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レシピとエッセイの世界

 自分の読書傾向のなかでひっそりとだけど明確なポジションを持っているのが、外国の料理を紹介するエッセイ本、あるいはエッセイのようなレシピブック、だ。これ、コアがレシピでもエッセイでもダメで、両方がちょうどよくバランスしているものが大変好み。

 たとえば「イギリスのお菓子と暮らし」北野佐久子著、
 「イギリスの食卓に夢中」赤木有為子著、
 「イタリアの修道院菓子」佐藤礼子著、などなど。

 これまでにフランス、ベトナムなどのこういった本も読んだのだが、さらに好みを絞りこむとイギリス菓子とその周りにある世界が好みらしいことがわかる。上記など修道院菓子とか、要するに素朴で華美でなく、ちょっと野暮ったい見た目のお菓子に光が当たっていて、かつそれを供する人たちの丁寧な暮らしぶりがわかるものが好きなのだ。

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 華やかな菓子であれば別に王道のレシピブックを見たらいいわけだし、それに「おいしそうだな。ちょっと作ってみたいな」と思った瞬間にくじけること間違いない、そろえる材料の多さや手間。一方でこのイギリスや修道院という、華美なことと相反にある世界観の方が「お?やってみるかな?」と思えるくらいの材料とレシピ、なのにそれを愛する人々の庭造りやおもてなしの細やかな心といったらまるで正反対で、それが併せ持った本というのがなんともたまらなく好きなのだ。

 コロナ禍で「ストレス・ベイキング」という言葉がトレンドになったことをおぼえているだろうか。外出禁止令のなか、在宅時間が長期化して飽き飽きしてきた人たちが粉をこねて菓子やパンをつくることでストレス解消となった話。人によっては小麦粉でなくてもネギやキャベツを刻むとか、いろいろあるみたいだが、私は昔っから顕著なストレスベイカー(変な言い方だな…)だったので、ふっと煮詰まると「あ、スコーン焼くか」となる。材料を買い求めなくても基本的に自宅にあるものでできるのにおいしい。

 上にあげた本にあるレシピは、ほとんどが無理に買い集めなくても自宅にあるものでつくれたりする。たまにオールスパイスとかバターミルク、モルトビネガー、アンゼリカ、とか、自宅にないものも出てくるが、気がむけばネットで買ってみたり、あるいは代用品を工夫してつくってみることも楽しい。

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 むかーーし、フリーランスになりたてのころはいわゆる「丁寧な暮らし」をすることにあこがれて、こういったエッセイに書かれていることを真似して生活自体に影響を与えていたこともある。私は入浴剤を買わずに、毎晩クエン酸と重曹、気分や体調に合わせたエッセンシャルオイルを調合して自作するのだが、おそらくそういった習慣ももとをただせばこうした本の影響なのだろうと思う。

 イタリアの修道院菓子の本を今読んでいる最中なのだが、かつて修道院は薬草を育て調合し、薬屋の役割も持っていた。世界最古の薬局と言われるサンタ・マリア・ノヴェッラもそう。ドメニコ会の修道士たちが修道院をつくり、そこで発展してきたもの。サンタ・マリア・ノヴェッラはもう頭ひとつ抜けているくらいブランド力が確立されていて、クラシックなパッケージはすでにクラシックと言えないシャープな現代性を備えており、これが普遍的と言えるものなのかと納得する。

 輪廻転生があるとしたら、自分はいつの時代にか修道院にいたのではないか、と思うくらいこの界隈のことに並々ならぬ関心があって、「聖ヒルデガルドの医学と自然学」という高価な本も買い求めて植物療法を研究していたものだ。
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 本当はもっと書いておきたいことがあったはずなんだけど、思いついたらこんな内容になっていたので、それがいまの気分ということにしておく。

 


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