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フレイムフェイス 異界迷宮攻略班

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異次元を映し出す『海』に囲まれた国家、輪海国エルガディア。 水平線無きこの世界が、一体何を礎として成り立ったのか。 知る者は、知ろうとする者は、覚えている者さえも、あまりに少ない…
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#小説

フレイムフェイス 第十八話

フレイムフェイス 第十八話

猛撃のディープレッド (12)

「ほぉー」

半分本気でギューオは感心した。捨て身にも程がある戦法を、躊躇なく実行するとは。これでは英雄と言うより蛮勇だ。

「ま、輪海国エルガディアの連中にとって死は縁遠い概念だからな」

ギューオの直視と嵐の洗礼を浴びながら、粛々と歩み進む仮面無きフレイムフェイス。身を鎧う戦鎧套は一歩ごとに切り刻まれ、細かい裂傷が瞬く間に増えていく。だが堅牢さは想定以上。致命

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フレイムフェイス 第十七話

フレイムフェイス 第十七話

猛撃のディープレッド (11)巻物。
『乗合馬車《キャリッジ》』の者達が使うそれの名前は、あくまでエルガディア防衛隊によってつけられた仮称である。

正式名はマスターパス。限定空間改竄術式――いわゆるダンジョンを構築するために作られた魔道具である。これを発動した術者は、その身を起点として望む範囲の空間を書き換える事が出来る。

定義に使われる情報は様々だ。術者の記憶や想像力、マスターパス内部に保存

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フレイムフェイス 第十六話

フレイムフェイス 第十六話

猛撃のディープレッド (10)◆ ◆ ◆

自動ドアをくぐり、スティアは『客室』に入った。
 酷く天井の低い室内に、備え付けられた椅子が四つ。サイコロの目のように礼儀正しく並ぶ。
 椅子の前にはそれぞれコンソールが備わっており、魔術的にも電子的にも各員専用に最適化されている。

白一色の壁や床はうんざりするほど清潔で、『海の向こう』で言う所の宇宙ステーション内部にどことなく似ている。もっともこの『

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フレイムフェイス 第十五話

フレイムフェイス 第十五話

猛撃のディープレッド (9)
「あ、れは」

瞠目するアンバー。見間違える筈がない。
 巻物。ギューオの掌中で不穏な魔力光を脈打たせるそれは、彼の傍らに立つクレイルが破壊獣へ変じるのに使った代物と、まったく同じ形状だったからだ。
 そして、ギューオは。

「イグニション……!」

躊躇う事無く、力を発動した。
 竜巻じみて荒れ狂う魔力。スクロールから放たれるそれはギューオの体躯を覆い隠し、尚も伸張

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フレイムフェイス 第十四話

猛撃のディープレッド (8)

「それは、つまり」

カドシュは、眉根を寄せる。

「アンタらは、『乗合馬車』は、一枚岩ではない……どころか、空中分解しかけた組織だったって事か!?」
「そういう事。平たく言えばな」

素気無く返すリヴァルに、カドシュはなおも疑問をぶつける。

「いや、でも、おかしいだろ? 少なくともそっちにとって、エルガディアを……破壊する事は、全員一致するメリットの筈だろう?」

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フレイムフェイス 第十三話

フレイムフェイス 第十三話

猛撃のディープレッド (7)

カドシュは輸送車両から降りる。駐車場には車こそあれ、人の姿は見当たらない。皆息をひそめているのだろう。見回せば、周囲の建物からこちらを見る目が見つかるかもしれない。

