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お月見セットの花束をもって
その日、遅れていたお彼岸の墓参へ行きました。帰りに花屋へよったら「お月見セット」の花束があって、入っていたのはススキと菊と紫のリンドウ、あと小ぶりな白いカーネーション。他、2種類。お月見セットという名前通りに、菊の形が写真にあるように、まさに月!に見えます。
でも、丸い菊2本入っていました。いいのかな、いいのです。これは「見立て」。ふたつの月を抱えて、束にする。新しい時代がやってきそうな予感がします。
その花束を片手に、電車に乗って、自宅近くまで戻ってきた辺りで空を見上げました。手元にある月よりも、小さくて、迫力のない月が昇っていました。自粛生活が続いたし、まだ続いているので、ミラーレス一眼で外の広大な景色を撮影する機会は先送りになっているわけですが、ちょうど目の前にある近所の月ぐらいは撮ってみようとカメラを鞄からゴソゴソ出しました。
この瞬間、私は、暗がりでもちょっと緊張します。さっと出して、パシャパシャっと撮り、足早に去っていきたい気持ちになるのです。
実は、この日、カメラのハンドストラップを販売している出店に立ち寄っていました。お財布とか小物が並んでいて、面白そうだとのぞいたら、カメラストラップが後ろの方に吊り下がっていて、よく見るとその横にカメラがディスプレイされていました。それらのどれもが目の高さよりも上にあって、立ち寄って興味を持ってみなければ、気づかないレベルのディスプレイでした。
何だ、これはカメラストラップじゃない!
そう思って手にとってみていくと、ハンドストラップがもっと隠れたところにあるのに気づきました。
私は今、ピークデザインのストラップを使っていますが、これだと鞄の中から、さっと出して、パシャパシャっと撮って、足早に立ち去るができません。それは、カメラを首にかけている時にできるものです。
外で撮ろうとすればするほど、やっぱりハンドストラップが欲しいなと思います。
そんなことを思いつつ、ハンドストラップを触っていると、奥にいたイケメンがすっと横に立って話しかけてきます。太陽をよく浴びた匂いのする人でした。聞けば、海のきれいな島の人。ダイバーだったかもしれません。メインはカメラストラップを作っているといいます。手に取ってくれて嬉しいと嬉々として話しかけてくれました。
それならと、わかりにくいディスプレイのこととかを、余計なことだけど言ってみました。すると、聞く耳のある人だったので、その後しばらく商品の感想を、実際カメラに装着してみたり、試作品を装着し直してみたりしながら求められるままに述べて、購入はしなかったけれどショップカードをもらったのでした。
そんなこともあったので、その夜に月を見ながら、鞄からゴソゴソとカメラを出したときに、やっぱりハンドストラップは欲しいなと思ったのです。昼にイケメンから買っておけば良かったのか? でも、彼の新商品がもっと開発されてからの方が使う。と、期待したところで、遠くで子供の声が聞こえてきました。
月に向かってミラーレス一眼をおもむろに構える。ズームできないけれど、これはレンズの限界かな?外の景色の設定は何だったっけ?とモタモタ。
すると、遠くで聞こえていた子供の声がどんどん大きくなってきて、いつの間にか、10人そこそこの数の子がワラワラと寄ってきて、思い思いに何か話しています。こんな感じです。
もぐもぐもぐもぐ…むしゃむしゃ…🍙
— 宇都宮動物園【公式】 (@utsunomiya_zoo) October 3, 2020
カメラが気になる子もいるようです☘(べ)#モルモット #テンジクネズミ#齧歯類 #ご飯 #宇都宮動物園#カメラがきになる #なかよしらんど pic.twitter.com/otYmKkk28n
あっという間に集まった彼らは、話しかけるような話しかけないような距離と雰囲気。そして、滞留してしまいました。
どうしよう、また何となく人が集まってしまっている
この人が集まる現象が発生するときというのは、たいがい、話しかけるような話しかけないような距離感が多く、いつも私が話す気になればお話ししてしまいそうだなと思うのです。それは直接、話しかけてこなくてもこちらを話題に絡めて喋っていたりして、口はこちらを向いています。例えば、「月だ、月撮ってる」「何で?」「満月だからだよ」とかね。おしゃべりに誘われている気分になります。
そして、とうとう、その日は一人が話しかけてきました。子供がよく乗って遊んでいるスケートボードのようなリップステック。
それに乗って身体をくねくねしながら、一人が真横にすちゃっと並び、顔を見上げてこちらを見ます。
どうして花束持っているんですか?
えっ⁉︎ そこ!
覚悟していた「何を撮っているんですか?」でも、「何で撮っているんですか?」でもない質問。想像していなかった質問です。
彼は小学生、低学年男子。カメラじゃなくて、川辺で花束を持って写真を撮っている「人」の方に興味があるのだろうか? 面白いなと思いました。咄嗟に、「お月見だから。。」とは答えたのですが、彼はスイっと目をそらして、何か考えていましたが「ありがとうございました」と言い残して、くねくねと身体を揺らしてその場を立ち去りました。
どうして花束持っているんですか?
そこから、私は「川辺で花束を持つ女」というタイトルのミステリーの世界に引き込まれつつ、その場を立ち去ったのでした。
満月の夜は、人がザワザワする日。
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