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クリスマスイブをボランティアに捧げるという選択肢を

クリスマスイブ。ぼくは赤い衣装と帽子に身を包み、たくさんの白ヒゲを生やして車を走らせていた。

これから会える子どもたちは、どんな反応をしてくれるんだろう。大きくなるワクワクを携えて、ハンドルを握りしめる。

助手席には、同じく全身真っ赤な衣装に包まれた男性がひとり。

「むつみちゃんは…5歳。もうすぐ習い事を始めるから応援してほしい…なるほど」

子どもたちの情報を読みながらブツブツと言葉を漏らしている。

まさか、こんな日になるなんて。イブに予定がなかったぼくは、今日1日だけ魔法が使える。


🎄


12月24日14時。ぼくは地域のコミュニティセンターに足を運んでいた。これから、「チャリティサンタ」という活動が始まる。

お申し込みがあった家庭にサンタクロースとして赴き、預かったプレゼントを子どもたちに渡していくという、ボランティア活動だ。

なんて素敵な企画なんだろう。記事を読んだ瞬間、胸を打ち抜く何かが通った。ぼくは東北に住んでいた頃、似たような活動に参加したことがある。「また子どもたちの笑顔を見たい」。気がつけば、そんな感情に包まれていた。

そもそも、恋人いないしイブに予定なんかないし。「クリスマスイブの予定を強制的に作る」という消極的な理由もあるっちゃあるけど、ぼくの寂しさが誰かの役に立つなら結果オーライだ。

そう自分に言い聞かせ、高鳴る鼓動を抑えながら「サンタクロースになる」申込フォームを送信していた。

そしてイブ当日。ぼくが参加した支部では、ボランティアが15名ほど集まっていた。年齢や性別は様々。「子どもに関わるのが好き」と話す大学生や、「劇団員で演技の勉強をしてます」といった方など。なんなら娘がいるお母さんまで。1軒だけ早めに回って、その後は自宅に帰ってクリスマスイブを過ごすらしい。なんたるモチベーション!

簡単に自己紹介をした後は、家庭訪問の流れを確認。そしてロールプレイングに移った。「お〜ほっほぉ〜メリークリスマース!」とサンタ口調になるだけでも恥ずかしいのに、それをはじめましての方々とやり遂げなきゃいけない。

サンタ役や子ども役に分かれて、一生懸命に練習していく。大人たちのもじもじとしたロープレ、こそばゆすぎる。

サンタになるイメージができてきたところで、班分けが発表される。2〜3名でチームとなり、サンタとサポートサンタという役割に分かれるのだ。

サポートサンタはご家庭へ訪問前の挨拶メールを送ったり、サンタの身だしなみを整えたりするお手伝い役。(ぼくは誰とチームになるかな)と胸を踊らす…のも束の間、ワクワクとした気持ちは崩れ去っていく。

「どうしよう…。全然来ない…」

運営の方が、めちゃめちゃに焦っている。なんと、ボランティアとして来るはずだったメンバーが全然来ていないのだ。どうやら、本当は30人ほどいるはずらしい。半分くらいしか来てないじゃないか!

メンバーを組み直す必要が出てきた。運営の方が「ちょっと待っててください…今から決めます…」と不安気に声を漏らし、会場を包む空気がズン…と重くなる。

ボランティア側も手伝うに手伝えない状況で、時間が刻一刻と流れていく。

「とりあえず、サンタをやる可能性が高い男性はサンタ服を着てください」

そう言い渡され、ビニール袋いっぱいの赤服を受け取る。(果たして無事に家庭を回れるのだろうか…?)という心配さを表情に纏いながら、真っ赤な袖に腕を通す大人たち。

「うわ〜サンタ服似合ってますね!ヒゲもピッタリ!」など、ウフフキャッキャとお着替えタイムをするのかと思いきや、そんな空気ではない。バイト先の更衣室と同じ温度感。

そしてとうとう、チームが組み直された。しかし、ぼくと同じチームだった2人は会場に来ていない。「よさくさんは…ひとりで行けます?」と運営の方が申し訳なさそうに言葉を漏らす。

ソロサンタだと…?街角をサンタ服で歩き、知らないご家庭に突撃するのを、1人で…?

さすがに厳しすぎぃ!とアワアワしていると、他のメンバーである北村匠海似の大学生が手を挙げた。

「ぼく、1人でも行けますよ」

イケメンすぎるううう。なんでだ。なんで行けるんだ。大学生でどうやってそのメンタル身につけたんだ。そもそも君はなんでここにいるんだ。絶対イブに予定ある人じゃん。

北村匠海のおかげで、ぼくは2人で回れることになった。ベテランの男性サンタさん。交代でサポートをし合うような形で回ることに。

そしてとうとう、訪問する家庭の情報が配られた。シートに住所や子供の名前、褒めて欲しいこと、励まして欲しいことなどが書かれている。

「ミオちゃん4歳…弟の面倒をよく見てあげているのか…」とインプットしているのも束の間、会場は慌ただしい雰囲気に包まれる。

「1軒目のお宅は訪問時間が迫っています!準備ができたサンタから出発を!」

運営の方の号令をもとに、バタバタとコミュニティセンターを飛び出していくサンタたち。この赤い服って、消防団員の制服だっけ…?

