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初めて「消えてなくなりたい」と思った日のこと。

ここ数日、鈍い頭痛がずっと続いていた。

何かしらの体の痛みというのは、
幸せを感じる機能を低下させる。

あぁ、休みたい。
ちょっとだけ1人で横になりたい。

鈍い痛みを手で押さえて、
そんなことばかり思う。

でも、冬休みに入ったばかりの4歳の長男と
目を離したら危険なことしかしない1歳の次男がいる家で、
そんな願いは到底叶わない。

冬休みに入ったはずの旦那が
ちょうどそのタイミングで腰を痛めてしまい、
年末は毎日整骨院へ通うことになった。
その為に、毎日2、3時間家を空ける。
大した時間じゃない。
仕方のない事だ。
だけど、その数時間が毎日少しずつ私を削る。

2人の息子の相手をしながら、
ズキズキする頭に響くのは
旦那に対する苛立ちの言葉。

〝いいよね、あなたは1人で整骨院に行けて″
〝いいよね、あなたは1人でコンビニに行けて″
〝いいよね、あなたは1人で車を運転出来て″

整骨院から帰ってきた旦那は、
いつものようにゴロンと寝転がり
iPhoneをいじる。

次男にご飯をあげていると、
長男が大声で私を呼ぶ。
「ごめん、今ご飯あげてるから行けないよ」

次男のご飯をあげ終え、
長男が私の膝に座ると、
次男も膝にきて押し合いの喧嘩になる。
「ちょっと!そんなに強く押さないの!」

息子相手に大人気なく声を荒げ、自己嫌悪になる。
余裕がない証拠だ。
旦那に息子達の相手を一緒にして欲しいのに
彼は手元の小さな画面から一向に顔をあげない。

〝いいよね、あなたは好きな時にiPhoneいじれて″

またもや文句が頭に響く。
頭がズキズキと痛む。

年末なので、旦那が掃除すると言ってくれた。
納戸の中を整理し、
風呂場、トイレもピカピカにしてくれた。
旦那は丁寧な人なので、
私が掃除するより、百倍は綺麗に仕上げてくれる。

でも、そんな綺麗なお風呂場を眺めても
私の心はスッキリとは晴れない。

旦那が半日以上かけてした掃除の間、
ずっと私は違う部屋で子ども達を見ていた。

〝いいよね、あなたは1人でゆっくり掃除が出来て″

またもや頭で声がする。
さすがにおかしい。

旦那はサボってなんかおらず、
家族の為に掃除をしてくれた。
普通なら感謝する所を、どうしてこんなにモヤモヤイライラしているのだろう。

そこで私はようやく、
自分がいつもより情緒が安定していないことに気付いた。
旦那は悪くない。
腰を痛めているから整骨院に行くし、
子どもが私を求めるから相手をしないだけだし、
家族の為にせっせと掃除をする。
それでも旦那にイライラしてしまう。

私がずっと理由も言わず、
不機嫌な態度をとっていたせいで、
それが旦那にもうつる。
でも自分でこのイライラを止められない。

旦那と長男が遊ぶと、
旦那は必ず長男を泣かす。
そんな姿にもイライラする。

〝どうして長男にそんなことするの?″
〝そういうことするからママがいいってなるのに″

イライラはいつしか、涙になって溢れ出た。
私1人が頑張って子育てしてる。
私1人で子ども達を見てる。
こんなに辛いのに助けてくれない。

頭はズキズキと痛み、泣きながら
「頭痛い…」と不機嫌そうに旦那に伝える。
旦那はチラリとこちらを見て、
「じゃあ次男を寝かしつけた時に、一緒に休めばいいじゃん」と不機嫌そうに言う。

次男に授乳して昼寝させる。

そんな時にも、

〝私は夜中も授乳して起きてるのに″
〝授乳してるから薬も飲めないのに″

という文句ばかりが頭に浮かぶ。
イライラズキズキして、涙が出る。

次男が寝たので、ようやく休める…
そう思った時、

「ママー!!!」

旦那が不機嫌そうな大声で私を呼んだ。
長男が泣いてる声も聞こえる。
せっかく次男が寝たのに大声出さないでよ。

「さっき休んでいいって言ったじゃん!!!」

私は部屋から出て、
イライラしながらリビングに向かって叫ぶ。

旦那がわざと大きな音を立ててドアをバタン!と閉めた。
長男が「ママがいい!」と泣いている。

ふらふらと部屋に戻り、
次男の隣に倒れ込み、目を瞑った。
涙が溢れてきた。

辛い。
辛い。
辛い。

子どもと一緒にいるのが辛い。
旦那と一緒にいるのが辛い。
1人になりたい。

消えてなくなりたい。


ハッ!とした。

私は随分と弱ってる。
そんなこと、今まで思ったこと無かった。
でも、思ってしまった。

〝消えてなくなりたい″


私は次男の寝顔を見ながら、
自分の感情や心に寄り添ってみる。

〝消えてなくなったら楽だけど、
本当に消えてなくなりたいの?″

「…違う。
私はやっぱり子ども達を残して
消えてなくなったりしたくない」

少し冷静さを取り戻す。

〝消えてなくなりたいと思ったのは、心が辛かったからだよね?
どうして辛くなったの?
子どものせい?
子どもが言うこと聞かないから?″

「違う。子どもは何も悪くない。
…旦那のせい。
旦那のせいで、私は辛かった」

〝でも、そのこと旦那は分かってる?″

「あ…分かってない。」

そうだ。
私は旦那にどうして欲しかったのか、
全く言葉にして伝えていなかった。
勝手に不機嫌な顔をして、すぐに怒鳴って、旦那にも嫌な思いをさせた。

もしかしたらこのイライラは
少し休めばおさまるのかもしれない。
でもそれは解決したことにならない。
消えてなくなりたいと思ってしまった自分の為にも、
これから先の夫婦の為にも、
何より子ども達の為にも、
旦那にちゃんと伝えよう。ちゃんと話そう。

