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5回目の結婚式記念日に寄せて。

結婚式は、雲一つない快晴だった。

とても風が強かったと記憶しているのは、
初めて付けた長いベールが風になびき、
頭ごと持ってかれそうになったからだ。
式場は海に近い場所で、余計に風が強かった。

晴れたら外で挙式をしようと決めていたけど、
風が強いとこんな大変な目に合うのか、と
頭がもげそうになりながら思った。

一生に一度しか着ないし、
どうせなら長ければ長いほどいい!!
というアホな基準でベールを選んだのは、
何を隠そうこの私である。
謎の欲深さのせいで、頭が風に翻弄される挙式となった。
舌切り雀の昔話の通り、
やはり欲は深すぎると良くない。


さて、我々夫婦には
籍を入れた結婚記念日と、
挙式をした結婚式記念日がある。

この二つが、何ヶ月ものタイムラグがある為、
毎年どちらの日も記念日扱いしている。

と言っても、
積極的に記念日扱いしているのは旦那で、
どちらの記念日も近くなってくると
「あと○日で結婚記念日だね!」とか
「あ!もう来月が結婚式挙げた日か!」とか
カレンダーを見ながら結構な頻度で
記念日を意識するような言葉をかけてくる。

それを聞いて私は
「おー、ほんとだ!」とか
「へー、忘れてた!」とか
まるで男女逆転のような相槌をうちながら
旦那の記念日を大切にする素晴らしい精神を
不思議な気持ちで見守る。

私は断然花より団子派なので、
記念日を名目にケーキでも食べれたらラッキー!位の思考しか持ち合わせていない。
だから旦那が毎年ジャジャーン!とサプライズで可愛い花を買ってきてくれると、
この人は本当に記念日を大切にしていて、
私を喜ばせようとしてくれてるんだなぁ…と
なんだか心が浄化される気がしている。
ケーキしか脳にない脂肪の塊のような私が、
旦那からのサプライズの花のお陰で、
花より団子派から、なかなか花もいいよね派になる。
要するに、記念日は私の心の浄化の日だ。



結婚式から5年経った。

今年の結婚式記念日は、
ワクチンの副反応で2人ともダウンしていた。

前日にワクチンを接種しに行ったのだが、
その前夜に旦那は数年ぶりに職場の人達と飲みに出かけ、
見事に深酒をかましてきた。


『もう帰ってる?』

『明日、接種あるからね!』


飲みの席で送られたくないLINEベスト3に入りそうなLINEを、子どもを寝かしつけた後に送りまくる私。
しかし旦那からの返信は待てど暮らせど来ず、
結局そのまま私も寝てしまった。

翌朝目覚めると、
いつもの位置で旦那はグーグー寝ていた。

朝5時起きの次男がギャーギャー騒いでも、旦那はグーグーガーガー微動だにせず寝ている。
その姿が、酒の深さを物語っている。



「ワクチンの予約、何時にする?」

「そんなの、1番早い時間に決まってるでしょ!」

予約を取る時に交わした会話と、
旦那のキリッとしたイラつくドヤ顔が
脳裏に蘇る。
旦那と違い、先見の明がある私は
1番早い時間にワクチンを受けたがる旦那を何とかなだめ、せめて午前10時半の予約にしようと提案した。

「…まぁ、いいけど…」

明らかに不満顔だが、渋々了承する旦那。

〝まぁ、いいけど…じゃないんだよ!
時間ずらす提案をしてやったのは、アナタの当日の動きが読めないからでしょうが!
そして私の経験則からして、
多分アナタは時間通りに動かないんだよ!
1ミリもなっっっ!!〟

心の中で叫ぶも、ぐっと飲み込む。
決して顔には出さない。
なぜなら、私はもうこの男の操り方を熟知している。
なんせ結婚5年目だ。




丸太のように横たわり
グーグーガーガーとうるさい旦那を見下ろし、

〝…ほれ、みたことか…〟

の、一言に尽きる。

やはりあの時、時間をずらして良かった。
というか、もしや10時半でも間に合わない…?
でも、あんなドヤ顔してる旦那には
「アナタは絶対にその時間だと間に合わないから、午後とかのが良いよ^_^」
などと言ったら間違いなく喧嘩になるし、
絶対に臍を曲げるだろう。
話が余計に面倒になるから
10時半は今考えても最適解だ。

ちなみに、散々言っといてなんだが、
もちろん旦那にも弁解の余地はある。

飲み会のスケジュールはワクチンの予約後に決まったし、
数年ぶりの飲み会となれば、
ウキウキワクワクするのは当たり前だし、
私も同じ立場だったら深酒街道まっしぐらである。

そんなことを思いながらも、
ひとまず10時半に間に合わせる為にも、頭の中でタイムスケジュールを組み直す。

8時頃に起きてきた旦那は、
私がいる手前、シャッキリした風を装うとするが
出来ることなら横になりたいらしい。
私に文句を言われながらも
再び丸太のように横たわり、目を瞑る。

9時頃になり、次男がグズグズし始める。
朝5時からパワー全開だったので、
そろそろ一眠りしたそうだ。
遅くとも家を9時50分には出たい私は、
次男を一眠りさせるか、このまま寝かさずに強行突破するか悩む。
近くには丸太人間の旦那。
まだパジャマ姿の長男。

よし!ひとまず寝かして
その隙に長男の準備するしかねぇ!
グズグズな次男を小脇に抱えたままあれこれ準備する方が絶対大変!

