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「ねこの大福」 はらまさかず

1 大福

ねこの大福は、大福もちそっくりです。
白くてもっちりしています。
動くのがきらいで、いつも、だらしなくねています。
でも、一つ、好きなことがあります。
それは、字を書くことです。
大福は、「大」という字を書くことができます。

大福は、学校で字を覚えました。
もっちゃんという子が習字の時間に教えてくれたのです。
筆と紙は、先生が用意してくれました。

もっちゃんは、『福』という字も教えてくれるといいました。
「福はむずかしいよー。もし書けたら、猫で初だ!」
もっちゃんが言いました。
でも、それから、コロナで学校が休みになって、もっちゃんに会えないのです。
大福は学校に行きたくて、うずうずしています。

2 大大大
 
長いお休みも、そろそろおしまい。もうすぐ学校が始まります。
でも、もっちゃんは、なんとなく学校に行きたくありません。
このまま、家で勉強すればいいのに。なんで、また学校にあつまって、みんなで勉強しなくちゃいけないんだろう、と思います。
 すると、窓ガラスを誰かがコンコンとノックしました。
 カラスです。口に何かくわえています。
 もっちゃんは、それが、ねこの大福からの手紙だとすぐにわかりました。『大』と、大きく書いてあったからです。
 もっちゃんは、手紙を受け取ってひらきました。
 手紙には、『大大大』と書いてありました。
 お母さんが、横から顔を出して、
 「どういう意味?」
と、ききました。
 「これはねえ、」
 もっちゃんが、最初の『大』の字を指して、
 「大丈夫? 元気?って意味」
と言いました。そして、次の『大』の字を指して、
 「大急ぎで来て。早く会いたいって意味」
と言いました。
 「もっちゃん、すごいね。じゃあ、最後のは?」
 お母さんが最後の『大』を指差しました。その字だけ少し小さく、恥ずかしそうに見えます。
 「これは、、、」
 もっちゃんには、よくわかりませんでした。
 「大好きって意味なんじゃない?」
 お母さんが言いました。
 もっちゃんは急に、大福に会いたくなりました。

3 福

 ようやく、学校が始まりました。 
もっちゃんが学校に行くと、校門の前に太った猫がいました。
 校門を枕に、おなかを出してねています。大福です。
 もっちゃんは、急に元気になりました。
 大福も、もっちゃんに気づき、のっそり起き上がります。そして、いっしょに教室に入りました。
 
 「大福、ひさしぶり!」
 教室のみんなが言いました。でも、大福はぷいと横を向きます。
 「大福ちゃん、ひさしぶり」
 大福は、先生にだけは、少しおじぎをしました。
 先生は、習字の用意をしてくれました。 

もっちゃんは約束通り、大福に『福』の字を教えてあげました。でも、大福はうまく書けません。
 「いい。まず、カタカナのネ。それから漢字の一、口、田んぼの田。ね、一つずつやれば、福になるよ」
 もっちゃんが言いました。
 大福は、いっしょうけんめい書きました。
 でも、書けません。一と口と田は、なんとか書けましたが、ネが上手く書けません。
 「ネは、ネコのネだからネ。大福なら、ぜったいできるよ」
 もっちゃんが言います。
 でも、やっぱり書けません。
 「もう少しだよ」
 もっちゃんが言いました。
 習字の時間が終わっても、大福はずっと字の練習を続けました。でも、みんなが帰る時間になっても、やっぱり書けませんでした。

それから毎日、大福は学校にやってきました。
習字の時間がなくても、大福だけ字の練習をしました。

梅雨に入り、雨ばかりふるようになっても、大福は気にせずやってきました。
大福の毛は白いので、体についた墨が雨で流され、ちょうどよかったのです。
今年は、夏休みが短くて、いつまでも授業が続いていました。でも、それも、字の練習をしたい大福にとってはうれしいことでした。
今年は、みんな大変で、いろいろ嫌になってしまいます。
だけど、毎朝、校門でねている大福や、雨にぬれながら楽しそうに帰る大福を見ると、みんなはなぜだか元気が出ました。

4 大大福

セミがうるさくないています。
学校の門の前に、今日も朝早くから太った猫がねそべっています。
 大福です。
 最近、子どもたちがみんな、大福を見ると、
 「大福、がんばれよ!」
 「大福、もうすぐだぞ!」
と、声をかけます。大福が、『福』の字を書こうと頑張っていることを知っているからです。
 でも、大福は知らんぷり。
 もっちゃんが来た時だけのっそり起き上がり、いっしょに教室に入ります。
 
教室では、先生が毎日、習字の用意をしてくれます。
大福は、先生にだけは毎日少しおじぎをすると、『福』の字の『ネ』の部分の練習にとりかかります。しかし、何度やってもできません。
 もっちゃんが、大福の手をとって、いっしょに書いてあげます。
 そうするとできるのですが、ひとりではやっぱり書けないのです。
 大福はいらいらして立ち上がり、ツメで紙をびりびりにしようとしました。
 でも、やめました。
 もっちゃんや先生に悪いなと思ったからです。
 そして、また、やってみます。
 大福は顔の汗をふきながら、
 一つ一つ、ゆっくりと書きました。
 
ネコのネ、
一、
口、
田んぼの田。
 
 教室のみんなが、いっせいに拍手をしました。
 先生も拍手をしました。
 もっちゃんが、大福をぎゅっと抱きしめました。
 「大福、ねこで初だよ!」
 大福の目の前には、
 大きくて、元気な『福』という字がありました。
 大福は、ニンマリと笑い、
『福』の字の上に、大きく『大』と付け足すと、
ニャーーーーーーーーーーーオ
と、大きな声でなきました。
 みんなも負けずに
 ニャーーーーーーーーーーーオ
と、元気にいいました。

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はらまさかず
はらまさかず
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児童文学作家、エッセイスト。「お父さんとお話のなかへ」(本の泉社)。はらまさかずのエッセイhttps://note.com/hara_masakazu

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