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裁判員に選ばれた(14人目のAさん)

いつもお世話になっている療養型の病院の相談員から電話がありました。
「先日転院してきたAさん大変よ」
さてはもう亡くなったのか、と思ったらそうではなく、
「裁判員に選ばれたのよ。どうしよう。」

Aさんは72歳。一人暮らしの男性。
昔はやんちゃをしていたようで、しっかり入れ墨が入っています。
アルコール依存もあったため最初関わったケアマネジャーも苦労していました。
奥さん、子どもともそれが原因で離婚。
30年以上顔を見ていないとのことです。
ケアマネジャーもねばり強く関わり、アルコール専門病院への入院含めしっかり生活援助し、生活を立て直したのです。
今やアルコールは一切飲まず、隣で飲んでいようが、すすめられようが、一滴も口にしませんでした。
たまに置いていかれたと缶ビールを持ってきてくれました。

ところがアルコールのせいか年齢からか、認知症発症。
糖尿病がありインスリン注射が必要でしたが自分でうつことはできず、病院から徒歩2分のアパートから、毎日病院にきてはうってもらっていました。
明るい性格で職員には必ず大きな声で挨拶してくれました。
調子のいいときは毎朝、病院の玄関を掃除してくれたりもして、病院でも人気者。
日常的には金銭管理は全くできなかったので、権利擁護事業を利用。
社会福祉協議会がお金の管理をしてくれていました。
しかし、次第に認知症状がひどくなり、転倒が増え、在宅生活が困難と判断し、ついに介護施設への入所に。
その後誤嚥性肺炎を繰り返し寝たきり、そして遷延性の意識障害となってしまったのです。
当院では長期入院はできないので、療養型病院への転院手続きをしていて、先日、無事転院となりました。

意識障害で意思疎通できなくなった頃に、成年後見の手続きを始めました。
社会福祉協議会からも、意思疎通ができないので権利擁護ではなく成年後見の手続きをしてほしいと依頼があったからです。
身寄りが近くに不在で、遠方に住む兄弟に電話しましたが、関わりたくないとの返事だったのでこちらで市長申し立てを行いました。
担当課に連絡し、手続きを依頼。


ところがある日、担当課から電話がありました。
成年後見のことで、関係親類に通知を送ったところ、30年来会っていない別れた妻から連絡があったというのです。
本人はどんな状態か、見舞いに行ってもいいのかといろいろ聞かれ、担当課からは答えられないので、対応お願いしたいということ。
純粋に会いたいのか、何かあるのかと悩みましたが、とりあえず主治医と師長に相談し、私が連絡することになりました。
別れた妻に連絡すると、市役所から連絡があった長男から入院していることを聞いたが、あのころは生活も荒れていたので別れたが、あの後どうなったのか気にはなっていたということでした。
さらに長男とも相談し、一度様子を見に行きたいとも言ってくれました。
話の感じでは別段他意はないようだったので、見舞いはいつでもかまわないこと、詳しい病状などを聞きたいのであれば事前に連絡いただければ、医師か師長が説明させていただくことを伝えました。

話のついでに聞いてみました。
Aさんが元気な頃、長男は俳優で釣りバカ日記にでていたと言っていたのです。
そのことを聞くと、
「はあ?そんなことないですよ。何言ってるんでしょうね」
一蹴されてしまいました。
だまされた!

元妻との話の内容を伝えると、主治医もいつ来てもいいようにと、訪問理美容に連絡し、散髪までしてもらうという気の利かせ様。
結局見舞いに来る前に転院となってしまいました。

私の周りで裁判員に選ばれたという人はいません。
意識障害のAさんには当たり前ですが裁判員としての役目は果たせません。
でもちょっとなにかいいことがありそうな気がしました。

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