『フラクタル世界』第1話

序章


ぼくには特殊能力がある。
それは短絡的に見れば、強く魅力的な力だ。
同時にまるで不死のような妖しさを秘めている。
それすなわち善いことであるからして、多くの人は羨ましがる。
まるでそれを持っていること自体が幸せだとでも言うかのように。
そんなにも羨ましいのなら是非とも代わってやりたい。
むしろぼくはこの力のせいで幸せから遠ざかっているような気までしているのだから。
それでも贅沢な悩みだと一掃されるうちは言わないで来た。

ようやく今が頃合いだ。

ここで当たり前のことをはっきりと断言しよう。
『事実がそのまま幸せになることはない』
本当の幸せとは、少なくとも、感じるものだ。
つまり、主観的なものだ。
ぼくが強者だからといって幸せとは限らないのである。

それでも、ぼくを幸せ者に仕立て上げたい人が数多くいることは知っている。
否定はしない。
たしかにこの能力を使えば、彼らの悩みのいくつかは解決するだろう。
しかし仮に手に入れたら、きっと知ることになる。
そこにも元と同じ世界が広がっていることを。
それどころか余計な力だけを授かって色褪せた世界に片道切符で取り残された彼らは、たちまち狂ってしまうだろう。

これは、そんな特殊能力を持った強者の物語であり、同時に世界の構造の話である。




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