寝室で次男を寝かしつけながら
旦那にLINEを送る。

『次男寝そう。問診票書いておいて。』

すぐさま既読がつき、

『はい!』

丸太人間から快活な返信が来る。

9時35分。
寝かしつけ終えた私はリビングへと戻る。
あと15分で長男の準備して、次男のオムツや飲み物など準備して…




……えっ?!


……げっ!!!



なんと、丸太人間は丸太のままだった。


というか、もう丸太人間じゃなくて
ただの丸太だった。

寝かしつけに行く前と
何一つ変わらない風景が目の前に広がる。
唯一違っているのは、
旦那の意識が完全に失われているということだけだ。

「ちょっとちょっとちょっとーーー!!!
何してんの?!
何で寝てんの?!
問診票書いたの?!
書いてないよね?!
あーーー間に合わない!
間に合わないよーーーー!!!」


寝ている丸太に、
私は信じられないくらいデカい声量と速さで話しかけ、捲し立てる。

その声を聞き、
丸太は頭をブルブル震わせて
軽くパニックになった。

え?!今、何が起きてるの?!
ここはどこ?!
ワタシは誰?!
みたいな。

意識を取り戻した旦那は、
ようやく半分人間に戻る。
つまり、丸太人間になる。

丸太人間は私の鬼の形相に気付き、
「やべぇ!寝ちゃった!」と言いながら
慌てたフリをして飛び起きた。
そんな旦那をガン無視して、
もう私は私のやるべき事を粛々とやるしかない…と
長男の着替え、トイレ、持ち物準備などをする。
あぁ…イライラする…

旦那は
「ねぇねぇ!問診票ってどこに書くの?」
「問診票これで合ってるー?」
リビングで何やら言っている。
私の顔は能面になっている。
能面のまま、粛々と準備を進める。

9時45分になり、
家を出る時間が近付く。

怒りをパワーに変えた私は、
長男の支度も持ち物も準備し終わり
あとは寝ている次男を抱っこ紐で抱っこするだけになった。

そろそろ旦那も準備を終えてる?
っていうか流石に問診票書き終わってるよね?と、
リビングに戻ると衝撃の光景が広がっていた。




……えっ?!




旦那が筋トレしてる。



…は?
何で?
…筋トレ?
え、今?

沢山の〝?〟が脳内を占拠する。

私の感情は遂に怒りを超え、別次元へ到達した。
気付いた時には膝から崩れ落ち、
もう笑うしかなかった。
めちゃくちゃ笑った。

旦那曰く、
昨日は飲み会で筋トレ出来なかったから、今やってる…とのこと。

でもそれやるの、
誰がどう見ても今じゃないよね?
家出るまであと5分なんだけど?
あと、ひとまず服着てくれんか?
頼むから…


結局家を出たのは10時を過ぎたが
ワクチン接種会場にはほぼ時間ピッタリに着いて、
私たちは誰かに迷惑をかけるでもなく、
特に何の問題も起こさずに接種を終えた。

その問題の無さが、
恐らく旦那の謎な行動を助長するのだが。

結婚式から5年経って思う。

やはり旦那の嫁は、
私にしかつとまらん、と。


今年の結婚式記念日は、
5年前と同じように強い風で快晴だった。

夫婦揃って副反応に苦しみながら、
「あの日と一緒だね」と空を眺め
5年前を懐かしむ。

ケーキも花も無くても、
私と旦那には思い出がある。

真っ白なドレスとタキシードを身に纏い、
長いベールで頭がもげそうになりながらも、
風の中をドラマのワンシーンのように歩いた思い出が。

沢山の人に貰った特別な言葉や笑顔に感謝し、
自分達はなんて幸せなんだろうねと
2人で寝る間際まで話した思い出が。

準備も当日も、2人きりじゃない。
お腹の中にいた長男と
3人で乗り切った思い出が。

結婚式は非日常のようでありながら、
実は私たちのそれまでの日常が積み上がって出来たような時間だった。

その思い出だけで充分で、
空を眺めて5年前を思い出しながら
やはり心が浄化される感じがした。

きっと記念日は
こういう時間の為にあるんだろう。


結婚式の時に私のお腹にいた長男のお陰で、
私は大好きなお酒を一滴も飲まなかったので、
結婚式の日の思い出を
一欠片も忘れることなく記憶に留められている。

もしもあの時結婚式でお酒を飲めていたら、
もしかしたら私が丸太になっていたかもしれない。
そうなると、丸太の旦那を責めることなど、
一生出来なかったかもしれない。
そしてあの幸せな時間の記憶が
頭の中に一欠片も残っていなかったかもしれない。

そう思うと、
長男こそが1番先見の明がある人間なのかもしれない。


結婚式記念日の翌日、
すこしだけ副反応がマシになった旦那が

「ママ、いつもありがとう。
俺と結婚してくれてありがとう」

サプライズで花を買ってきてくれた。

これから先、
何年経っても記念日にはサプライズの花を忘れずに買ってきてくれる旦那でいて欲しい!などとは思わない。

だって、欲は深すぎると良くない。

でも、これから先、
何年経ってもお互いに
〝あんたの相手は自分以外の人には絶対につとまらんわ〟と、
勘違いし合える夫婦では居たい。

そんな事を思う、
結婚式から5回目の記念日だった。

やっぱり花もなかなか良いねぇ


〈おまけ〉
結婚式の時から、今と大して変わってません↓

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