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結局のところ、私が授乳をしている理由とは。

「ママー!

パイパイちょーだいっ!」


エヘヘ♡

という、
あざとい笑顔でこちらを見上げているのは
2歳の次男である。

身体中が汗でベタベタなこの時期、
仕事後にお迎えに行き
家に帰ったらまずはお風呂場に直行したいのだが
このパイパイ攻撃が始まると
雲行きが怪しくなる。

「パイパイはお風呂入ってからにしようよー」

「ダメっ!パイパイ!」

「体にバイキンさんいっぱいついてるよ?」

「ダメっ!パイパイのむの!」

「体のベタベタって
おふろに入るとサッパリするんだよなぁー」


私が、すっとぼけた顔をしながら
お風呂場行きをすすめると
次男はあざとい笑顔から一変して
眉間に皺を寄せる。

そして
声を荒げ、叫ぶ。

「パイパイ!!!
パイパイがいいの!
パイパイのむの!
パイパイちょうだい!!!」


さっきからウダウダうるせぇなぁ!
オレはパイがいいって
最初っから言ってるよなぁ?
話が通じねぇやつだなぁ!
パイを飲むまでは風呂には入らねぇ!
だから、さっさとパイを出して飲ませろ!!!

次男の目の奥で
怒りの炎が揺らめく。

「でもさぁ…」

私が空気を読まずに
更にすっとぼけ続けようとすると
怒りの炎が今度は悲しみとなり
涙となってポロポロと溢れ出る。

「パイパイのみたいのっ!!!」

なんでオレのきもちが
わからないんだよぉ…
なんでオレのいったこと
むしするんだよぉ…
なんでママって
こんなに分からず屋なんだよぉ…

顔がくしゃっと歪み
うえーんと泣き出す次男に
ようやく私はおっぱいをやる。

とはいえ、
私は授乳をやめたいわけではなくて
身体がベタベタなのが嫌なだけで
コンディションさえ整っていれば
家の中ではどこでも構わず
ホイホイとパイを差し出す。



どうやら昔は
〝おっぱいは1歳まで〟
と言われていたらしい。

『昔は』とは書いたものの、
今も割と早い時期に
授乳をしなくなる家庭は多い。

「実は今も授乳してて…」

と言うと、
「えー!うちは1歳でやめましたよ!」とか
「まだ飲んでるんだぁ!」とか
「2歳なのに飲んでるの?!」とか
結構驚かれる。

ちなみに長男は3歳までおっぱいを飲んでいた。

でも、次男を出産するために
入院、退院してからは全く飲まなくなった。

どうやら〝おっぱいは赤ちゃんのもの〟で
〝自分はお兄ちゃんになった〟という事が
ちゃんと頭の中で繋がったらしい。



私が授乳をやめない理由はいくつかあるんだけど、
そのうちの一つは
〝私が酒飲みだから〟である。

え?酒飲みなら
逆にさっさと授乳をやめて
酒を飲みたいのでは?

と思う人は大勢いて
現に私がいかに酒を愛しているかを知っている人達は
私が酒を飲まずに授乳していることに
かなり驚く。

私も出来ることなら酒が飲みたい。

授乳とか気にせず
次の日とか気にせず
思う存分酒が飲みたい。

じゃあなぜ授乳するのかと言えば、
ある事に気付いてしまったのだ。


子ども達がおっぱいを欲しがるのは
決まって保育園の後だ。

子どもにとっての社会の荒波である保育園で
自分が頑張った後だ。

子ども達がおっぱいを欲しがるのは
決まって夜寝る時だ。

特に上手く寝れない時は絶対に欲しがる。

子ども達がおっぱいを欲しがるのは
決まって沢山泣いている時だ。

思い通りにいかない事
嫌な事
納得できない事に直面した時、
気持ちを落ち着けようとおっぱいを求める。

子ども達がおっぱいを欲しがるのは
決まってなんかテンションがあがった時だ。

キャッキャと楽しんでる最中で
突然の「パイパイちょうだい♡」もある。
なんでこのタイミング?と思うけど
多分テンションあがっているからなんだろう。




あぐらをかいた足の上に
次男がいそいそと近付き

よっこらせ

と、おっぱいを飲む体勢になる。

居酒屋の暖簾の如く
私の服をまくりあげ

〝大将!いつもの!〟の如く
「パイパイちょーだい!」

と注文が入る。

へいっ!いつもの!かしこまりましたー!

と生ビールを注ぐ要領で
私(大将)がおっぱいを出すと
次男はかぶりつくように
ゴクゴクとパイを飲み始める。

「おいしい?」

と聞くと、プハーっとしながら
いつもニヤリと笑う。

保育園で疲れた体に
友達とのおもちゃの取り合いで疲れた心に
パイパイが染み渡るのだろう。

私が頑張ったご褒美に酒を飲み
嫌なことを忘れるために酒を飲み
お祝いごとのたびに酒を飲み
楽しい時にも酒を飲み


「くーっ!!!うんめぇー!!!」

とやるのを幸せと感じるように


今の次男も3歳までの長男も
私のパイを求めてきた。

そしてパイパイを飲むたびに

〝これこれぇ!
オレはこれが飲みたかったんだよぉ!〟

と酒を飲んだ私のような
何とも言えない幸せな顔をしていた。

つまり、
私にとっての愛すべき酒と
息子達にとってのおっぱいは
全く同じ役割を果たしていることになる。

つまり私には、
息子達にとっての
生ビールやハイボールや日本酒やワインとしての責務がある。

酒を愛する私だからこそ
息子達の気持ちが分かるのだ。


それともう一つ。

酒はこれから何年先も飲めるけど
授乳は今しか出来ない。

長い人生でたった数年間しか出来ないなら
私は息子達が求める間は
授乳をしてあげたいと思ってしまう。

それが例え、
夜中も起きることになったり
体調が悪くても薬が飲めなかったり
愛する酒を断つ事になろうとも。




私がゴロンとトドのように横たわると
次男がどこからともなくやってきて
服をめくりパイを飲み始める。

右手で反対のパイをもて遊び
左手では消防車を転がして遊ぶ。

私も気にせずゴロンとしている。

そんな光景を見て
旦那が思わず

「次男!お前なんちゅーことをっ!」

と、ツッコミを入れる。

次男がニヤリと笑うと

「次男!なんだその顔!」

と、更にツッコミを入れる。

そんなやりとりも
多分、長くてあと1年かもなぁ。

寂しいなぁ。

授乳が終わったら
今度は私が居酒屋で

「すんませーん!生ひとつっ!」

と、叫ぶんだろう。

そんな日が楽しみでもあり
寂しくもある。

結局のところ何が言いたいかというと
息子におっぱいをあげることは、

私にとって
何にも変え難い幸せなことなのだ。

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