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氷の季節と花の季節の間に三月がある。三月は、嵐の季節。「三月のライオン」

今回は、2021/2/26からアップリンクにて劇場公開が決定した、

矢崎仁司監督の名作「三月のライオン」について。



あらすじ

兄と妹がいた。妹は兄をとても愛していた。いつか、兄の恋人になりたいと、心に願っていた。・・・ある日兄が記憶を失った。・・・妹は兄に恋人だと偽り、病院から連れ出した。記憶喪失の兄は、恋人と一緒に暮らし始めた。恋人の名前は「アイス」・・・


あの、人気将棋漫画「3月のライオン」の作者は、

この「三月のライオン」のジャケに一目惚れして、内容も知らないまま自分の漫画に同じ名前をつけた、という逸話があるほど、素敵なジャケです。

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ジャケの雰囲気から一変、奔放な女の子 アイス

映画は初めから、全体的にセピア色と青みのかかった、淡い映像。

インディーズ感溢れる映像が不思議で、無国籍感さえも感じました。

初めから詳しい説明はなく、冒頭の文字と、アイスキャンディーをかじる音だけ。口数が少なくて、動きや表情・景色だけで場面を想像する。


主人公のアイスは、ジャケの雰囲気からは想像もできない、とんでもなく奔放な女の子。


そんな天真爛漫なアイスが、くすんだ色味の世界に存在するミスマッチ感

と思えば、その世界と一体になってしまったかのように ふと見せる暗い表情。どちらも本当のアイスで、表情の変化を見逃してはいけないような気持になるんです。



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ジム・ジャームッシュ監督を彷彿とさせるほどの、1ショットの画のこだわり

ジャケットを観て、良いなと思ったのであれば、観てみる価値があると思う理由の一つ。この映画の1ショットを切り取ると、何度見もしたくなるような、それでいて一度で脳裏に焼き付くようなシーンが多いのです。


美しさの種類としては、ダークファンタジー・・・のような



アンニュイで現実離れしている 心細い容姿の二人。

それでいて特別浮遊感があるわけでなく、

都会の端っこの喧騒が現実を突き付けてくる感じ。



それを遠くから見ているような構図。

この映画には、感情移入をするのではなく、二人だけの独特な間を、ゆったりと時間をかけて遠巻きから眺めることが正しいんだろうな。二人の世界は儚くて、ほかの人が入り込むと、簡単に壊れてしまうのかもしれないな。


90年代の、世紀末感 漂う東京の景色

舞台は東京の端っこの、さびれた古いアパート。終始おだやかで綺麗な映像の中で、ずっと鉄球がコンクリートを解体する衝突音が鳴り響いている。


近親相姦のお話なのに、一種爽やかに描かれている純愛。じめっとした世紀末感漂う空気と、純愛の裏に潜む危うさ。


絶対に「正しい」と ならない確証があるのが、切ない。


なによりわたしはこのような、90年代の空気感が高濃度で保存されているような映画大好きなんです。


アイスの、岡崎京子作品に出てきそうな いじらしくて、どこか危うげで、かわいいファッション・メイク・強気でちょっぴり恥ずかしいセリフ・・・

ん〜素敵!カワイイ。
(岡崎京子が大好きなわたしです)


まとめ

この映画は「セリフで語らず映像で語る」映画です。


ストーリー展開がどんどん気になる映画は、もちろんとっても素敵だけれど、魅力的な人々・心が動く画があれば、好きな映画になる理由としては十分!なんじゃないかな。



愛が動機なら、やってはいけないことなんて 何ひとつ、ない


内容的にも、真っ当なストーリーとは言えない。でもこの映画を「雰囲気」だけで片づけるのは絶対に惜しい作品。


ゆったりと、時間のあるときに是非、体感してほしい日本の名作です。私は来月、映画館で観られるのが楽しみです。


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