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大学が「アカウントに鍵をかけた学者」を雇用するリスクについて

Twitterでネットリンチの被害にあった羽藤由美氏が、その中心にいた東野篤子氏のnoteの記事に、怒っている。

本年10月15日

入試の実施にあたり誰が責任者を務めているかは、試験問題を誰が作ったかと同様に、大学で最高レベルの秘匿事項である。私も准教授時代に何度も担当したが、辞めるまでは一切、その体験については文字にしなかった。

勤務先の機密を平気で公開する教員が、近日まで国防やインテリジェンスを論じていたのも不安になるが、東野氏の当該のnoteについて、私は別の点がいっそう気にかかる。

私がTwitterアカウントに鍵をかけたあと、今まで私を攻撃していたアカウントの一部は、私というターゲットを失ったせいか、ソフィヤさんにまで執拗な攻撃を加えるようになりました。

私は鍵をかけたあとはTwitterから離れる時間も多く、ソフィヤさんが受けた被害を後になって知り、彼女が私のせいもあって辛い思いをなさっている時に、何も出来なかった自分を深く悔やんだのでした。

強調は引用者

鍵を開けたらいいんじゃないでしょうか。片岡ソフィヤさんはいま、鍵を開けているし、東野さんもかける理由はなくなったはずでは。

東野氏の行動には、大学教員の体験者として、他にも首をかしげる点が多い。以下、具体的に3点指摘する。

* * *

① なぜ、大学の広報部署を回避するのか

施錠された彼女のTwitterのホームを見ると、「取材のお問い合わせは」として、大学の窓口ではなくGoogleフォームに誘導される(ヘッダー写真)。

しかし彼女自身の6月のnoteによれば、これは週刊誌で報じられた誹謗中傷騒動に限っての例外的な措置だったはずである。

本件に関する今後のメディア関係者の方々のお問い合わせは、大学広報ではなく、以下のGoogleFormを用いてご依頼いただけますと幸いです
可能な限り早期に折り返しご連絡いたします。
https://docs.google.com/forms/d/1zrIhMDamhi0KM_071HtC9e724N9K49CgJDh45KYJEAo/edit

(番組への出演依頼は通常通り、大学広報宛てにお願いいたします)

本引用の強調は原文ママ

私が勤めていた2010年の前後は、(大学にもよるが)ガバナンスがめちゃくちゃで、大学院への入学志望者が教員個人と直にコンタクトをとったりしていた。不正を招くとまずいということで、いまは多くの大学で、教員への外部からの連絡は原則、公式な窓口を通す。

またそのめちゃくちゃ時代にも、さすがに報酬が発生する外部の事案は、すべて大学に報告し許可を得るルールだった。私も「電話で15分会話して、うち5分がラジオで流れる」程度の取材でも、逐一書類を作って事務方に届けたものである。

過去記事が流れてゆくnoteと異なり、常にトップに表示されるTwitterのホーム(フォロワー数は9万人強)に「取材はこちら」とあれば、大学の広報を通さず個人的に連絡する人が増えるのが自然だろう。そうした「裏ルート」を設けることを、東野氏の勤務先は容認しているのだろうか。

② 他にアカウントは用いていないのか

Twitterは(たとえば)Facebookと異なり、アカウントの管理がザルなことで有名で、ひとりが複数のアカウントを持つことが容易にできる。本名でのアカウントの他に「裏アカ」も持っていると、公言した上で使う人も珍しくないし、それが即、モラルに反するというわけでもない。

しかし本名での活動が原則の研究者で、かつ「事情があり鍵をかけます」としている人が、もし「他にもアカウント持ってますけどね?」となった場合は、あまり印象は良くないだろう。

実は東野氏については、裏アカがあるのではとの憶測をよくネットで目にする。以下を見るかぎり、それなりに説得力があるのも困りものだ。

「岡部さん」は、写真の右から2人目

JSFとは、東野氏が(本名の)Twitterで始終親しくしていたライターである。匿名で正体不明なのだが、意見の異なる研究者を激しく罵倒する癖があり、国際政治学者でもたとえば篠田英朗氏は、かなり怒っている。

