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パンみみ日記「川沿いの吹部と妄想少年」

好きなnoterさんたちに憧れて、日記を始めました。いつもは明確に書きたいことが浮かばないと文章にできない。それなりに中身がないと投稿できない。

けれど、日々のできごとをかき集めたのなら。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。名付けて「パンみみ日記」。

10月1日(土)
自転車でカフェに行った帰り道。なんだか寄り道したくなる。そうだ、近所の川に行こう。そこは大きな川で、川沿いにはサイクリングロードがある。

今の家に住むと決めた時、「俺は仕事がしんどいとき、この川沿いに座って、自分のちっぽけさを知るんやろうなぁ」としみじみしていた。実際、来ることはなかった。人は案外、ふらっと近所の川に思いを馳せないものだ。

そんなこんなで、初めて来た。チャリでサクサクと進む。ストイックにランニングをする人。柴犬を散歩している人。色んな人がいる。

「プワァー」

何の音だろう。音の方向を見る。石段にセーラー服の女の子が2人座っている。手には楽器だ。トロンボーンと、もう1人はユーフォニアム。マジかよ。川沿いで!吹奏楽の練習!青春の具現化!

なんだかニヤニヤしてしまう。そして想像する。男子中学生がそこにいたら。

「おい、お前こんなとこでも練習してんのかよ!バカ真面目〜!!」
「っるさいわね!いいからどっか行きなさいよ!

「うわ〜こえ〜!ま、上手くなったら来月の定期演奏会、見に行ってもいいけどな!」
「別に、アンタなんて来なくていいから!てか、何で知ってんのよ!?」

こんなやりとりをしながら、少年は帰路につく。そして胸に手を当てる。

(なんで俺、アイツのこと、あんなにからかっちゃうんだろう…!)

そう。少年は初めて抱く感情を、心のどこに置けばいいか、まだわからないのだった。

…はっ。自転車を走らせていた、我に返る。川沿いは妄想材料の宝庫だ。危ない。

10月2日(日)
今日はよさこいのお祭り。踊り子として出場。地域の商店街を踊りながら練り歩く。パレードというやつ。4曲ほぼ連続で踊るので、なかなかハードなお祭りである。

パレードの両脇でお客さんが観てくれているのだけど、1人目立つおじさんがいた。アイドルのライブに来たんですか?と言わんばかりの勢いで、拳を振り上げている。合いの手を入れている。

さらに、ぼくたちが踊り終えると、みんなに「ブラボー!!ワンダフール!!イェイ!!」とテンションフルマックスで褒めてくれた。なんだこの人。最高だな。めっちゃ元気出る。

そして、ぼくたちの出番が終わり、他のチームの演舞を観ることにした。ワンダフルおじさんは、他のチームも全力で応援している。声もデカいので、よくも悪くも目立つ。

すると、ぼくの隣の女子大生と思われる3人組が、おじさんを見ながら話し出した。

「あの人やばくない?」
「ウケるんだけど」

やばい。ワンダフルおじさんが陰口を言われてしまう。彼は悪い人じゃないんだ。ただお祭り楽しんでんだ。実際、あんなストレートに褒めてくれる人いないから嬉しいんだ。女子大生たちは、薄ら笑いをしながら続ける。

「マジであの人、何人の自己肯定感バカ上げしてんの?」
「うわっ、おじさん次のターゲット見つけた。また褒めちぎるよ」
「あのおじさん、このお祭りで有名だから。いなきゃ始まんないから」

めっちゃ褒められてるううう。

10月4日(火)
お仕事。他部署と連携して、取引先にデータを納品しなきゃならない。しかし、他部署から指摘が入り、納品が間に合わないことが判明した。うわああ。

「詰みました」と上司に報告。すると上司は「向こうの課長に交渉してみる」と落ち着きながらキーボードを動かした。すぐに交渉を始める。納期の短縮に成功。「よさく、これでスケジュール間に合うよ。」

見直しちゃったじゃない…!と上司に尊敬の眼差しを向ける。しかし、思い出した。この突発的なスケジュールでこの仕事を無理やり指示したのは、目の前の上司だった。なんかいい印象で終わるとこだった。危ねえ。


10月6日(木)
上司と共に取引先訪問。訪問が終わると、ちょうどランチタイム。車に乗りながら、上司がつぶやく。

「このあと会社戻ってもいいし…、〇〇さんが美味しいって言ってたそば屋に寄ってもいいし…。まぁ、俺はこのあと予定ないんだけど」

初めてのデートの誘い方ですか?レベルの絶妙な気の遣い方をされる。

行った。とり天せいろそばを頼む。上司は嬉しそうにとり天の写真を撮っていた。来たかったんだね。おいしかったのでデータ納品の件は許してあげましょう。

10月7日(金)
後輩に誘われ、会社メンバー4人で飲み会。久々の機会だったけど、やっぱり金曜のビールと焼き鳥はうまい。サラリーマンでよかったと思える瞬間。

2軒目を出たところで、終電がなくなってしまった。とりあえず繁華街を歩く。飲み好きな後輩2人は「3軒目いきましょうよ〜」とニヤニヤしている。

しかし、ぼくはアレが嫌なのだ。「金曜に飲みすぎた結果、寝過ぎて土曜の午前中が消えるやつ」。断じて避けなければならない。土曜日を守れ。

もう1人の先輩も帰りたそうだったので、2対2の構図になった。おひらきチームvs3軒目行こうチームでの試合が始まる。

どちらも譲らない攻防。お互いの主張が飛び交う。とうとう、ぼくは言った。「早く!あったかいおふとんで寝たいの!!」後輩に対する先輩の発言とは思えない。

おひらきになった。あったかいおふとんで寝た。土曜日を守り抜いた。

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