恥の匂いがした。 『透明な夜の香り』
罪と罰とが循環している。
見捨てた分だけ、見捨てられている。
それはとても自然なことで、それが悲しくてしかたない。
汗で惨めに湿ったからだから、いたたまれない恥の匂いがした。
感想
匂いばかりはどうしようもないよな、と思います。
どうしようもないものは匂いに似てるな、とも思います。
求めることも拒むことも、そのどうしようもない本能のようなものによって、ごく自然に行われている。そのことがとても悲しくてしかたなくなるときがあります。悲しいという言葉でかたづけるしかないことが、もう悲しい。
人生で何度かどうにもならなくなって、人に助けを求めたことがあります。
藁にもすがる思いで伸ばした手。それを振り払われることが、どれほど惨めで恥ずかしいことか。あまりの情けなさに鏡も見れなくなり、生きていくことを諦めたくなる。
けれど、そんな痛みを知っていながら、同じように手を振り払ったことも何度もあります。
迷惑だから。面倒だから。はっきり言ってしまえば不快だから。
どうしようもないんですよね。もうどうしようもないんですよ、こればっかりは。
抑えきれない執着があるんです。受け入れられない匂いがあるんです。
現象です。誰も悪くないんですよ。
この本を読んで、もしかすると罪を犯した分だけ罰を受けてるのかもしれないな、と思いました。見捨てた分だけ、見捨てられているのかもしれないと。
まあそれは、恥の記憶を正当化したくて、自分についた嘘だという自覚はあるのですが。
やっぱりいいですね、千早茜さん。表現がとても好みです。
登場人物の誰もが、どうしようもないものを抱えて生きている。
夜の空気みたいにひんやりと冷たい一冊でした。
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