『ドンデンガエシEXPO』/展示空間デザイン/建築みるぞーインタビュー
こんにちは!YOMAFIG.です。10月16日(月)〜18日(水)の3日間、浅草公会堂にて開催されたドンデンガエシEXPO。
本日は、ギャラリー&マーケットスペースの展示空間デザインを担っていただいた「建築みるぞー」さんにお話を伺いました!
参加を決めたのは・・・
ー建築みるぞーさんはどうしてこの「伝統芸能×現代アート」というEXPOにご参加頂けることとなったのでしょうか?
(建築みるぞー)
三年ほど前の建築みるぞーのSNS活動の初期段階からお世話になっていたYOMAFIG.さんだったので、スケジュール・予算が厳しい条件ではありましたが、「YOMAFIG.にかっこ悪い展示はさせたくない」と思ったのが一番大きな理由です。
また、浅草公会堂に展示計画として関わることのできる機会というのはなかなかないので、自分にとっては大きな魅力でした。
独立前は少人数のデザイン事務所で勤務していたのですが、そこではコストや工期面が厳しい案件もあり、そうした制限の中でこそ気づくことや生まれるアイデアがありました。今回もそういった制限でこそ出てくるプランがあるはずとポジティブに捉えていました。
学生時代の研究と繋がった
ーそれでは、早速設計のお話を伺って参りたいと思います。設計にあたって、まずはどのようなことをお考えになったのでしょうか?
(建築みるぞー)
実は、展示に関しては元々関心があり、学生時代に研究していた建築家が関係していたりします。研究していたのはイタリアのカルロ・スカルパという建築家で、美術館や展示の設計を得意としていました。
彼は、作品をポンと什器に置くだけではなく、視線の誘導や動線等も含めて展示空間全体をデザインしており、「こうすれば空間で作品を活かせるんだ!」ということを勉強させて貰いました。
また、アートなので当然先に美術家が考える「美術品の美しい見せ方」がありますが、スカルパは独自の視点でより美しい見せ方を提案し、美術家を唸らせてしまうなど、ある種美術家による美術品の美しい見せ方を建築で凌駕してしまったと言える存在です。
彼の視座には遠く及びませんが、こういった研究をしていたおかげで僕も「ギャラリーはこうあるべき!」という固定観念にとらわれない空間デザインを意識できたのだと思います。
複数の課題と向き合い、シンプルな回答に
ー現地調査を二度ほどご一緒頂きましたが、最初の印象はどうでしたか?下見からどのように今回の案が成立したのでしょうか?
(建築みるぞー)
まず、現地調査の際にいくつか制約がある現場だなと感じました。
例えば、
・壁や天井にビスが打てない
・自然光が入る場所が限られ、空間の奥行きが深く暗い
・全面に敷かれた真っ赤のタイルカーペットの印象が強い
・自動販売機・ゴミ箱が露出している
ギャラリーは通常、大きな白い壁と明るい照明で空間の余白を確保し、何をおいても大抵綺麗な展示空間となりますが、今回の現場はそれが実現できない。
そこで、今回の展示計画アイデアとしては
①自立し、再利用可能な展示什器であること
②一面採光からの自然光を捉え、拡散する仕掛けをすること
③赤いカーペットを味方につけること
を特に意識し、展示什器を設計しました。
①自立し、再利用可能な展示什器
障子状の展示什器は、屏風型とすることで自立する展示壁としつつ、障子によって光が奥まで抜けることが特徴です。
また、什器の蝶番部もオリジナルの蝶番を考えました。屏風には紙蝶番という古来のやり方があるのですが、今回はそこからヒントを得て糸で蝶番を作っています。紐蝶番ならぬ糸蝶番とでも呼べば良いのでしょうか。手軽に作れるのに強度もあります。この蝶番のおかげで、簡単に什器を折り畳み持ち運びが容易になり、展示のレイアウト変更にもフレキシブルに対応可能になりました。
また、足元にもサポートの金物も設計することで、転倒を防げるように強度も確保しました。
②光を拡散する仕掛け
障子で用いられる和紙には、光を捉え、室内にぼんやりと拡散させる機能があります。
今回その効果をヒントに、1mmのアクリル板をやすってマットにし、和紙のような質感に仕上げたパネルを木枠に貼り込みました。おそらくアクリルをこのような使い方をしている事例はこれまでなかったのでは?と思ってます!
