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「何卒」を読み間違えたら、「何卒」についての知識が豊かになった
いきなりですが、みなさんはこの一文、正しく読めるでしょうか?
何卒よろしくお願いいたします。
そうです。「なにとぞよろしくおねがいいたします」。
なぜこんな話をするかといえば、実は最近、恥ずかしながら「なにそつ」と読んでしまったんです。
それも、自分が講師を務めた新人研修中に、何回も。
そもそも、「何卒」とは?
なに‐とぞ【何▽卒】
[副]《代名詞「なに」+格助詞「と」+係助詞「ぞ」から》
1 相手に強く願う気持ちを表す。どうぞ。どうか。「—お許しください」
2 手段を尽くそうとする意志を表す。なんとかして。ぜひとも。
社会人になってから毎日のように使う「何卒」。
「相手に強く願う」「手段を尽くす」といった意味で、なかなか押しの強い表現です。
わたしはそれを「なにそつ」と連呼していたのですが、まったく気がつきませんでした。
先輩コピーライターに、「なにそつじゃないよ、なにとぞだよ」と指摘されたのです。
先輩が教えてくれて助かりました、でも…。
なぜ読み間違いに気がつかなかったのか?
おぼろげながら、「なにとぞ」を使っていた記憶もあるのです。だからどこかの時点で、「なにそつ」にすり替わってしまった。
間違った読み方に無自覚だったのは、なぜなのか。
一つ、思い当たるのが「なにそつ」で打つと「何卒」と漢字が変換されてしまうことです。
![](https://assets.st-note.com/img/1654568846994-tQkLZ8YytB.png?width=800)
かなり言い訳がましいですが、これで「なにそつ」も読み方の一つだと思い込んでしまったのでしょう。
たとえば、似たような読み間違いの例として「雰囲気」があります。
よく言ってしまう「ふいんき」は間違い。正しくは「ふんいき」です。
そして、どちらの読み方でも「雰囲気」が変換候補に出てくる。
![](https://assets.st-note.com/img/1654569001399-oPQHY9EZCl.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1654569021792-hxbreRwLrC.png?width=800)
これでは、どちらが本来の正しい読み方なのか、意識的に自分で調べたり、覚えたりしないとわからなくなりそうです。
予測変換は驚くほど進化し、こちらのミスを先回りして正してくれるようになりました。
でもそれゆえに、間違って覚えた読み方を自覚しにくくなっていると思うのです。
小中高では習わない「何卒」
今回のことが気にかかり、毎日新聞の校閲記者の方が運用している「毎日ことば」というサイトで「何卒」を検索してみました。
すると、こんな興味深い一節を見つけたのです。
よく使われる「何卒」も、本来「卒」を「とぞ」と読めるはずもなく不可解です。「なにとぞ」でいいのではないでしょうか。妙な漢字信仰があるような気さえします。
他のサイトで語源を調べても、ある時「とぞ」に「卒」の字が当てられた、という事実しか見つからず、その経緯はよくわからない。
だから記者の方も「卒=とぞ、は読めないし不可解。なにとぞ、と書けばいい」と言っているのだと思います。
さらに記事によると、あいさつ文でよく使われる漢字の「宜しく」さえ、常用漢字表に載っていないとのこと。
もしや、と思ってわたしは「何卒」を常用漢字表で検索しました。
出てこない…!
「何卒」も「なにとぞ」という読み方も載っていないのです。あるのは「卒業」など「そつ」と読む例だけ。
![](https://assets.st-note.com/img/1654569885879-nVp7ZIjmHY.png?width=800)
常用漢字表、みなさんも名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
これは「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための漢字使用の目安」として、文化庁が選定しています。
直近の改訂は平成22年で、2136字が選ばれました。
もちろん、常用漢字表に載っていないから使っちゃダメ、一般的ではない、ということではありません。
でも「何卒」が載っていないって、けっこう驚きませんか?
常用漢字表は学校教育にも密接に関わっていて、「小中高で身に付ける漢字の範囲」になっています。
つまり、小中高の教育現場では生徒が「何卒」を使う場面は想定されていないし、読み方や書き方もとくに教わらないんです。
それでも就活になった途端、何百回と使うことになるので少し不思議な言葉ですよね。
字を「打つ」時代だから注意したい
真面目な新人たちが「なにそつ」をインプットしてしまうかもしれない!と思って、冷や汗をかきながらこの記事を書きました。
一度失敗すれば、二度は間違えない。
でも、人間なので絶対とは言い切れません。
読み間違いをしない、手グセで「なにそつ」と打たないために、今度からあえて「なにとぞ」とオールひらがなで打とうかなと思っています…。
漢字にかぎらず、今は文字を書くのではなく、打つ時代。
何気なく打っている文字の読み方を見直してみると、思わぬ落とし穴があるかもしれません。
こちらの「予測変換」についての記事も、おすすめです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
もし「自分もこんな読み間違いしてたわ〜」など体験談があれば、なにとぞコメントで教えてください。スキやフォローもお待ちしています。
文:シノ
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