🎧コップに溜める

私はコップを持っている。
燦々と降り注ぐ言葉を、そのコップに溜めようとする。
言葉は偶然にコップに注がれたり、或は、自らあれが欲しいと、コップを差し出したりしている。

ある程度、そのコップに言葉を満たしたら、グーッと飲み干してみる。
甘い、苦い、しょっぱい、辛い。
その時々で味は違う。
時々、とてつもないコクのある言葉が注がれたりもする。
コップの中は、黄金色に輝いている、かもしれない。
私は、その味を忘れないように、心のヒダみたいな場所にそっとしまう。

燦々と降り注ぐ言葉を毎日、コップに溜めては飲む。
だから、つい記憶から溢れてしまうものもある。
何かの拍子に思い出すまで、私の中で循環するのだろう。

そうしてふと思い出した時、その当時、甘いと思っていたものが、実はしょっぱかったり、激辛だと思っていたものが、絶妙な辛味だったりすることに気づく。
あれ、こんな味だったんだ…と思ったり、何度飲んでも苦いものもある。

誰もが持っているそのコップは、時々ヒビが入ったりしていないかをよく観察した方がいい。大切な言葉をこぼさないように。
透明感も保った方がいい。
何せ、注がれるものは得体の知れないものがあるのだから、飲み込む前にしっかり確認した方がいいし、美しい色を放っているかも知れないのだから。

なんてさ。
そんなコップ、あったらいいな。

というわけで、本日のすまいるスパイスは、こーたさんととき子でお送りします、エッセイ道場やぶり！であります。
いや、破れないのだけれど（笑）

stand.fm

むしろ大切な箱を開けるように、そっとお出迎えいたしましたのはこの作品です。

『ぼろぼろの文法書に志を託して』
めろさん

朗読　とき子

めろしゃんといえば、泣く子も笑いが止まらない、サンドイッチマンのネタを書いたり、かと思えば、短歌を書いたり、短編小説で泣かせてきたり、笑かしてくれたり、爆笑爆走エッセイを書いたり、忘れちゃならない長編『アヘアヘキングダム』通称アヘキンもございます。

どんだけあるだろうか、彼女の引き出し。
そのどれも、言葉のチョイスが面白い。文字のチョイスも面白い。
2828と書いてニヤニヤなんて読ませるエッセイに、まさか泣かされようとは、誰も思うまい。

こーたさんが「とても悲しい」という感想を漏らした時、ハッとした。
いい話だと思っていた私は、そこに現実があることを見落としていたと思った。
めろしゃんが、とても重要な出会いを経て、今そこにいる事実を知る。
エッセイは、その人そのものが、スッと浮き立ってくることを知る。
めろしゃんの大切な思い出が、言葉たちが、私の頭上に降り注ぐ。

その後のこーたさんとのトークで、忘れられない言葉というのは、受け取る側が受け取る準備をしていないといけないのではないかと話になる。
例え、どんなに燦々と言葉が降り注いでいたとしても、受け取らなければ、あっという間に消えてしまう言葉たち。
それこそ、『言葉はまるで雪の結晶〜♪』by Official髭男dism

実は、この話の流れで思い出したのがこの言葉でした。

「かっこいい自分になりたかったの」

バイクに乗って、スピード違反で捕まった話が、記憶を刺激しました。
一度私が、コップに入れて、大切に飲んだはずの忘れていた言葉。
いつ、どんな話で蘇るかわからないものです。
だけど、大丈夫。一度、飲んだものであるならば、それはふとした拍子に取り出せるものなのだと思います。

実は、その言葉を注いでくれた人こそ、きっと忘れてしまうのでしょう。
まさか、こーたさんの中学の時の先生も、私が出会った白バイの女性も。
何十年の時を経て、忘れらない言葉として紹介されてるなんて、露程も思っていないはず。
注いだこともきっと覚えていない。
だけど、注いでいる人も、普段たっぷりコップに溢れる言葉を飲み込んでいる人だと思います。

そんな人になりたいものです。

めろしゃんの先生は、まさに注ぐ人でした。
そして、めろしゃんもまた、注ぐ人になっているのだと思います。

なんて。
そんな分かりやすいコップがあったらいいですね。