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落葉を覆うカラス達

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第2シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、メインキャラ4人のコーナーの2つ目、
「もんちゃんの『夢見なハイキック!』」をお送りします。


<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。





~もんちゃんの「夢見なハイキック!」~



10万円と20万円のドローンが、ヤギ牧場の上空を舞っている。



他の参加者2人が、夢中になって操作するドローン2機は、
高度100mに迫ると、もはや芥子粒ほどもない黒い点となり、
それらを一生懸命、目で追っていたもんじゃ姫だったが、
もう途中で見失ってしまい、探すのもやめた。



ずっと空を見ていると、首が疲れる。



毎年の夏、花火大会の際にいつも思うことだった。



「ん~」と言いながら、首をコキコキ回していると、
後ろから大きな箱を持った、講師の古谷が歩いてきた。



古谷「初めてのドローン体験、いかがですか」

もん「は、はい…。とっても楽しいです」

古谷「フフフッ」



"お前、そうでも無いだろ"という文言が、
古谷の顔に書いてあるようだった。



古谷「皆さん、10万円と20万円のドローンに夢中になっていますが、

   …これは、皆さんには内緒です。


   もんじゃ姫にだけ特別に、こちらのドローンをご用意しました」

もん「へっ…!?」



いつから、自分はそんな特権階級になったのか。



そう思ったもんじゃ姫だったが、
古谷が箱から取り出したプロポ(コントローラー)を見ると、
明らかに10万円や20万円のそれとは比べ物にもならない程、
デザイン性に優れ、遥かに高級品であることが、素人目にも窺えた。



もん「おぉぉ…っ…!!」



そのプロポを手渡され、「操作してみますか?」と古谷が言う。



もん「あれ、でもこれ、…ドローン本体は無いんですか?」



ふと気になって聞くと、古谷はニヤリと笑った。



古谷「操作してみれば、分かりますよ」

もん「へっ…!?」



本体もないのに、プロポの操作だけしてどうするのか。



そうは思いつつも、とりあえず右の制御スティックを上に倒してみると…。



もん「あっ、うそっ、…えっ、あれっ…!?」



ブーンと音がしたかと思うと、何ともんじゃ姫の体が浮き上がった。



地面が遠くなり、古谷が段々と小さくなっていく。



古谷「どうぞ、素敵なドローン体験を…」



彼が爽やかな声でそんなことを言ったが、途中で聞こえなくなった。









牧場を取り囲む、緑の山々が目の前に広がる。



千葉県は、海に面した都会というイメージがあったが、
こうして上空から眺めると、何と自然豊かな地域だろうと驚かされる。



もん「このプロポ、もし落としたらどうなるんだろう…」



そんな恐ろしいことを考えると、急に手汗が出てきたもんじゃ姫。



しかし、そこは怖さ以上に、好奇心が勝ってしまう彼女の性分。



プロポの制御スティックを倒すと、千葉の緑豊かな山々から、
遠方に聳え立つスカイツリーを目印に、"華の都・大東京"を目指し、
ボストンバッグではなくプロポを手に、北へ、北へ向かった。



海側に行くほど、住宅街や学校が増え、都市部へと変わっていく。



東京湾を、釣り船や屋形船、クルーズ船が渡って行き、
噂の"なんとかプリンセス号"も、この湾を運航しているのだろう。



海を越え、夢の国を越え、さらには夢の島も越え、
荒川を渡ったその先には…!



もん「…やっと、着いたーっ!!」



下町の摩天楼、地上高634mの東京スカイツリーに、
高速エレベーターを使わず、こうして正面から相見えた人物は、
世界広しといえども、もんじゃ姫だけだろう。



その展望台で景色を楽しんでいる人達の様子が見える。



展望台の高さは450mの為、講習で古谷から習った、
航空法の制限(150m)を、トリプルスコアでオーバーしている。



もんじゃ姫が窓越しに手を振ると、「きゃーっ!!」と悲鳴を上げて、
カップルや家族連れ達が、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。



もん「やばっ」



何か騒ぎになって、警察など呼ばれたら大変と思い、
制御スティックを強めに倒して、急いでその場を離れた。



スカイツリーから西の方へと向かうと、
渋谷、新宿といった、巨大ターミナル駅が見えてきた。



代々木公園、新宿御苑など、広大な緑地帯もあるものの、
やはり駅に近づくにつれ、都市部の人の多さには、
上空から見ていても目が回りそうになる。



若い人やサラリーマンが多いのは予想していたことだが、
駅からオフィス街にかけて、黒いリクルートスーツの集団が、
スイミーの絵本に出てくる小魚の群れのように、
黒い塊となって蠢いているのが見えて、ゾワッとなったもんじゃ姫。



もん「就職活動、大変だなぁー。もうすぐ、秋も終わるのに…」



紅葉色付く街を、行き場を失くした黒いカラス達が埋め尽くす。



彼らの表情までは見えなかったが、そこまで見る勇気は無かった。





少し、"都会酔い"をしてきたもんじゃ姫は、そこから北に進んだ。



都市部を離れると、建物の高さが全体的に低くなっていき、
住宅街や工業地帯の景色が流れていく。



近くには田畑が広がり、車通りも少なく、急に静かになった。



70年代の、ニュータウン開発の名残のような団地の近くには、
ほとんどシャッター街と化してしまっている商店街があった。






もん「あっ!!」



寂れた商店街に、何やら見覚えのある人影を目にしたもんじゃ姫。



高度を下げ、目を凝らしてみると…。





もん「あれ、…もしかして、ユリさんじゃない!?」



ドローン体験で出会った20代の経理女子で、
先日、中小企業診断士の試験を受けたと話していた彼女。



もう合格して、名実ともに"先生"となられたのだろうか。



就活生と違って、やや大人の雰囲気を感じさせるスーツ姿のユリだが、
どうやら、商店街の現地調査をしている様子だ。



ある店舗の前にユリが立つと、シャッターがガラガラと上がり、
そこの店主と思しき男性が出てくると、2人は店の中へと入っていった。



夢を実力で叶えた、ユリの晴れ姿。



商店街の人達と、彼女がどんな話をするのか、
どうしても聞いてみたくなったもんじゃ姫は、
プロポの制御スティックを下に倒し、商店街へと降り立った。










千葉のヤギ牧場。



ドローン教室も、いよいよお開きとなる中…。



広い草原の上で、仰向けになりながら、
プロポを操作するかのように、両手を上に出して、
「スカイツリーが…、夢の国が…」と寝言を言いながら、
夢の世界を浮遊しているもんじゃ姫。



古谷「ドローン教室で、あんなぐっすり寝る人、初めて見ましたよ。


   …僕の体験講習、面白くなかったのかなぁ」



落ち込んでいる真面目な古谷の肩に手を当て、博士が言った。



博士「彼女は、楽しければ楽しい程、

    夢見心地になって、寝てしまうのです。



    …おそらく、そういう病気です」

姉さん「あるか、そんな病気」

兄貴「あーっ、せっかく千葉まで来たし、海の幸でも食おうぜ」



そんな彼らをよそに、ユリとナオミの2人は、
相変わらず、ヤギ達をよしよししているご様子。



こうして、マイペースな人達が各々好きに過ごすことで、
ヤギ牧場には、今日も穏やかな時間が流れていく。





~もんちゃんの「夢見なハイキック!」 終わり~





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