息抜きに 「続 軟禁古書店」
続 軟禁古書店
茅ヶ崎の住宅街に、
ひっそりと佇む「葉隠れ書房」
ここに入り、本を読み始めると、
それを読み終わるまで軟禁されるという。
いや、監禁されるという。
そんな不思議な古書店があった。
ここは茅ヶ崎市菱沼一丁目。
店内にて、夜21時を回った頃。
まだ店の明かりは灯っており、テーブルで読書をしている女子大生がいる。
園子は本を置き、
「あの、私そろそろ帰らないと親が心配すると思うんですけど。」
カウンターに座る店主横田も一度本を閉じて、
「たしかに、女性の、しかも若い方は初めてでして、携帯繋がりますか?」
園子スマホを取り出してみるが、
「嘘、電波がない。なんで。」
横田、園子のテーブルに置いてあるマグカップに珈琲を注ぎながら、
「ですよね、これ始まると、電波なくなるんです。参ったな。」
そう、この「葉隠れ書房」という古本屋は最新の設備、と言って良いか分からないが、今園子が頭からすっぽり被っているヘッドギア的な物は、脳を解析しており、読書が進み、読了したかどうかを判定出来る機械となっていて、最後の一文字を読み終わるとロックが解除され、顎とおでこの部分が開いて、取り外せる仕組みになっている。
そして、一度これを始めると、出入口と、出入口側の窓を含む壁に電気が通って、途中でドアを開けようものなら火傷を負ってしまうという仕組みになっている。
そして、一度始まると店主も解除出来ないのだ。
(一話目参照)
「親御さんにはなんて言って出てきたんですか?」
園子諦めてスマホをバッグにしまいながら、
「新しく出来た本屋さんにちょっと行ってくるって言って出てきました。」
横田頷きながら、
「そうですか。じゃあ早く帰ったほうがいいですね。あとどのくらいですか?」
園子、ページ数を確認して、
「半分ちょい読んでいて、あと、130ページです。」
「分かりました。今回は特別措置を取りましょう。」
「え!解除出来るんですか?」
横田、目をつぶり、そっと、そしてゆっくりと首を横に振る。
「それは物理的に出来ません。読むのが全然進まなくなっているんですよね?これ裏技ですが、もう仕方ない、朗読をしましょう。」
園子、きょとんとして、
「朗読?」
「はい、私が続きを読みますから、しっかりと脳にインプットしながら聞いて下さい。そしたら多分読み終わりと同時に解除となりますから。」
園子、嬉しそうに、
「なるほど!そうか!脳にインプットしていけばそれは読んでいるのと同じって事になるんですね、早速お願いします。」
横田、隣の席に座り、朗読を始める。
店内に朗読の声だけが響く中、
外が騒がしくなってくる。
心配になって、調べて来た園子の母が扉を開けようとして感電している。
「あっつ!何この扉!」
近所の通りすがりの方々も足を止めてざわざわし始めている。
店内では朗読が続く。
園子も聞き漏らさない様、目を瞑り真剣に聞いている。
外では、通りすがりのおじいちゃんがドアノブに手を掛けて、同じく感電している。
「アチなんじゃこりゃ。手が、手が震えとる。」
「親愛なる一惑星に住める人間なる一種族ここに眠る。彼らはよく小鳥を飼った。
彼らは約束の時間にしばしば遅れた。
そして彼らはよく笑った。
ねがわくはとこしえなる眠りの安らかならんことを。」
「手が、手の震えがとまらん。」
語り手も、
そして聴き手も真剣な表情で、
額に汗を滲ませながら、
店内では尚も朗読は続く。
「ビブリアの部屋 葉隠れ書房」
あなたのご来店待ってます。