「さすが岡部さん」云々とあるのは、東野氏と同じくウクライナ戦争の解説にひっぱり凧だった、同国を研究する岡部芳彦氏だ。確定するには根拠不足だが、上記の語り口は単にTVで見たファンではなく、岡部氏本人と親交があることを匂わせるので、そうした噂を呼んだものかと思う。

この @maku94483 というアカウントは、2024年1月の利用開始とある。東野氏が羽藤氏からの抗議を受けて鍵をかけたのは、同年2月の末なので、それより前から存在する。ここは、誤解のないようにすべきである。

なお @maku94483 の発言内容は、ほとんどが日本保守党の百田尚樹・有本香・(現在は離れたが)飯山陽といった各氏への批判のようだ。匿名の作成者は、親衛隊的なファンネルを多数従える彼らと争うための専用アカウントとして、作った可能性が高い。直前には、同党の周辺が意に沿わぬ学者を一斉に攻撃し、大騒動になっていた。

東野氏は「TVの出演時に、Twitterで容姿の悪口を言われた」ケースに対し、民事に留まらず、むしろ刑事告訴を選んだことでも知られる。つまり、自身への名誉毀損に非常に敏感な方である。

ふつうに考えて「本アカは停止と称しつつ、実は裏アカを使っている」といった風評が飛ぶのは、名誉なことではないだろう。事実無根の場合はnoteで公式に否定された方がよいし、その場合は本記事も訂正したいと思う。

③ 鍵アカでの「見えない交際」は適切か

東野氏は2024年2月27日、鍵をかける旨を告知したツイートで(以下の記事に引用)、「新規のX投稿を無期限で停止する」・「今後は国際政治関連情報のRPのみに用います」と述べていた(原文ママ)。つまり、以降は自分からの発信はしないとの趣旨である。

一方、実際には鍵をかけた内側でも自身のファン等とのやりとりを行っていることは、たとえば近日の以下のスクショからわかる。そうした個人どうしのつきあいまで「無期限で停止」するのは酷だなと思う半面、DM機能(私信)でやればよいのにという気がしないでもない。

本年10月12日のやりとり

問題は、鍵のかかった――つまり所属する大学も含めて外部から見えない空間で行われる、交際の内実である。上記の方の場合、自著のPRにかこつけて東野氏の記事を紹介したことに対し、同氏が謝意を述べたものと見られる。

著者自身のサイトによると、書籍の内容は以下である。学問的な著作ではなく、政治運動のパンフレットのようだ(だからいけないとか、価値が低いということではない)。

刊行元のドニエプル出版は聞いたことがなかったが、2015年に法人化された自費出版の版元のようで、代表の講演歴からもそのスタンスがわかる。たとえば、上記書に参加したグレンコ・アンドリー氏は、こう述べている。

「実は「ロシア連邦」とは、モスクワ政府に支配されている諸民族の集合体」というのは、ひとつの思想ではあるが、学問の世界で標準的な見方ではないだろう。大学に属する研究者が、そうした見解に見えないところでお墨つきを与えるリスクも、「鍵アカウント」の状態では避けられない。

* * *

私自身、大学に勤めながらTwitterを使っていた時期があり(2011~14年)、所属機関はなるべく、それらの利用法に自由であるべきと思っている。過度の規制や、コンプライアンスの画一化は、学問や研究の自由になじまない。

一方でだからこそ、大学教員――特に専門家としてメディアに露出し、研究職のシンボルのように社会の注目を集める人は、SNSの用い方にも留意してほしいと思う。国民に「さすが、ネットでも学者の人は立派だね」と見られるのか、「ガクシャとかダメだろ(笑)」と思われるのかで、学問や知性が今後、どの程度尊重されてゆくかも変わる。

遺憾ながら、大学の教員たちがなにひとつ範を示さなかった悲惨なコロナ禍を経て、いまや失敗例の方が数多く落ちているのが、日本における「学者とインターネット」の現状だ。そうしたあり方を正すために、自分には何ができるのか、いま一人ひとりが心に問うときだと考える。


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