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できそこないの砂糖食パン

#おいしいはたのしい というコンテストのお題を見て、記憶に冷凍保存されていた「砂糖食パン」のことを思い出しました。

よし、解凍してみるか。そう思ってこの文章を書き始めました。小さい頃すごくおいしかったものは、大人になった今どんな味がするのだろうと気になったのです。

おじいちゃんの"とっておき"

両親が共働きだったわたしは、いわゆる「鍵っ子」でした。

父や母が夜、仕事を終えて迎えに来てくれるまで預けられていたのは、すぐ近所のおじいちゃんの家。

物心ついた時から、わたしにとっておじいちゃんはすでに「おじいちゃん」でした。つまり、頭皮はほとんどつるつる(わずかに残る柔らかな白髪)で、水の入ったコップで入れ歯をカチャカチャ洗い、大岡越前や水戸黄門を日がな一日見ているような…。

おじいちゃんはわたしの面倒を本当によく見てくれました。チラシを丸めて仏壇のお米で糊付けした紙の刀をつくってくれたり、紙飛行機を折って部屋の中で飛ばしてくれたり。

そんなおじいちゃんが教えてくれたのが、砂糖食パン。日本中探せば、同じ食べ方をしていた人もけっこういたりして。

では早速、当時のつくり方で再現してみます。

よみがえる「砂糖食パン」

【用意したもの】
・食パン
※安いやつでOK。なんとなくローソンのブラン入り食パンにしました。
・砂糖(適量)

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【つくり方】
お皿に多めの砂糖を出す

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食パンを4分の1くらいちぎり、そのまま砂糖につける

のですが…

ここで問題が!

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なんと、砂糖がぜんぜん食パンにつかないのです。おかしい…わたしの記憶では砂糖が表面を覆いつくして真っ白になるはずなのに。一体なぜ? 冬だから?

でも、とにかく食べてみました。

【食べた感想】

再現度  ★☆☆☆☆
甘さ   ★★☆☆☆
懐かしさ ★★★★★

再現度の低さ…(笑)。意外だったのは甘さです。もっと、めちゃくちゃに甘い気がしてました。ブラン入り食パンだったからかも。

ためしに「食パン 砂糖」で検索したらシュガートーストがヒットしてさらに驚愕。みんな焼いて食べていたのか…そうか…。わたしはずっと生食パン×生砂糖でした。いわば素材と素材のぶつかり相撲。潔いもんです。

「砂糖食パン」の再現は成功したとは言えませんが(笑)思い出はあざやかによみがえりました。

初めて食べた時、秘密の儀式のようだったなと思います。

目の前に出されたお皿には、真っ白な砂糖。ちぎられた食パンをお皿にぎゅっと押しつけると、砂糖がびっしり。おじいちゃんがそれを迷いなくほおばるのを、わたしは口を開けてただ見ていました。

おじいちゃんの真似をして、わたしも食パンを砂糖の海へダイブ。

ふわふわの食パンに砂糖がみっしり重なり、食感の異なる白い層のできあがり。食パンにふくまれる水分のおかげで砂糖はぴたりとくっつき、不思議とこぼれません。それに白の厚みを茶色の耳がしっかり受けとめてくれます(思い出の中では完璧です)。

一気にほおばると砂糖の甘さが口いっぱいに広がり、食パンの耳のちょっとビターな感じが追いかけてきて…。

わたしはおじいちゃんと顔を見合わせ、口もとに砂糖をつけたままふふふ、と笑い合いました。

しばらくして、「砂糖食パン」は両親の知るところとなりました。母は虫歯を心配し、困惑しているようでした。父も神妙な顔をしていましたが、やがて「戦中も戦後も、親父が若い頃は砂糖が贅沢品だっただろう。だからなんじゃないか」と、母やわたしにではなく自分に言い聞かせるようにつぶやきました。

父の話を聞きながら、食パンにたくさん砂糖をつけるおじいちゃんの気持ちが少しだけわかる気がしました。誰の目も気にせず口いっぱいに甘さを感じることで、今はもう平和なんだと噛みしめていたんじゃないかと思ったのです。

初シュガートースト!

あ、この「砂糖食パン」を焼いたら巷で人気のシュガートーストになるのでは? お店で食べたことはありますが、家ではつくったことがありません。この際だからやってみましょう。

トーストしてみたのが、こちら。

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表面の砂糖は溶け、カリカリになりました。香ばしさと甘さが素晴らしいハーモニーを奏でながら、楽しく踊っているよう。まるでTWICEの曲です(多分)。おいしい! そりゃみんな焼くわ。

砂糖食パンとシュガートースト、天国のおじいちゃんはどっちが好きかな。ちょっぴりセンチメンタルな気持ちで、完食しました。

再現より大事なこと

今回「砂糖食パン」を当時そのままに再現したかったのですが、結果的には失敗でした。食パンの種類を変えてもう一度チャレンジする考えもよぎりましたが…いや、これでいいじゃないかと思い直しました。

なぜか幸せな気持ちだったから。

テーブルの上で食パンをちぎるおじいちゃんの厚い手のひらと、太い指。母の心配そうな顔や、父の真剣な目つき…。

記憶の谷にこぼれ落ちていた他愛のない場面、二度と戻れない甘やかな時間に、できそこないの砂糖食パンが連れていってくれたんですね。

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文:シノ


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