『フラクタル世界』第2話


1.

もう何日になるか。
あるいは何年になるかもしれない。
いやなに、ちょうどこの地点(つまりは足元にはアズミノ草が咲き、七福神の耳の形をした岩に一枚のカシヤシイの葉っぱが乗ったこの地点)に来た時間に関しては覚えている。
さっきだ。
数日前より力の湧くままに、渓流を下ってこの岩の前まで来た。
特段目的があったわけでもないが、地べたに座り込んで何もしないのも、それはそれで意地がいる。
重い腰も退屈には勝てないのだ。
ではその前は何をしていたか。
印象に残っているもので言うと、たしか10mほどの滝を迂回して下ったと思う。
さらに挙げるなら、鹿の足跡を見つけたことも覚えている。
その前の出来事も、思い返そうと思えば遡れる。
しかし極端に昔となると、今度は運動会の組体操やら合宿所で出たカレーなど、「事実としての記憶」しか残っておらず、心象風景・・・・はいつの間にか途切れているのだ。
まったく、いつどこでこの世界に迷い込んだのか。奇妙なことだ。




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