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わるいひと
泣きながら文章を書くのはいつぶりだろうか。私は今、初めての感情に戸惑っている。
恋という感情は未だに分からない。ただ、分からない感情に戸惑っている。
不思議なのは存在。声が、匂いが、私に触れる手が、温かかった。全てが落ち着く。恋人みたいな距離感で、深夜のカラオケで夜を明かした事もあった。その人になら全てを預けられるんじゃないかと、勘違いしそうにもなる。
隣にいたくて、話したくて、触れたい。隣にいさせて欲しくて、話して欲しくて、触れて欲しい。あの人の心の片隅にでもいいから私をいさせて欲しい。私はあの人のこころが欲しくて、あの人に私のこころをあげたい。こんなのわがままだ。欲しいしあげたいなんて、私のわがままで一方通行だ。
ロングだった髪の毛を、あの人が好きだっていうショートカットにした。どんな髪型がいいか、ふたりで決めた。ショートカットにした当日に、あの人に見て欲しくて会ってもらった。変えたばかりのネイルだって、いちばんに見せたかったし褒めて欲しかった。夏だからと嘘をついた、髪の毛を切った本当の理由なんて誰も知らない。あの人が好きだという女の子になってみたかった。髪を切ることだって、ふたりだけの秘密が欲しくてあの人にしか教えなかった。
こんなの、子供じみたわがままだ。恋とはそういうものなのか。
いとしい、いとしいとこころがいう
戀という漢字の成り立ちはそこから出来たらしい。ああ、どうして。どうして私は書きながら、泣きながら、あの人ばかり思い出すんだ。どうして私は、あの人の隣がいちばん落ち着くんだ。
あの人は私の匂いをいい匂いだと言った。人間的な匂いがいい匂いらしい。すれ違ったり隣にいるだけで匂いがするという。そんなの初めて言われた。
休憩中の煙草を吸う時間が好きだ。あの人が一緒ならもっと好きだ。くだらない、どうでもいい話に付き合ってくれて、私を見るその瞳が好きだ。上手く喋れなくて身振り手振りが多くなってしまう私を、頷きながら聴いてくれるその姿が好きだ。ひとりが好きなのに、あの人といる時間がいちばん好きだ。
恋は砂のようで、愛は泥のよう。指から想いがこぼれていく。掌に残る砂は僅かしかない。その残った想いに、どれだけ願うか。僅かな想いを、どれだけあの人に与えられるだろう。それが愛だというのなら。
きっと私は、あの人に愛を与えたい。
私を狂わすあの人は、わるいひとだ。
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