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モデル化、シミュレーションも人為的な作業

化学技術者として仕事や勉強をしてきた身として、正直、温暖化CO2元凶論はしっくりこない。火力発電所から排出されるCO2は、従来はスタックから大気に放出していた。それで、誰からも咎められることはなかった。

しかし1988年以降、それ以前の地球寒冷化の議論から一転して地球温暖化の動きが盛んになった。そこでは、CO2が温暖化の原因であるとして、放出されたCO2を捕獲・回収(CO2 Capture)して、何かの目的のために利用するという話が生まれた。

その目的には色々あり、枯渇しつつある油田から原油を増産するためのEOR(Enhanced Oil Recovery)や、CO2と水素を反応させて有用物質を製造するといったものがある。有用物質として、メタン、メタノール、アンモニア、ポリカーボネート、ウレタンなどがある。これが、数年来言われて来たカーボンリサイクルである。

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                                                                                                (出典:METI)

CO2 Captureにおいて、先ずは、CO2を吸収液などで気体(排ガス)中から溶液中に取り込む。その後、高濃度(ca. 97%以上)のCO2を溶液中から回収する操作を行う。通常、高温にして蒸発させるか、減圧して脱気してCO2を回収する。温度については、40~50℃から100℃程度の高温にするが、この操作では、温度上昇が原因でCO2回収・濃度アップが結果となる。これは、物理化学的な現象であるため、非常に分かりやすい

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一方、CO2の上昇が原因で、その結果として大気中の気温が上昇するというのは、分かりづらい。この因果関係を導き出すには、現象の数学的モデルを作成し、それをシミュレーション計算させている。その結果について、色々議論するわけである。

化学プロセスのシミュレーションを行った者として、気になる事は、シミュレーションはあくまでも計算作業であって、数学モデルの精緻さ、入力する初期条件、制約条件、インプット値などで、結果はどのようにもなるという事である。従って、計算結果と実測値の比較を行い、そのモデルの前提条件や入力データが妥当であったのかを検証しなければならない。結果が思った通りではない場合、条件を変えたり、入力値を変更したりして再計算を行う。その繰り返しになる。そこにかなり人為的な要素が入っている。従って、この結果については注意を持って見て行かなければならない。

2009年頃、Climategate事件があり、この辺りの不可解な話が流れていたのを思い出す。

気候は、太陽活動、公転軌道や地軸の傾き、雲や水蒸気の存在、大気や海流の動き、火山活動、測定点や方法等、多くのパラメータが複雑に絡み合ったものである。単純にCO2が原因であると決めつける事は、自然や科学に対する謙虚さを欠いていると感じる

今年のノーベル物理学賞の受賞者にプリンストン大学の真鍋淑郎氏が選ばれた。米国籍であるため、日本人の受賞者としてカウントすべきかの議論があるようだが、ここは素直にお祝いを申し上げたい。

真鍋教授の功績については、多くのコメントが寄せられている。
<< Michael Oppenheimer, the Albert G. Milbank Professor of Geosciences and International Affairs and the High Meadows Environmental Institute: “Suki is the producer of the first modern climate model. Without the science of climate modeling that Suki initiated, we might still know that Earth’s greenhouse effect was increasing due to human activity and that Earth was warming,” Oppenheimer said. “But linking those two facts would be more difficult, and projection of the future at any useful level of detail would be impossible.”

Isaac Held, senior meteorologist in the Program in Atmospheric and Oceanic Sciences: ”He seemed to have a better understanding of how things fit together and what was important and what wasn’t important, and especially for those things that are relevant for climate change and the response to increasing greenhouse gases.”

Laure Resplandy: assistant professor of geosciences and the High Meadows Environmental Institute. “He laid the foundations for climate science and modeling. What is amazing to me is that Suki always showed such curiosity and genuine interest in the research of young climate scientists. I am also thrilled that this prize recognizes how important climate science is for society.” >>

気候現象を理解するためには、こうしたモデル化、シミュレーション、結果の検証という一連の作業は大変有益なものだと思われる。しかし、Oppenheimer氏の言う通り、将来の予測にまでどれほど利用することができるのだろうか?

温暖化の議論で、自然由来のCO2か、人為的なCO2なのかという事を見聞きすることが多い。ここで言う、人為的とは、火力発電所から排出するCO2や車からの排ガス中のCO2と考えがちであるが、ひょっとして、CO2元凶論を吹聴して来た人たちは、若干自嘲的に違った意味で言ったのであろうかと邪推してしまう。


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