何を伝えればいいのかと、
伝えたいことをグルグル考えていると
また、涙がポロポロと出てきた。
心の受け皿が一杯な証拠かもしれない。
拭うこともせず涙をこぼす。
それが、少しずつ自分を取り戻す方法な気がした。


一休みしてから、旦那に
「後で話したいことがあるんだけど」と
声をかけた。

私がいつもと違う雰囲気だったからなのか、
旦那は少しビックリした顔をして
「分かった」と
真面目な顔で返した。

しばらく経ってから

「話って?」

旦那が声をかけてきたので、
子ども達がテレビを見ているのを確認して、
2人で違う部屋へ移動した。

「えーっとね…」

話をしようとしたら、
またもや涙が出てきた。

上手く話せるかな。
ちゃんと聞いてくれるかな。
思ってることが伝わるかな。

そんな私の背中を
旦那がゆっくりさすってくれた。

手のひらが温かい。

深呼吸を一つして、
私は話した。

毎日1人で子ども達を見ている時間が辛いこと。
あなたが子ども達を見てくれないのが辛いこと。
長男を泣かす遊び方をして欲しくないこと。
子ども達は可愛いんだけど、心に余裕がないこと。
感謝したいのに、上手く感謝できないこと。
辛いのに、その辛さがあなたに伝わらないのが辛いこと。
消えてなくなりたいと思ってしまったこと。

そして、
他の誰でもなく、
私はあなたに助けて欲しいこと。

親でも友達でもなくて、
あなたにしか私を助けられないし
私はあなたにしか頼れないこと。


涙と一緒に身体からこぼれ落ちた言葉を、
旦那はウンウンと頷きながら聞き、
その間私の背中をさすってくれた。

全部話したら胸の中がスッキリした。

頭は相変わらずズキズキ痛いけど、
心はスッキリして、涙も止まった。

旦那は私を抱きしめて、
「ごめん。ちゃんと分かったよ」と言って、
また背中をさすった。
身体が温かい。

旦那はそれから少し変わった。

勿論、相変わらずiPhoneをいじる時もあるけど、
次男のご飯を作って食べさせたり、
長男とプラレールを作ったり、
何より私を休ませようとしてくれるようになった。

次男を昼寝させた隣で横になっていると
旦那がやってきて違う部屋のベッドを指差して

「ここで寝な。
ちょっと子どもと離れるだけで、
きっとちゃんと休めるよ」

そう言うと、横になった私の上に
温かい毛布をフンワリかけてくれた。
その毛布は、
私の心もフンワリ一緒に包んでくれた。


私たちは家族だ。

病める時も、健やかなる時も一緒にいると誓ったあの時から何年も経ち、
2人から3人、3人から4人と家族が増えた。

4人だから感じられる幸せが山ほどある。
だけど、4人だから感じる辛さも山ほどある。

でも、色んな思いや辛さを
誰か1人が我慢して背負う必要はなくて、
ちゃんと言葉で助けを求めれば、
代わりに背負ったり、半分持ってくれたりする。
弱った心に、温かい毛布をフンワリかけてくれる。
勿論、時にはコッソリ手を抜いて、
背負ったものを自分で減らすことも大切だけど。

あれほど憎らしかった旦那を
今は愛おしく思うのは、
私がちゃんと思いを伝えて、
旦那がちゃんと話を聞いてくれたからだ。
そして、自分に出来ることに気付いて
行動してくれるようになったからだ。
誓いの通り、旦那は私の心が病める時に
ちゃんと向き合ってくれた。

その後、私の涙やイライラや情緒不安定さの正体は、ホルモンバランスのせいだったことが分かった。

だけど、
「あの時、ホルモンのせいで変だったよね」
で片付ける事ではないなと思う。
なぜなら、あの時に溢れ出た涙や思いは
私の心の中にずっとあった思いだったから。
ホルモンバランスが崩れて感情が爆発しただけで
遅かれ早かれ、何かしらの形できっと表面化してたはずだ。
だから、
「あの時、ホルモンのおかげで解決したよね」
という言い方が正しい気がする。

旦那は今朝も早く起きた次男を連れて
先にリビングへ行き、
次男の着替えやご飯を済ませて
ゴミ捨てもしてくれた。
そういう行動に対して
私もあぐらをかかず、やれる事を進んでやる。
ちゃんと感謝を伝える。
そして、何かあれば言葉で伝える。

私たちは家族だ。

1人じゃないから我慢も沢山する。
1人じゃないから辛い思いもする。
1人じゃないから思い通りにいかない。

でも、
4人だから支え合える。
4人だから幸せが増える。
4人だから寂しくない。

病める時も、健やかなる時も、
イライラする時も、ご機嫌な時も、
憎む時も、愛しい時も、
怒る時も、笑顔の時も、
悲しい時も、嬉しい時も、
最低な時も、最高な時も、
どんな時でも、一緒にいる。

それが、家族だ。

完璧じゃない、
綺麗事じゃない、
キラキラじゃない、

だけど、
これが
私の愛すべき家族だ。

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