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仕事帰りにメロンパンを買うような

仕事を始めて二週間が経った。
これまでの半年ほどの昼頃まで暢気に眠っていた暮らしが嘘のように、毎朝6時に起きて身支度を整えお弁当を作り、8時に家を出て電車に揺られ職場に向かう日々を過ごしている。
出勤3日目にあの大雪の日に打ち当たり、それを乗り越えたあたりで「もう安泰だな」と漠然と思った。雪を乗り越えられたら猛暑も乗り越えられるだろう。夕立もどんと来い。

どうやら私は仕事覚えが早いらしい。
私としては毎日死に物狂いで喰らいついているのだが、指導者には余裕そうに見えるみたい。全然…もっとゆっくり…まだ崖から落とさないでくれ親獅子よ…の気持ち。それでも期待には応えてたくて、苦手な「わからないことがあったらすぐに聞く」も実践し、梱包紙のプチプチを潰すように不安要素をひとつひとつ消していった。指導や注意を人格否定と捉えないように、自分の認知の歪みに尚のこと自覚的になった。
そんなこんなで早二週間。研修生の名札は着けたままだが(数ヶ月は着けておく規定がある)、指導員付きっきりの研修期間は無事終了した。

接客業ゆえ、この短期間に"変なお客様"と対峙することもあった。めちゃくちゃ機嫌が悪くて急いでいる人、若い女の店員(私や他の社員さんなど)にはキツく当たり、奥から出てきた男性の店員には普通に接する人…
そういう人と対峙するたび、ああ、この人は今きっと時限爆弾を身体に巻き付けられているんだ、だから焦っているんだ、じゃあ仕方ないね、という具合に受け流す術を身につけた。流石に出会い頭に怒鳴られたときは言葉も出ず身体も硬直したけれど、対応を代わってもらった先輩の背中を見ながら「このお客様はきっと余命半日なんだ…だから生き急いでいるんだ…仕方ないね…かわいそうに」と考えた。煮詰まった毒をじわじわと解毒する時間。

生身の人間として接すると生傷が絶えない。
だから一枚鎧を着る。それは他人の悪意を一切貫通させない最強の鎧。時と場合によって薄膜のベールに変わったり、LEDの装飾で飾り付けたり、柔軟に七変化(実際にはまだ三変化くらい)する鎧。それが弱々な私を守ってくれる。

慣れてくると仕事が楽しくなる。
慣れてくると気が緩んでミスを犯す。
良い塩梅を探りながら働いている。楽に息ができる生き方を見つけたい。無理せず、だらけ過ぎず、丁度いい緊張感を纏った働き方が理想だ。そのうちもっと責任の伴う仕事も任されるようになる。そうなった時、自信を持って対応できるようになりたい。不安を抱えたまま一人で泥濘に沈むのではなく、気軽に周りにヘルプを出しながら上手く舵を取っていきたい。

今日みたいに、職場に来ていたキッチンカーのお兄さんの呼び込みに惹かれてメロンパンを買うような、そんなちいさな幸せの積み重ねで一日を生きていく。明日のことは考えない。今日をただ生きるために生きている。

好きを仕事にできてよかった。
このままいけば、好きを嫌いにならなくて済みそうだ。
明日からは久々の二連休、朝寝坊しよう。

お兄さん「幸せをたくさん詰めておきました!」

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