![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142176765/rectangle_large_type_2_303a0b962c45ef552a6d4d2377881810.png?width=800)
パンみみ日記「ゼリーの献上を要請することがあります」
日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。
5月18日(土)
行きつけの喫茶店へ。ぼくが机に置いた本をおもむろにマスターが手に取る。
「どんな本なの?」
「道尾秀介さんの『N』っていう本で。短編がそれぞれ反対に印刷されてるので、ひっくり返してもNみたいに読めるんです」
「ふ〜ん、だからNねぇ。よくわかんねぇな」
ぼくのプレゼンが下手すぎて魅力が伝わらなかった。
読書をしばらく楽しみ、席を立つ。今日は用事があるのでいつもより滞在時間が短い。去り際にマダムに話しかけられた。
「もう、行かれちゃうんですか?」
きゃー! なにそれ! もっといていいってことですか?
「こんなにゆっくりしていいのかな」と悪く感じてしまうことがあったので、この言葉は心の底に染み渡るように嬉しかった。当たり前のように、また来ますね。
5月19日(日)
文学フリマ東京38に出店した。1日の振り返りはコチラ。
半年前はお客さんだったんだけどな。憧れのエネルギーをバネに一歩踏み出したら、いつの間にか違う景色を見ることができている。
そして文章を書くことで、「よさく」が自分自身をどんどんと遠くに連れて行ってくれている心地がする。
楽しかったなぁ。でも、終わっちゃったなぁ。この1日は、まるで夢だったかのようにつかみどころがなくて。でも確かなものとして、胸に強く残っている。この手触りは、しばらく心に住み続けそう。
5月21日(火)
会社。他の営業部の後輩がいそいそとぼくの席へ。
「よさくさんが○○商品の提案書を作っていたら、いただきたいなぁと…」
やぶさかではない。むしろ頼られて気持ちがいい。ぼくは最近、チマチマと個別商品の提案書を作っている。役に立てるのが嬉しくて、ホイホイと資料を共有した。
すると、後輩からお礼のメールが届いた。
「こんなに素晴らしい資料をありがとうございます! 無料で大丈夫なんですか?」
コホン、と息を整えて返信する。
「今は無料ですが、今後の状況によってはゼリーの献上を要請することがあります」
すると「ゼリーですね!メモメモ」と返ってきた。とても愛くるしい。
5月22日(水)
出社。席に着くと、隣のフワコ(天然系の教え子)がやたらモグモグしていた。手にはどら焼きをつまんでいる。
ぼくが「朝からどら焼き…?」と呟くと、彼女が笑みをこぼしながら振り返った。
「わたし、今週はおにぎりじゃなくて、どら焼きなんです。ドラえもんみたいですね。へへ」
ツッコミどころが多すぎて、目が覚めた。モーニングどら焼き、新しすぎる…!
5月23日(木)
仕事終わり。若手の同僚を集めて、ボードゲームカフェへ。
先日の飲み会でボードゲーム好きがたくさんいることが発覚し、グループLINEが作られたのだ。そこで「よっ! ボードゲーム部長〜!」とぼくがおだてられたので、今回の企画をした。
でも実は、ぼくはイベント企画が苦手。お店選びをミスったり、誰かが楽しんでいないのを見たりすると「私の責任や…」と落ち込んでしまうから。なので、今回は正直仕方なくやった。
しかしいざボードゲームが始まると、職場ではできないコミュニケーションがびゅんびゅんと飛び交っていく。協力型のゲームで成功した時なんて、みんなが子どものように笑い転げていた。
終わる頃には「最高の平日だ!」「飲み会じゃなくてボドゲという選択肢」「転職してよかった」というコメントが溢れた。
これからはボードゲームのために仕事を頑張ります。
5月25日(土)
母校である大学の図書館へ。やはり休日の大学図書館は素晴らしい。近所の図書館ほど混雑していないし、意識の高い大学生に囲まれていると背筋が伸びる。
文学フリマでお迎えした本を読んだ。僭越ながらご感想を。
『正しい道より楽しい道を。』 / さおりす
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142262577/picture_pc_b06930ae7f8f88a0e6dc6ffaed96f393.png?width=800)
娘のコリスちゃんとの日常をくり抜いたエッセイ集。コリスちゃんが人生の本質を突くような言葉を何度もポロリと転がすことに驚きつつ、胸を打たれた。
さおりすさんはぼくと全く違う属性を持って生きている。彼女は娘さんを身ごもり、母として育て、日々を複数の観点で生きている。
未婚で一人暮らしの男性であるぼくからすると、新しい発見の連続だった。違う世界を生きている人の目線に立ち、別の人生を疑似体験できることがエッセイの魅力であると、あらためて思い知らされた。
家族っていいな。視点と可能性を広げてくれる、唯一無二の存在なんだ。そんなことを思い出させてくれた作品。
『異常係長日記』 / しりひとみ
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142262586/picture_pc_a3fb9af3e657f170c886fa001ac93061.jpg?width=800)
係長に昇進した日々を綴った日記。異常な上司、ストーカー並みの愛着を示す部下に挟まれた「地獄」とも呼べる日々が記録されている。
毎日のようにとんでもないことが起きているのだけど、それをユーモアの力でバネにしていくような力強さを感じ取れる作品。
「こんなにおもしろい文章書ける人でも、大変なことあるよなぁ」としみじみして本を閉じる。「助けてくれ〜」と声をあげたくなったときに、日記にぶちまける選択肢があるということを、あらためて教えられた。あと、たまに出演する子どもがかわいすぎて悶絶する。
※つる・るるるさんにおつかいでゲットしていただきました。とってもとっても感謝…!
『いぬくそ看板観察報告第003号』 / うんこ看板
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142262587/picture_pc_02102edc8a0cb51dfb360c85a9b563d6.jpg?width=800)
お隣のブースにいらっしゃった坂田さんの作品。「犬のフンを片付けましょう!」と啓発する看板の写真集。京成線沿線の犬くそ看板がまとめられている。
犬くそ看板を「設置場所がパブリックなのかプライベートなのか」、「感情が激昂しているのか冷静なのか」といった2軸で4章限に分類しているのがおもしろすぎる。
たしかに作品を眺めていると、書き殴ったような文字に怒りが込められた看板もあった。フンを放置してしまう飼い主、それに憤る住人。その看板には確かに、双方を巡るドラマが盛り込まれているのかもしれない。
*
久々の読書に没頭し、noteを書いて20時過ぎまで図書館にいた。周りを見渡すと、学生がいなくなっていると思いきや…めっちゃいる。熱心にガリガリと勉強している。
日本の将来を担うのはこの子たちなんか。未来は明るい。勇気づけられて、図書館を後にした。
【編集後記】
文学フリマで「日記に出てくる職場の人たちが楽しい」とのお声を3人からいただいたので、職場での出来事に筆がのっている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?