【連載】服部半蔵 天地造化(3) 第一巻 神託編 五章~七章
第五章 医者と侍
一
保遠は忙しくなった。泊まりの患者も増えて、七津奈も手伝いのため働き詰めとなる。
伊賀から、保遠の才を慕って上洛してくる忍び達がいたが、彼らも皆、医者の手伝いや資金集めに明け暮れた。忍術者として合戦に参じ、京で一旗あげるといったことはない。伊賀者達が世の情勢や戦さの話などを聴き込んで来ても、保遠は動かなかった。
京の屋形はあくまでも仮の家だ。伊賀の服部屋敷はそのまま残してある。保遠は得意の走術で、都と国を頻繁に往復した。それでも服部家は医者として京の町に馴染み、住み着いていった。
九歳になった半三郎は、忍びの勇猛さを隠し切れない男子に成長している。近所でも評判の暴れ者だ。
わんぱくな子ども達を取り仕切り、空き地や河原、野原などに出かけて合戦ごっこを行なう。悪餓鬼達はもともとこうした遊びを好んでいたが、半三郎が大将になると一味違った。
ただ棒などを振り回して剣術ごっこをし、侍の真似をするだけでなく、長い槍を使ったり、竹籤(たけひご)で造った小さな矢まで用いる。陣地には穴を掘り、土塁を築いた。半三郎の組の者は、攻めたり退いたり、命令どおり巧みに動いた。
餓鬼大将は、遊びほうけているだけではなかった。家の仕事も熱心にこなす。忙しい時には、町から男の子や女の子を集めてきて、保遠と七津奈を手伝わせた。
「薬草には、干してから煎じ薬にするものと、そのまま使うものがある」
半三郎は、十一歳になる手伝いの娘に説いた。
「この草は摘み立てがいいんだから、先生が採ってこいというまで採っちゃ駄目だ」
「そうなの……?」
娘は、迷うような顔で草を見る。
「葉の形をよく見ろって言っただろ。絵を描いた書も見せてやったじゃないか」
「そうだったかしら」
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