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月とリンゴとコージーコーナー

同じ空間で、私は仕事、彼は勉強をしている。
「分かんない分かんない・・・うわぁ~~~」と悶絶しながら文献資料と睨めっこをしている彼がちょっと可愛い、と言ったら怒られるだろうから言わない。自分はPC画面と睨めっこをして黙々と作業を進める。途中、行き詰まると私の手を一瞬触りにくるのも可愛い。え?かわいい。本当に年上?

自分の部屋に彼の私物が追加されていくのが嬉しい。
着替え、歯ブラシと歯磨き粉、シェーバー、香水、本、お酒、PC、スピーカー、試しに買ってきた缶ピース。部屋に色が増えていく。
彼を駅まで迎えに行っている間に藤の香りのお香を焚いておいた。玄関に入った瞬間に「いい匂いがする!」って喜んでくれたのが嬉しかったし、そのあと「これ焚いてもいい?」って勉強前に尋ねてくれたのも嬉しかった。
彼が愛用している香水をうっかり買い忘れたという。せっかく会えるのにその香りを感じられないのは寂しすぎたから、彼が来る日に合わせて私が買っておくことを提案させてもらった。そしたらお礼にとコージーコーナーのケーキを買ってくれた。私はショートケーキ、彼はミルフィーユを選んで食べたのだけれど、お互いのをひとくちずつ分けっこしたら互いに相手のケーキの方が好みであることが発覚して、途中で交換こした。上に乗ってたいちご、食べちゃってごめんね。

「アレルギー発症させようかな」
「なにして?」
「リンゴ食べるの。あと二切れ残ってて、昨日までの賞味期限だった気がする」
「やめなよ、ただでさえ果物アレルギーなのに賞味期限切れたやつなんて」
「それくらいしないと贖罪にならないかと思って・・・」
「いのち賭けてまで贖罪なんてしなくていいよ!」
行為中、予定日より一週間早く来た月のもののせいで続きができなくなってしまった申し訳なさから発動した奇行だった。自分のとはいえシーツも汚してしまって軽くパニックを起こしながら謝る私に「大丈夫だよ、好きだよ」と言い続けてくれた。こっち(シーツ)はどうにかしておくから、とりあえずシャワー浴びてきな、と背中を撫でられて、思わず泣きそうになった。というかお風呂場で泣いた。もう申し訳なさと恥ずかしさと苛立ちで訳分からなくなった。シャワーを浴びて部屋に戻ると、彼が私のパジャマの上を着てパツパツ状態になっていたので、思わず吹き出してしまった。私を笑わせるためだったらしい。やさしい。

「三年後くらいにたぶん留学するんだけど、会いに来て欲しい。遊びに来るならフランスとハンガリーどっちがいい?」
私の気分で留学先を決めていいのか?と思ったけど、そういう変なところも好きなのでいい。どっちがいいか考えておくね。三年後は私は26、君は27歳。どうなってるんだろう。今みたいに緩く、のんびり、そんな関係性が続いていたらいいなと思う。

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