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呪詛を聴きながら

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第3シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、エンディングをお送りしたいと思います。


<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。





~エンディング~



夜の宇都宮駅。



進学塾の夏合宿で、
地獄の志賀高原4泊5日を耐え抜いた、中学3年生の男子。


慣れない環境、絶え間ない授業、不味い食事、赤の他人との集団生活、
つまらない余興に、意味不明な大ホール式典と、見所満載だった本合宿。


すっかり精魂尽き果ててしまった彼は、帰りの電車で寝過ごしてしまい、
終点の宇都宮駅で、たまたま同じ車両に乗っていた、
もんじゃ焼きを頭に乗せた女性に、"お客さーん、終点ですよー"と、
サラリーマンにはお馴染みのフレーズで優しく起こされた。


「はっ…!?」と我に返った彼は、すっかり気が動転していた。


今日帰ってくることを両親は知っており、
帰りが遅くなればカンカンに怒られる。


物を投げて怒鳴り散らす父親、般若のような顔でキーキー喚く母親。


想像しただけで身震いがしてきた彼。



もん「…大丈夫?」


自分を起こしてくれた女性が、心配そうに聞いてきた。


男子「あっ、…すいません」


そう言って、一緒に電車を降りると、ホームには既に、
女性と同年代と思しき3人の男女が待っており、それは勿論、
さばみそ博士、ハバネロ姉さん、ブルーハワイ兄貴の面々である。


兄貴「どうした、少年?そんな疲れた顔して」

男子「あ、はい…。

   今日まで、塾の夏合宿で志賀高原に行ってて…」

姉さん「長野まで行ってたのか!?」

男子「なんですけど、疲れてたのか…、

   帰りの電車で、乗り過ごしちゃって…」

博士「それはそれは…、厳しい修行でしたな」


見知らぬ男女に話を聞いてもらいつつ、ポケットからスマホを取り出すと、
親から鬼のような着信履歴が付いているのを見て、戦慄する彼。


男子「やばっ…、親からメッチャ着信来てます」

もん「お家はどこなの?」

男子「埼玉なんで、ここから電車乗って…、

   多分、1時間半位かかりますね」

兄貴「まぁ、今から頑張って帰れなくもないけど、大分遅くなっちゃうな。

   晩飯、まだなんだろ?」

男子「はい…」

もん「じゃ、本場の餃子、食べに行こうよ!」

男子「いや、まずいですよ!

   そんなことしたら、親に殺されます!」


顔面蒼白になりながら、首を横に振る彼。


もん「そんなに怖いご両親なの?」

男子「いや、だって…!



   ただでさえ帰りが遅くなってるのに、

   知らない大人の人と食事に行くなんて…」


彼の尋常じゃない震え様に、思わず顔を見合わせる4人。


兄貴「でも、そうは言ったって、お腹空いてるんだろ?」

男子「はい」

博士「本場・宇都宮の餃子は、初めてですかな?」

男子「…はい」


そう言いながら、お腹の音を鳴らしてしまい、恥ずかしそうに俯く彼。


姉さん「とりあえずさ。親御さんに電話かけてみなよ」

男子「…はぁ、怖いなぁ…」


スマホを手に取るも、指が震えて、そこから先が進めない。


姉さん「しょうがねぇなー、代わりにかけてやるよ」

男子「あっ…!」


彼のスマホを取り上げると、
画面に表示されている親の番号に発信する姉さん。


待ち構えていたのか、1コール目ですぐさま出てきた。


「もしもしっ!?」


いかにも気が強そうな母親の声に、思わず苦笑いする姉さん。


姉さん「あ、すみません。

    今、お宅の息子さんがですね、

    合宿の疲れで、宇都宮まで乗り過ごしてしまったそうで…」

母親「宇都宮っっ!!?

   っていうか、あなた誰!?

   ウチの息子はどこなのっ!??」


彼は毎日、この調子の母親と一緒に過ごしているのだろうか。


奔放な学生時代を過ごした自分には、
およそ想像も付かない家庭だと思った姉さん。


姉さん「私、この近くに住んでいる者なんですが、

    息子さん大分お疲れのようですので、今晩は一旦、家に泊めて、

    明日の朝、ご自宅までお返ししようかと思いますが、

    それで、いかがでしょうか?」

母親「はぁぁぁっっ!?家に泊めるですって!!??

