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いつか来たる海外旅行に思いを馳せて『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

どうも、ハギです。久しぶりに読書感想文を書いてみたら楽しいこと(宿題で出されたときは字数稼ぎに必死だったのに)。コピーライターとして言葉を磨くための本やビジネス書を選ぶべきか悩みつつ、自分の好みで選びました。

課題図書は、お笑い芸人であるオードリー若林さんの著書「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」(本書は2017年に刊行された単行本に、三編の書き下ろしを加えて文庫化されたもの)。

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ひねくれワードが決め手のタイトル買い

若林さんの本は「ナナメの夕暮れ」を読んだことがある。今回はタイトルを見たときに「表参道のセレブ犬」というワードがどう考えても偏見と皮肉たっぷりで惹かれてしまったのだ(ちなみに犬の話はメインではなく、エピソードの1つにすぎない)。

斎藤茂太賞もロングセラーも頷ける

前知識もなく、気軽に楽しく読める旅行日記くらいに思って読み始めたのだが、もう全然、全然わかってないね!と読む前の自分にツッコミを入れたくなった。

キューバでの数々のエピソードが若林さんの持つナナメの感覚で語られていく。癖がある人の癖のない文章は、読みやすくて面白い。旅行中に若林さんのガイドをする人見知りのキューバ人・マルチネスの話が個人的に好きだ。

半分読み進めたくらいだろうか。ハバナの夜の街を散歩しているエピソードの終わり、楽しく読んでいた紀行文の雰囲気がガラッと変わる。

「前から聞いてみたかったんだけど......」
「ん?」
 舗装されていない地面をスニーカーで踏む度に砂が軋む音が聞こえる。
「......幸せだった?」
「......」

P185 ruta25 音叉

この本の面白さは物語の構成力にあると思う。最初は楽しい紀行文として読ませておいて、途中から父親との関係をきっかけに、物語は若林さんが長年抱えてきた生きづらさについて語られる。そして、最終的にその答えは個人ではなく、資本主義(競争して勝ったやつが偉いよ!)と新自由主義(みんな個性を持って生きてね!)によって作られた社会のあり方にまでたどり着く。

キューバへ行く本当の理由が解き明かされてから前半の文章を思い返すと、受け取り方も180度変わる。

マネージャーをつけずに勝手に一人で飛行機の席を取ったこと。「なぜキューバに行こうと思ったんですか?」という周りからの何気ない質問にうまく答えられないこと。自意識過剰に見える心の中のツッコミ。

楽しい紀行文と現代社会の生きづらさに対する深い考察、2つの側面がこの本にはあった。

「生きづらさ」というテーマに関しては、若林さんが他の作品でも一貫して語っていることで、ここで取り上げるにはとてもスペースが足りない。

でも自意識過剰という自覚があり、人から「めんどくさい」と言われたことがある人はぜひ一度読んでほしい。結構救われます。

海外に行ったら人生は変わるのか

この本を読んで「海外に行ったら人生が変わる」という言葉を思い出した。生きていれば誰しも耳にする言葉だろう(主に悪いニュアンスで)。

この言葉が悪いように受け取られるのはおそらく、海外に行ったことで周りの人へマウンティングをしたり、他の人よりも自分のスペックが上がったと思い込む人の傲慢さに対してだろう。

本を読み終えたわたしは「海外に行ったら人生が変わる」と思ったし、同時に「海外に行っても人間は(本質的に)変わらない」とも思った。矛盾しているように見えるが、コインの裏と表のように同じものを違う角度で見ているだけだ。

海外に行くことは、日本に生まれ、日本の社会で生きてきた自分を俯瞰して見つめ直す行為でもある。

「自分探しの旅」も新しい自分を発掘するのではなく、自分が何者か気づくためのものだと。だから「自分探しの旅」ではなく、「自分に気づく旅」「自分を知る旅」と表現したほうが誤解がないのでは?と思ったりする。いや、「自分探しの旅」のほうがロマンチックで良い響きなのかも。

2020年、海外旅行に行けなかった人へ

今年の夏休み、イギリスに行く予定を立てていた。コロナ禍で断念せざるを得なくなった。この記事を読んでくれている人の中にもたくさんいるはず。だからこそ、このタイミングで紀行文を読めたのはよかったと思っている。

それは、海外旅行に行けなかったフラストレーションを間接的に昇華できたような気がするからだ。

しかも、三編の書き下ろしが加わって「キューバ」だけでなく「モンゴル」と「アイスランド」まで行けた気分。本書に限らず、紀行文を読むなら今がおすすめだ!(逆に行きたくてうずうずしちゃうかもしれないが...)

ちなみにわたしは、猛烈にキューバに行きたくなった。さらには、今後の海外旅行に対する態度を改めたいと思った。女子旅で検索して出てくるおしゃれ重視インスタ映えコースで満足してはいけない!と(それはそれで楽しいのだが)。それよりも、生きているうちに資本主義や日本の同調圧力に縛られていない世界をもっと見てみたい。

おわりに

コロナの流行で、世界中の人が制限された環境に身を置くことになり、きっと自分の人生を見つめ直している。

自由に動けない今だからこそ、読書という行為は心身ともに狭くなった価値観を押し広げてくれると思った。また、1日でも早く安心して世界を旅できる日が来てくれることを願ってやまない。

最後に、わたしが本書を読むきっかけになった「表参道のセレブ犬」については、以下のようにだけ書かれていた。

”東京で見る、しっかりとリードにつながれた、毛がホワホワの、サングラスとファーで自分をごまかしているようなブスの飼い主に、甘えて尾尻を振っているような犬”

P79 ruta9 表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

辛辣で笑った。偏見と皮肉もたっぷりだった。

それでは、また。

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