『フラクタル世界』第3話


どうでもいいことだが、無重力空間では壁と天井に差異はあるのだろうか。
重力に縛られた世界ではそれらを一緒くたにする言葉など必要ないのであろうか。
なぜこんなしょうもないことを考えているかといえば、暇だからに他ならないのだが、加えて言うなら、今まさに目の前の状況を言い表すのに困ってしまったからだ。
サイコロの内部のような無機質な部屋の、どこが上なのか下なのか分からない。
「ここが天井ですよ」と言われれば「ああそうですか」と納得してしまいそうだ。
それほどまでに考える材料・・・・・すらない、空っぽで宙ぶらりんな空間。
ただひとつだけ直感的に分かることがある。
どうやらここはだいたい地上15万階くらいなようだ。
上も下も分からないのに、階は分かるらしい。自分でもおかしな話だと思う。
だがそれはリンゴを目で捉えた時と同等の精度でたしかなのだ。
ひょっとすると、時の流れを重力だと、ぼくの身体は感じているのかもしれない。

そんな約15万階のサイコロの部屋の壁(仮)に、いくつかの写真が飾られていた。
「運動会の組体操」
「合宿所のカレーライス」
「10mほどの細い滝」
「岩に寄り添うアズミノ草」
それらはどこかで見た景色な気がして、妙な違和感を覚えた。
そしてもうひとつ、部屋の隅っこにぽつんと立てかけられている言葉に目が留まった。

『ある日、この世界で目が覚めた、に違いない。』

誰の言葉だろうか。
そう疑問を持つと同時に感じた。
なにかが、おかしい。



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