   あなた、一体、うちの子の何だって言うのよっっ!!??

   息子と代わりなさいっ!!」


耳元から発せられる金切り声に、思わずスマホを兄貴にパスした姉さん。


兄貴「あ、すみません。

   私、先程出た者の夫なんですけど、家内と相談してですね。

   今から、1時間半かけてご自宅に帰るのは、

   夜も遅いですし、彼の体力的にも厳しいと思ったものですから…」


いきなりスマホをパスされ、
咄嗟に思い付いた"夫婦設定"を口にする兄貴に、
思わず目を丸くする姉さん。


母親「どこの夫婦なのよ、あなた達はっ!?

   息子と代わりなさいっっ!!!!」


"うわ、こりゃ凄いな"という顔をしながら、少年にスマホを返す兄貴。


男子「…もしもし」

母親「あんた、何やってんのよっ!!!」

男子「すみません、寝過ごしてしまって…、今、宇都宮にいます」

母親「今から、お父さんと車で駅まで行くから、そのまま待ってなさい!!」

男子「いや…、今日は良いから…」

母親「良いから、じゃないでしょ、このバカっ!!

   そのまま、駅から動くんじゃないわよっっ!!」

男子「いや、だから良いって…」

母親「お父さん、車飛ばして1時間位で着くから…」

男子「来なくて良いって!!」


堪りかねて、ついスマホを電源ごとオフにした少年。





ため息を一つ吐くと、4人に向かって頭を下げた。


男子「ご迷惑をおかけして、すみません」

兄貴「おっかないお袋だな」

姉さん「子供を塾に通わせる母親って、あんな感じなのか」

男子「もう…、今日は帰りたくないです」


終電を過ぎた、ほろ酔いのOLさんみたいなことを口走る彼。










その後、閉店ギリギリの店に何とか滑り込み、
本場の宇都宮餃子を堪能しながら、彼の苦労話に耳を傾けた4人。


男子「学校から帰ると、"勉強しろ、勉強しろ"って、

   呪詛のように言い続けてくるんですよ」

もん「厳しいご両親なんだね」

兄貴「俺も、よく店員さんに"勉強しろ、勉強しろ"って言ってるけどな」

姉さん「ただ、安くして欲しいだけだろ!」

男子「学校でも、塾でも、既に散々、勉強してるっつーのって感じですよ」


日頃の怒りのあまり、餃子が進んでしょうがない彼。


博士「しかし、5日間も山籠もりをして勉強させられるとは、

   受験生も今や、修行僧に近いことをされているんですなぁ」

男子「決して、そんな高尚なものではないです。

   バスから降りて、怒鳴られながら一列に行進するんですよ?

   軍隊かと思いますよね」   

兄貴「朝のパチンコ屋にも、軍隊並んでるよな」

姉さん「あれは、常連客だろ!」




その後も、日頃の不満を吐き出し続けた彼。


5人で行った宇都宮餃子のお店で、
結果、注文の8割位を一人でペロリと平らげた。


ふかひれスープをぐびぐびっと飲み干すと、満足の吐息を漏らす。


店の閉店時間も、近づいてきていた。



男子「この後、皆さんはどうされるんですか?」

兄貴「近くにホテル取ってあるから、そこで皆で1泊よ」

博士「十二分に、今日までの骨休めをなさって下さい」

男子「そんなお気遣い、本当に良いんですか…?」

姉さん「別に嫌だったら、電車乗って帰っても良いんだぜ?」

男子「あっ、いや、



   …それだけは勘弁して下さい」


彼がそう言うと、4人は大笑いした。





そろそろ席を立ち、店を出ようかというタイミングで、
ふと、バッグから何かを取り出したもんじゃ姫。


もん「これ、あげる」

男子「えっ、何ですか」


もんじゃ姫から手渡されたのは、いつかのボルダリングジムで、
兄貴が賞品として受け取った、缶バッジだった。



もん「厳しい修行をクリアした、"一人前"の証だよ」

男子「あっ、ありがとうございます…!」



親からも学校からも塾からも、半人前扱いされ続けてきた彼は、
もんじゃ姫からの突然のプレゼントに、いたく感動した様子。





その瞬間、もんじゃ姫と目が合った兄貴は、
"この野郎"という顔で、ニヤリと笑った。





~エンディング 終わり~







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