いつか死ぬ私へ
拝啓 いつか死ぬ私へ
お元気ですか。こちらは10月の中旬、金木犀の香りが段々と薄れ、木枯らしの準備に移る季節です。
こんな手紙を書く事を、どうか許してください。なぜなら、あなたはいつか死ぬ事が決まっているから。何十年先の話かもしれないし、もしかしたら明日の話かもしれない。こればかりは分からないんだ、あなたも私も。
あなたは今何をして過ごしていますか。
大事な人の隣で過ごす事が出来ていますか。臆病なあなたは、大事な人が隣にいても触れる事すらも出来ず、誰かを愛する事が許される人間ではないと思っているでしょう。
私もそう思っていたんです。
アセクシャルというセクシャルを持って、Xジェンダーとして男にも女にもなれない、人として生きていたいあなたにとっては、少なからず他人に寄り添う事を諦めていた時もあったでしょう。相手に下心を見せられると気持ち悪く思えて、恋愛映画やドラマすらまともに観られない時があったでしょう。
人生とは分からないものです。私も、この先1人で生きていくものだと思っていましたから。そんな私が、この人となら、と。隣にいて、心に触れて、大事にしたいと思える存在に出会えたことを、あなたはどう思うのでしょうね。あの人は男性だけれど、きっと女性でも同じような想いを抱いたと思います。それがたまたま、あの人が男性だっただけの話です。
どうか、あなたはあなたを許してはくれませんか。もう嫌という程あなたは自分を傷付けてきたし、他人を傷付けてきました。死にたい夜を幾つも越えて、ようやく生きたい朝にたどり着いたんです。
あなたが人として出会い、人として誰かを愛したいと思える存在に出会えた事を、どうか幸せだと思える日が来ますように。
脈絡も起承転結もない手紙でごめんなさい。急な手紙になって驚いたでしょう。
でもいつかの私がこれを読んだ時、笑って読んでいてくれますように。
その時まで、どうか。
私より
敬具
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