログという形で書き上げて思うことでもある。それは一言ではまとめられないし、すべてを読んで、実践してもらい、そのうえで、個々のブログの内容がどのように関連し、一つの目的(ゴルフを効果的・効率的に上達し、ストレスフリーに楽しんでいく方法)を達成しようとしているか、を紹介したものである。

これを独学するには、相当何回も読み込まないとイケない、と考えている。(だからこそ、対面でのパーソナルレッスンの価値があるともいえる)
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◆イノベーションの7つの機会~ハイテク至上主義への懐疑

ここでは、イチゴル自身のイノベーション論における視界をクリアにしてくれた、ドラッカー氏の「イノベーションの7つの機会」について触れたい。

まずはその前提として、ドラッカー氏の著作で定義されているイノベーションについて引用する。

イノベーションとは市場や社会における変化である。それは顧客に対し、より大きな利益をもたらし、社会に対しより大きな富の増殖能力、より大きな価値、より大きな満足を生み出す。イノベーションの値打ちは、顧客のために何を行うかによって決まる。同じく企業家精神も、常に市場志向、市場中心である。

ピーター・F・ドラッカー『ドラッカー名著集5 イノベーションと企業家精神』 ダイヤモンド社、2007、p308

これも、その内容自体は今や新規性のないものではあるかもしれないが、世の中一般でイメージされているイノベーションは、この定義に示された意味合いを意識した上で用いられていることは稀であるように見受けられる。

たとえば、政府の主導する「新しい資本主義実現会議」をはじめとして国策として推進される場合の「イノベーション」は、「『最先端技術』を用いて社会を変革する」というような使われ方をすることがある。

また一方で、既存の技術の延長線上にある技術革新(クリステンセン氏の『イノベーションのジレンマ』でいうところの「持続的イノベーション」) の意味合いで使用されたり、さらには持続的イノベーションとも言わないような、小規模な改善活動に類する意味合いで使用されることもある。

イノベーション、もしくはクリステンセン氏の破壊的イノベーションというコトバが、経営用語として普及するとともに、その意味するところが多義的になり、曖昧なままに使用されている印象を受ける。(*2)

世の中一般で使用される多義的な「イノベーション」の中には、そもそもイノベーションと呼ぶべきものではないものがある。(上述の小規模な改善活動など)

また一方で、確かに「最先端技術を用いた社会的イノベーション」は、イノベーションの範疇にはなると考えられる。そして、これが与える印象として、イノベーションが煌びやかな魔法のようなものとして扱われがちであることから、イノベーションが「普通の人/企業にとっては難しいこと」と捉えられているようにも感じる。

これに対して、イチゴルで提案しているゴルフの上達メソッドは、アマチュアゴルフ界という一つの社会に変化をもたらすものだと考えており、ゆえに(それが社会に浸透すれば)イノベーションともなりうるものと考えていたが、それは決して煌びやかな魔法のようなののではない、と考えていた。

これが、まさにイチゴル自身が感じていた違和感であった。

自分自身の思い描いているイノベーション( 以下、イチゴル的イノベーション)は、その一つの形態であって他にもいくつかのパターンがあるのではないか。

同じイノベーションでも明らかに違う形態を含むその現象を、どのように切り分けて理解すればよいか、について理解しあぐねていた。(そもそも、イチゴルは現段階では、1つのパターンにしか接していないので、その全体像が見えなかった)

イノベーションという漠然としてボヤけた景色を、まるでコンタクトレンズをはめるかのように視界をクリアにしてくれたのが、ドラッカー氏の「イノベーションの7つの機会」であった。

概要だけ紹介すると、イノベーションは上述した通り、「市場や社会の変化」であり、これを引き起こす、もしくは変化を識別しそれを利用するための機会が7つある、とドラッカー氏は指摘している。

その機会とは、①予期せぬ成功/予期せぬ失敗、②ギャップ、③ニーズを見つける、④産業構造の変化、⑤人口構造の変化、⑥認識の変化、⑦新しい知識の活用、である。

この観点で分類すれば、上述の最先端技術的なイノベーションは⑦に、イチゴル的イノベーションは、①②③⑥の少なくとも一つに該当する。(*3)