ぼくはペアのサンタさん(以降、バディさん)を車に乗せ、1軒目に向けて走り出した。バディさんは小柄な男性で、メガネの奥から優しい瞳を覗かせている。

おもむろに、車内でバディさんが話し出した。

「ところで…よさくさんはどうしてこの活動を知ったんじゃ?」

サンタ口調だ。衣装を身に纏っているから、車内でもサンタなのだ。プロ意識が高い。…これは、ぼくもサンタ口調でしゃべった方がいいのかな。これに対して敬語はおかしいよね。息を整え、少し間をおいて話し出す。

「ブックサンタで知ったんじゃ。あと、前にも似たようなボランティアをしたことがあってのう」

やられた分はやり返す、サンタ返しだ!それ以降、ずっと「〜じゃ」「〜のう」で会話を繰り返した。どっちが歳上なんだろう。もはや聞けない。

そんなこんなで、1軒目のお宅へ到着。最初はバディさんがサンタ役で、ぼくがサポートサンタに。自転車のカゴに隠されたプレゼントを白い袋に入れ、ピンポンを鳴らす。

「ヒャーーーッ!」

ピンポン越しに子どもの声が聞こえる。玄関に移動し扉を開けると、キラキラと目を輝かせた2人の男の子が立っていた。

リビングに上がると、弟はテンションに身を任せてピョンピョンしてた。(人って嬉しいと本当に飛び跳ねるんだ…!)と当たり前のことを思い出す。

お兄ちゃんは嬉しさと恥ずかしさが混ざり合っているようで、落ち着きがなかった。思わずSwitchを手に取り、「見て、マイクラ〜」と話し出し、「サンタさんマイクラわからないでしょ!」とお母さんにツッコまれていた。(知っているとは言えない)

バディさんからプレゼントを渡し、兄弟を褒めちぎり、訪問が終了。幸せオーラいっぱいに包まれた家庭だった。

無事に1軒目を終えて胸を撫で下ろす。子どもが喜ぶ表情、やっぱりかわいい。来てよかったな。安心しているのも束の間、次の家庭への訪問時間が迫っている。街角を進むサンタたち。

そして2軒目のお宅へ。なんと3世帯がホームパーティをしている家庭で、子どもが5人いるらしい。場を収められる自信がないため、バディさんと2人でサンタとして訪問することにした。

リビングへ進むと、5人の子どもと6人の親御さん。誰が、誰やねん…!0〜3歳くらいの子どもたちだったので、親御さんに名前を聞くような流れに。

泣き出してしまう子が現れたり、ペットのネコにサンタ帽をかっさわれそうになったりと、混乱を極める室内。

バディさんと交代でプレゼントをひとつずつ渡し、記念写真を撮ってもらう。

ネコが通りがかったので「ほう、ネコちゃんもかわいいのお。この子は何て名前なんじゃ?」とお母さんに聞いてみた。

「ニャルマゲールたけしです〜」との回答。

予想外からの角度によるネーミングセンスに思わず「ブホォ!」と吹き出してしまった。ニャルマゲールたけしは反則だよ。一瞬サンタさんじゃなくなったよ。

無事に2軒目も終了し、最後のお宅へ。最後はお姉ちゃんと弟の2人姉弟。玄関の扉を開けると、エルサのドレスを着た女の子と、大きな瞳をキラキラさせた男の子が立っていた。

(何を話そう!)というテンションがこちらに伝わって来るくらいウキウキしていて、お姉ちゃんが「マルちゃん死んじゃったの!」と訴えかけてきた。すかさずお母さんが「あっ、ウチのネズミです〜。今関係ないでしょ」と差し込んでいた。子どもって、今1番の関心ごとを伝えたくなっちゃうのかな。きゃわいい。

大きな大きなプレゼントを渡し、たっくさんの褒め言葉と応援のメッセージを伝えた。サンタさんはずっと見てるから、これからもいい子でいてね。

無事に全ての家庭が終了。コミュニティセンターへ車を走らせる。どの家庭も、愛情がギュッと凝縮されているような空間だった。チャリティサンタを頼むくらいだから、クリスマスと子どもに並々ならぬ感情を抱いているんだろうな。

そんな幸せのお裾分けをもらい、ホクホクとした気持ちで他のグループたちと合流。みんな同じような気持ちで、自然と各々のエピソードを話し出す。

中には玄関前でコソコソしていると、近隣住民に特殊犯罪集団と間違えられ、追いかけられたというグループもあった。何を犯行しそうだと思われたんだろう。でも、そんなことも終われば笑い話に。

みんなで集合写真を撮り、解散。各々が「良いクリスマスを」と手を振る。

バタバタだったけど。一時はどうなることかと思ったけど。なんとかサンタをやりぬいた。子どもたちの思い出の1ピースになることができた。

正直、サンタの格好をしてモノを渡すだけの活動と言えばそう。けれど、クリスマスイブだからこそ、この行為が持つ意味は大きい。こんなぼくでも、1日だけ魔法が使える。子どもが最大級に喜ぶ瞬間に立ち会える。

クリスマスイブは、ボランティアに捧げるという選択肢を。

この1日が、あの子たちの未来に少しでも影響を与えていますように。




p.s.ポッドキャストでは事前のサンタ講習会、各家庭の細かい様子などをフルエピソードでお送りしています。→コチラ

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