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暖暖|クマのぬいぐるみが恋人

クマのぬいぐるみ、3つ目のお話です。

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今回は、過去の恋人が絡むので手短にしたいと思います。なんと言っても、覚えていることが鮮明ではなくなっています。世間一般的にはそれを、美化されているというらしいです。

さて、母へのプレゼントとして4つ目のクマを買い求めに行った、ぬいぐるみ専門店。そこは、かつて恋人に案内されて知ったお店でした。はっきり聞いたわけではありませんが、彼は、偶然を装って私をそこへ連れて行ってくれました。

引っ越しに紛れて、パンダのぬいぐるみがなくなってしまった悲しみを打ち明けたことがあったんだと思います。とにかく彼には、なんでも話していましたから。生きている動物も生きていない動物も、比較的永い付き合いになることが多いので、そのパンダも15年以上は関わっていたと思います。最後を知らないことが、いつまでもシコリになっていました。

そのお店には精巧な作りの、他所では見たことのないようなものばかりが置かれていました。凝っているというか、丁寧に作られているというか。どれも魅力的に見えるのです。当時は普通に見かけなかったアライグマが、綺麗なフォルムだったりして見惚れてしまいました。一つ一つ手に取っては、眺めて、また元の位置に戻すを繰り返した後、クマに目が止まりました。

かわいいね

そう言われて、「うん」と頷いた後、それも他と同じように元の位置に戻しました。

まもなくすると、そのクマはリボンのかかった袋に入って、誕生日に私のところへやってきました。「どうして!?」「欲しそうだったから」というやり取りが脚本のようになされたのですが、言葉は正確ではないかもしれません。ただ、本当に嬉しかったのを覚えています。そんな風に、自分を喜ばせてくれる人がいることを。

それは、彼にとっても私にとっても特別な出来事でした。お互いがそれぞれに、大切に想う人が喜ぶ姿をみて、またそれを喜ぶ。クマも嬉しいけれど、そうやって喜んでいる彼の顔を見られて、それも嬉しかった。そういう幸せのあり方は、モノやお金が少し絡まるけれど、何をしようが贈与だらけなのです。

その彼がそばにいなくなっても、そのクマは私の側を離れることはなく、また10年単位の時が当たり前のように流れたのです。


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