「……」

だがカドシュにそんな事をするつもりはない。先程車内で行ったフレイムフェイスとのやり取りを、もう一度思い返していたからだ。

◆ ◆ ◆

「……そういえば。アンバーは分かりましたけど、俺は

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フレイムフェイス 第十二話

フレイムフェイス 第十二話

猛撃のディープレッド (6) 硬貨を入れる。
 少し迷い、ボタンを押す。
 がこん、と音立てて飲料が取り出し口に現れる。

「おおー! ホントに出たよ! 資料で見ちゃあいたが、いやスゲエもんだな『海の向こう』の技術ってのは冷たいし」

ややはしゃぎながらコーヒーの黒い缶を矯めつ眇めつする垂れ目の男。リヴァル・モスター。

「で、どうやって開けるんだっけコレ」
「さあ。書いてあるんじゃない」

素っ

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フレイムフェイス 第十一話

フレイムフェイス 第十一話

猛撃のディープレッド (5) 怒り。
 剥き出された攻撃性が、ギューオの相貌を歪める。

「ぬ、か、せッ!」

打突、打突、打突、打突。今までより更に鋭さを増す連続攻撃。その全てをフレイムフェイスはやはり防御し、防御し、回避し、受け流す。

「るあッ!」

そのうちの一打、風を切る強烈なフックを、フレイムフェイスは紙一重で躱す。当然ギューオは遠心力を利用した追撃を、しかし放てない。
 手首。吸い付

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フレイムフェイス 第十話

フレイムフェイス 第十話

猛撃のディープレッド (4)

幾つかの通路、幾つかの扉、幾つかの部屋。それらを抜けた先、唐突に開けた空間。
 じっくり見回しながら、フレイムフェイスは呟いた。

「これは、これは」

一歩、踏みしめる。感触も、反響音も、乾いたコンクリートそのもの。柱も、天井も、きっとその通りだろう。
 広く、何もない。工事中のようなビルフロアのような広間が、そこにはあったのだ。

無造作に進むフレイムフェイス。

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フレイムフェイス 第八話

フレイムフェイス 第八話

猛撃のディープレッド (2)「成程。状況は分かりました」

ホロモニタ中央。表示されるアイコンのフレイムフェイスは、サイアの詳細報告にそう答えた。それからぐるぐると回転開始。思考を巡らせているようだ。

「こうしちゃいられない、早く出発しましょう隊長!」

サイアの隣で意気込むカドシュ。更にその隣にアンバー。情報共有のため一旦降車したのだ。
 しかし、肝心のフレイムフェイスの反応は鈍い。

「……

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フレイムフェイス ここまでのあらすじ

フレイムフェイス ここまでのあらすじ

 輪海国エルガディア防衛隊内へ新たに結成された特別部隊『ネイビーブルー』。
 そこへ選抜されたカドシュ・ライルは、期せずして疎遠だった幼馴染のアンバー・シグリィと再会する。

「硬った! カタいよカドシュちゃん! まるで防衛隊のヒトみたい!」
「そうだな。実はそうなんだ」

二人を選出したのは長きにわたってエルガディアを守り続ける異貌の者。通称フレイムフェイス。彼はカドシュとアンバーを伴い、ダンジ

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フレイムフェイス 第六話

フレイムフェイス 第六話

再会のネイビーブルー (6)「GAAAAAOOOOOOOOOッ!」

破壊獣が吼える。口腔に炎が燃える。
 警戒するネイビーブルーの三人。だがこの時最も警戒すべきなのは、四本の足裏から漏れる光であった。

「カドシュ君、今すぐ壁際へ」

辛うじてフレイムフェイスは気付き、忠告と同時に一歩前へ出る。同時に従うカドシュ。直後、破壊獣の足裏で光が炸裂。戦車じみたその巨体が、砲弾さながらの直進突撃を繰り出

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フレイムフェイス 第五話

フレイムフェイス 第五話

再会のネイビーブルー (5) 何が爆発した?
 そもそも何が起きた?
 それを知るためには、少々時間を巻き戻さねばならない。
 具体的には、八体のウォリアータイプのうち四体がカドシュと戦い始めた辺りへと。

「か、カドシュちゃん!?」

四体の敵を引き連れて遠ざかるカドシュの背を、アンバーは目で追う。

「彼なら大丈夫です。此方は此方の来客をもてなしましょう」

真正面、突っ込んで来る四体のウォリ

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フレイムフェイス 第四話

フレイムフェイス 第四話

再会のネイビーブルー (4) 探索。接敵。
 咆哮。交戦。
 撃退。探索再開。

 それらを三度繰り返した後、カドシュは首を傾げた。

「妙だな」
「どうしたのカドシュ、ちゃん」

 尋ねるアンバー。奥歯に何か挟まったような口ぶりだが、カドシュは気にも留めない。

「敵戦力が小出しに過ぎる、と思ってな」
「確かに。この先で盛大な歓迎準備をしてるとは思うんですけどねえ」

言いつつ、フレイムフェイス

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