また重要な点として、ドラッカー氏はその7つの機会の順序を挙げている。すなわち、①→⑦の順は「信頼性と確実性の大きい順に並べている」(p16)のである。

ムーンショット型研究開発制度*4をはじめとした、国が推進する新知識活用型(上記⑦)のイノベーションは華々しく脚光を浴びやすい。

また、デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI技術といった最新技術を用いたイノベーションがとにかく世の中を便利に、そして豊かにする、という風潮もある。

しかしながらこれは、ドラッカー氏が指摘している通り、「発明発見、特に科学上の新知識は、イノベーションの機会として、信頼性が高いわけでも成功の確率が大きいわけでもない。新知識に基づくイノベーションは目立ち重要であっても、信頼性は低く成果は予測しがたい」(p16)。

これに関連して、本書が出版された1985年当時の世界の情勢を踏まえて、ドラッカー氏の世の中への警鐘とも取れる記述を引用する。

果たして、40年前の状況から進歩があったのだろうか。
(少なくとも今の日本の状況は、進歩があった、とは言い難いのではないだろうか)

「確かにハイテクこそ最先端の刃(リーディング・エッジ*5)である。だがそもそもナイフがなければ刃は存在すらできない。活力にあふれたハイテク部門は、死体に健康な頭脳がありえないのと同じようにそれだけでは存在することはない。企業家的なビジョンと企業家的な価値観をもつ、活力あるイノベーターや企業家であふれた経済がまず存在しなければならない。」*6


(*2)この点、『ジョブ理論』(ハーパーコリンズジャパン、2017)で著者のクリステンセン氏は、以下のように吐露している。

20年前、私は「破壊的イノベーション」ということばを使って、新規参入企業が既存の巨大企業を脅かす現象を説明した。この破壊理論は、何万という企業を繁栄の方向へ導いたかもしれない。だが、ほとんどの英単語がそうであるように、破壊を意味するdisruptionにも多くの意味があることから、破壊理論もまた誤用されてきた。実際には破壊理論を適用すべきではない多くの減少や状況を説明するのに利用されてきたのだ。もっと適切な用語や名称があったのではとずっと頭を悩ませ続けているが、いまだに良案を思いつけないでいる。

『ジョブ理論』、ハーパーコリンズジャパン、2017、p.337

(*3)イノベーションの各機会の内容については本書に譲るが、「③ニーズを見つける」とイチゴル的イノベーションの関係については、別noteで紹介する。複数の機会を関連付けているのは、ドラッカー氏も指摘するように、「これら7つのイノベーションの機会は、截然とわかれているわけではなく、互いに重複する」(p16)からである。

(*4)「ムーンショット型研究開発制度は、我が国発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進する国の大型研究プログラムです。」-内閣府HP(太字はイチゴルが加工)

(*5)リーディング・エッジ;leading edge は「ある分野の最先端」の意(デジタル大辞泉)

(*6)また、同様の記載として、以下を引用する。

そもそもハイテクは、本書が重要な前提の一つとしているように、イノベーションと企業家精神の領域の一つにすぎない。膨大な数のイノベーションは他の領域にある。そして何よりも、ノーテク、ローテク、ミドルテクにおける広範な企業家経済を基盤とすることなくハイテクをもとうとすることは、山腹抜きに山頂をもとうとするのに似ている。

(p313)。

一般アマチュアゴルファーを対象としたゴルフレッスン業界においては、「山腹」は明らかにノーテクに相当する「対面での人対人のレッスン」である。これを抜きにどのような最新の分析機器や科学技術上の知見を取り込もうとしても、心からゴルフを楽しみ、そして上達したいという一般アマチュアゴルファーの本当のニーズを満たすことはない、と考えられる。


書き始めた際は1つのnoteに仕上げようとしたが、すでにここまでで5,000字を超えてしまったため、続きは次回に。次回は、イチゴル的イノベーションとイノベーションの第3の機会との関連について紹介したい。

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