③赤いカーペットとの共存
歌舞伎の隈取や定式幕を筆頭としたカラフルな色・歌舞伎という江戸時代のポップカルチャー・浅草という街のお祭りのような賑やかさを感じられる空間を意識しました。
印象の強い赤カーペットを味方につけて、什器にはカラフルなパンチカーペットを採用し、歌舞伎のもつカラフルさやポップさ、賑やかさを表現しました。マーケットや自販機など、それぞれの場所の属性にあったカラーが立ち現れるようにしていました。
「一般の人をいかに巻き込むか」を意識
ー今回の建築が生まれた背景をお伺いできて面白いです。実際に展示什器を制作開始してから、ご苦労されたお話があれば教えて頂けますでしょうか
(建築みるぞー)
スケージュールが詰まっていたこともあり、直前までどのような作品・商品が展示されるかわからない、という難しさはありましたが、そのラフさを逆手にとって面白さに変換したいなと考えました!
普段の建築でも、建築図面で全てをコントロールすることはできないじゃないですか。例えば、店舗で商品の什器を作っても商品をどう並べるかまでは指示できないですし、人がどう使うかまでは建築が指示することはできない。だから僕はいつも、建築側の意図を知らない「一般の人をいかに巻き込むか」を意識して設計しています。
今回でいえば、誰が商品を並べてもかっこいいとか、誰でも折りたたんで自由に運べるとか、板を載せるだけで什器になるとか。作家や出店者がレイアウトを自由にアレンジしていて、計画しきれない振る舞いを計画できた気がしました。
想定外の使われ方や、現地での即興コラボが今回の醍醐味
ー設計時点でも、かなり具体に完成イメージは持たれていたと思いますが、想像と当日迎えてのギャップなどはありましたか?
(建築みるぞー)
何かといい意味で即興性が強かった現場だったと思っています。例えばメインエントランスの踊り場の装飾については、当初案では屏風型什器にカラフルなパンチカーペットを貼り込んで完成させる予定でしたが、華道家の生駒さんが大振りな枝を什器にたくさん絡ませて作品を作り出していらっしゃり、それだけで既にインパクトのある空間が出来つつありました!
そこで、パンチカーペットを貼るのはやめ、より生駒さんの作品に呼応するよう、アクリル板を数箇所に設えて完成させました。
こういう現地での即興的なコラボや軌道修正ができるのは、仮設的な建築ならではの醍醐味だなあと思いました。
各関係者がポジティブな関係性のまま短期間で走り抜けた感覚だった
ー最後に、3日間の本番を終えての感想があればお聞かせください!
(建築みるぞー)
まずはとにかく、ギャラリーにお客様がたくさんいらして下さったのが嬉しかったです。幕間の時間は特に、ソファで休憩する人/作品を見る人/自販機で飲み物を買う人、それぞれが同じ空間で心地よく共存して、とてもいい雰囲気の空間だったと感じました。
マーケットに関しては、ホワイエなので常に人が多かったですが、人がいてもいなくても賑やかさを演出できていたのが、狙い通りで良かったです。
冒頭にも触れましたが、公会堂や伝統芸能とコラボする機会はなかなかないのでいい経験になりました。タイトなスケジュールにも関わらず、各関係者がポジティブな関係性のまま走り抜けたというのも珍しいのではないでしょうか。終わった後は、いい意味で「大人の文化祭をしたなぁ!」という感じでした!
また機会があれば、是非ご一緒しましょう!
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