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コピーライターにとって「戻し」はチャンスだ

「戻し」とは、広告業界において「フィードバック」と同じ意味で使われるもの。人によっては「ダメ出し」のほうがイメージがわくかもしれません。広告業界では、戻しという言葉を口にしない日はないと言ってもいいです。

今回は、そんな戻しについて書いてみたいと思います。コピーライターにとって戻しはピンチなのか。いえ、チャンスです。


戻してくるのはクライアントだけではない

わたしはずっとこの戻しがいやでした。一発でOKをもらえるコピーを書きたい。百発百中のコピーライターをめざしていました。でもすぐに、無理だと気づきます。提案するとかならず戻しがあるのです。

戻しの機会は早いうちにやってきます。ファースト戻しは一緒に仕事をするチームのメンバーから。クライアント提案前にデザイナーやアートディレクター、営業に自分が書いたコピーを見せると、さまざまな意見が出てきます。大量にあるいは決定的な戻しをもらうこともしばしば。自信をくじかれる1回目でもあります。

ここでふんばり、コピーを考え直します。何を言うか、どう言うか、使う言葉は適切か、言い回しはこれでいいのか……一度自信をなくしているので大変です。もうだめかもしれない、書けない。つねにそんな絶望と隣り合わせ。

じつは、あきらめることって簡単です。「こんなもんかな」とペンを置いてしまえばいい。パソコンを閉じてしまえば終わりにできる。でも、コピーは試行錯誤の痕跡がこわいくらい言葉に現れます。ラクをせずトライしつづけたかどうかは、かならず言葉に出てしまうのです。

「コピーは書き始めることより、どこで終わりにするか」と書いていたのは電通のコピーライター三島邦彦さん。余談ですが、わたしは戻しが続いて苦しかったとき、『言葉からの自由』という三島さんの著作を読んでやる気を出していました。

戻し、それはびっくり箱

さて、いよいよプレゼンでクライアントに見せる段階。その場で起こる反応、担当者の表情や言葉すべてが戻しの一部。たとえそこで感触がよくても油断はできません。後日、メールでとんでもない量の戻しがくることだってあるのです。

戻しは何が出てくるかわからない、びっくり箱のようなものです。クライアントによって、人によって戻し方がちがうのもスリリング。たとえるなら、こちらが野球のボールで投げてもパチンコ玉でかえってきたり、サッカーボールでかえってきたり、大玉転がしの玉でかえってきたりする感じ。

それを受けとめて必要があればこういうことですか!ともう一度、投げかえします。これが再提案・再プレゼンと言われるもの。

なかなか首を縦に振ってくれないクライアントは、もっといいものがあるのでは、すっきり納得したいという気持ちが強いゆえに、要求が高度になっている。提案するコピーライターにとっては登っているのに途中で頂上がどんどん遠ざかっていくようでしんどい時間です。

でも、それはある意味で、期待なのです。これまで戻しをもらってきた経験から言えるのは、いい戻しによって、表現は磨かれるということ。戻しはたびたび幸せな相乗効果を生み出します。クライアントとコピーライターがともにめざす頂上にたどり着くことができたら、この仕事をやっていてよかったと心から思える瞬間になる。

自分の心で、戻しをピンチからチャンスに変える

書いたコピーに戻しがあると、否定されたような気持ちになりがちでした。一発OKを出せなかったことも苦しいし、コピーライターに向いていないんだとショックを受けていた。

それは今でも感じますが、ピンチだと思ってしまうとやっぱり筆が進まない。だから、自分の心に「よくなるチャンスをもらったんだ」と言い聞かせます。古典的な方法ですが、チャンスは気からです。あきらめるのはコピー提出の締め切り直前でいい。「戻し」をもらうすべてのみなさん、一緒にがんばりましょう。あなたはひとりではありません。わたしがいます。


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文:シノ

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