見出し画像

フラの祭典キュレーターが踊らす「大原田」家の、恋と愛の行方

 音声配信「すまいるスパイス」のパーソナリティーでいらっしゃった、現在毎週月曜14時30分FM千里でご自身のエッセイを朗読なさっている、パーソナリティーとしてご活躍のとき子さん。
 1リスナーだった私がとき子さんと初めて言葉を交わしたのは、「すまいるスパイス」でとき子さんがめろさんのエッセイを朗読されたときです。あいさつもしないまま、記事を書いてしまった私に、とき子さんは丁寧にコメントをくださいました。その朗読への思いを綴られた記事がこちらです。パーソナリティーとしてのとき子さんしか知らなかったけれど、書かれる文章もとても素晴らしいのだと知りました。そうですよね、声を電波に乗せることを常日頃からなさっている方は、人一倍言葉に責任を持っているはずですもの。

 とき子さんの紡ぐ家族の物語が好きです。ピリカ文庫の作品もいいんですよ。そんなとき子さんは今回も、家族を軸にした恋愛小説を書かれました。それが、『メリー・モナークin大原田』です。
 フラダンスについてはふわっとしか知らなくて、映画『フラガール』の印象がほとんどだった私。フラダンス初心者の私ですが、それでも置いてきぼりにされることは決してなく、ちゃんと振り付けがわからないフラでも、眼前に踊る光景がありありと浮かんできます。生き生きとしたフラと複雑な心情の描写、そして、「恋」と「愛」がしっかり描かれています。それぞれの思惑が交錯する、ファミリーラブコメが幕を開けました。

▼以後、ネタバレあり

 あとがきを読んで、お母様が母さん・お母さんこと実花子みかこさんのモデルだったのか…!と。だからこそ、根底に流れる家族愛に説得力があったんですね。
 私の大学の同期にサバイバーの子がいたのですが、お見舞いのときでも笑顔で元気に振る舞っていたのを思い出しました。彼女はたまに闘病のつらさをSNSでこぼすこともありましたが、関西人だからか深刻にならないよう面白おかしく書くんです。心配に思いながらも、こちらが深刻にとらえて接したらよりつらくなると、気が紛れるよう過ごしたのを思い出しました。
 病は違うものの、良性腫瘍で昨年、そして年内に手術をする親友がいて、その子も同じなんですよね。良性でも生活に支障が出るレベルなのに激務をこなしていて、それでも電話では何時間もわーわー楽しくしゃべって。
 その子たちに思いを馳せながら、実花子さんを思い、大原田家を思い、読み進めていきました。
 自分のことばかりで恐縮ですが、私の母も、今も完治していない足の病気で、実花子さんとは対照的に塞ぎ込んでいました。そのことを最初にきちんと知ったのは、しばらく経った年末の帰省のとき。その2ヶ月前に法事で会ったとき、ちょっと元気ないなと思っていましたが、自分自身余裕がなく、きちんと話を聞くことができませんでした。元気だったときの母は、しょっちゅう私たち姉妹を気遣い連絡をくれましたが、忙しさにかまけてきちんと向き合ってこなかった。だから、母のことを知って、実際にうまく歩けない様を見て、私はショックを隠しきれませんでした。すごく後悔しました。人のことばかり揚げ足をとり、自分のことばかりの私を責めました。比べるのもおこがましいですが、だから花乃はなのに感情移入しながら読みました。お父さんの真太郎しんたろうさんにも重なりました。
 花乃のフラダンスへの葛藤が苦しくて、それでもお母さんのために、お父さんの提案を受けて自ら「メリー・モナーク」をやろう!と言う。円花まどかと向き合い、花花コンビが抱きしめ合うところで一緒に泣きました。円花、よく言ってくれました。
 「メリー・モナークin大原田」決行日も、感極まって泣きました。真太郎さん、花乃が一歩踏み出し、真咲が空手仲間に呼びかけ、友也や円花たち仲間の協力があったからこそ、本番を迎えられましたね。ファン感丸出しの、でも花乃の母への後悔に寄り添う友也、好きです。

 余命宣告された母さん・お母さんを楽しませることはできたのか。実花子さんの日記の秘密、真太郎さんの真意は。大原田家の恋と愛の行方は。ぜひ、冒頭のリンクから飛んでお確かめください。話数こそ多いですが、各話の字数は多くないので、どんどん読み進められました。
 「ファミリーラブコメ」というジャンルのなかで、「家族の物語」として読みごたえがありながら、きちんと「恋愛小説」を成立させている本作。心の機微が丁寧で、何よりフラや実花子さん、ご家族みんなへの愛に溢れています。恋愛小説というジャンルの枠を広げてくださったなぁと思います。

とき子さんのキュレーションされた「メリー・モナークin大原田」、最高でした!

#創作大賞感想


この記事が参加している募集

サポートしてくださる方、ありがとうございます! いただいたサポートは大切に使わせていただき、私の糧といたします。