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クレープシュゼットの奇跡

クレープは何でも好きであるが、一番想い入れがあるのはクレープシュゼット。前回<クレープシュゼットの思い出>と言う記事でいかにクレープがフランスでの、特にブルターニュ地方で人々の生活で重要な役割を占めているかがわかった。

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1つ思い出したのが、ブルターニュのサンマロ(Saint-Malo)に行った時の翌朝の朝食時のことである。

<クレープシュゼットの思い出>の中で説明させていただいたが、私はフィットネスの地区大会に参加する為にサンマロを訪れて、前日に町散策の後、シーフードのクレープとクレープシュゼットを堪能して、もちろんシードルも飲んで地元気分を存分に味わった。まだお読みでない方は、宜しければその時の事が書いてあるので、私のフレンチガストロノミーに対する情熱(ただの食いしん坊)をそこでおわかりいただけるかと思うし、同時にここでの話がわかりやすくなるはずなので是非ご一読いただきたい。

①何故クレープはブルターニュ地方の 名物?


まだ海岸沿いの散策をしていなかったし天気もよかったので、しかもフィットネスの地区予選までまだ時間があり、あまりあちらこちら歩き回ると疲れそうだったのでテラスで朝昼兼のブランチでも取ろうかなと…、で、気がついたのはたいていのカフェではクレープが朝食メニューにあるという事である。 パンケーキではなく、クレープに砂糖、ジャム、 ヌッテラなどである。朝のクレープだったらオレンジジュースやバター、オレンジの皮、リキュールなどの凝った味わいのシュゼットでなくてもシンブルにマーマレードジャムだけが合うかもしれない。何せクレープ生地そのものが美味しいのだから気分、天気、体調などに合わせてベストマッチを考えるのがクレープソムリエ、いや、真の食いしん坊ではないか。

ところで最近になってクレープは何故特にブルターニュ地方でよく食べられて、また、クレープと言えばブルターニュと言われるのか気になって調べてみた。

ブルターニュと言えば今ではシーフードや野菜果物が美味しいと言う評判があるが、元々は土壌が痩せていて麦さえ栽培できなかったそうだ。12世紀頃になってアジア方面に遠征した十字軍が蕎麦を持ち帰った。蕎麦は土地が貧弱でも育つので、ブルターニュの人々は蕎麦がきや蕎麦粥を作って食していた。ある時誰かが蕎麦粥を焼けた石の上に落としてしまったらガレットが偶然できたとのこと。

ブルターニュでは元々はクレープではなくてガレットを食べていたのが意外であった。17世紀にルイ13世の妻、アンヌ・ドートリッシュがブルターニュを訪れた際にガレットを食べ、非常に気に入ったので宮廷料理に取り入れたという話もあるが、この件に関しては個人的にもっと詳しく調べてみる必要あり。確実なのは19世紀には肥料も改良されて地元で小麦粉が出来るようになり、小麦粉のクレープが誕生して広まったと言うことである。

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結局景色の良い海辺のカフェのテラスを陣取って、さすがにクレープは前日のディナーで存分に味わったのでカフェ・オ・レ、オレンジジュース、クロワッサン、タルティーヌ(バゲットパン1/2に切り目を入れて、真ん中にバターをたっぷり塗って、さらにジャム或いは蜂蜜を塗る)、昼食も兼ねてなのでスクランブルエッグも注文した。(オムレツだったかもしれない)

フランスで朝食に卵料理を食べる習慣はあまりない。晩御飯がたいてい20時以降と遅めなので翌日の朝食はコーヒー或いはカフェ・オ・レだけの場合が多い。クロワッサン或いはパン・オ・ショコラ位はたべるけれど。あのマクドナルドだってフランスにはソーセージエッグマフィンかなくて最初はがっかりしたものであった。

しかし天気も良くて海岸沿いのテラスでの朝食って最高の贅沢!人もあまりいなくて静かだし、この後のフィットネス予選大会についても全く目に見えないもので、どんな人が来るのか予想もつかない。この段階で深く考えるのはやめにした。

②フィットネス競技会


食事が済んで一息ついたら、早めに会場に出発する事にした。地元の体育館だとはわかっていたが、 やはり迷ったりしたらと心配もあったし。前日は何のトレーニングもしてなかったのでウォーミングアップとストレッチしたかったし。

日本のエアロビクスと同じかどうか定かではないが、毎年フランスでも競技大会があり、内容は個人とチームの2つのカテゴリーにわかれている。ステップとハイロー(Hi-lo)の2種目があり、チーム部門は音楽も振り付けも自分たちで決めてそれをひたすら 練習して発表するのだが、決め手はシンクロ性である。いかに揃っているかがポイント。ステップは定められた台を使って、基本はその上を曲に合わせて歩くわけであるが、踏み台昇降に手の振り付けもプラスされるので複雑に見えて正直言って個人的にはあまり好きではない。ハイローは要するにダンスである。チームはステップかハイローのどちらかを選択すればいい。それに対して個人部門はステップとハイロー両方やらなくてはいけない。当日プレゼンターがその場で振り付けと、自らリミックスした音楽を披露してそれを参加者は真似するのである。こちらはなんと言っても、記憶力がものを言う。

私がステップをあまり好きになれない理由は他にもある。先に踏み台昇降と書いたが、どうもイメージ的に前後に足踏みをしているだけのようで、何か締め付けられている感さえある。実際はもっと自由な動きをしているのだが、私がやるとぎこちない様な気がしてならないのだ。

会場に到着して受付で登録をした。もうすでにかなりの参加者の名前があった。と言ってもパリに比べると少ないのでまずその時点で妙なストレスを感じることは無かった。パリの決勝大会は一度見に行ったことがあったが、選手のなかでも上位入賞経験者は自信満々といった感じで、初出場者っぽい人達はなんとも言えない緊張感に思いっきり包まれて気の毒なくらいの雰囲気を出していた。私はそれが嫌であった。

「フィットネスなんだからいくら大会であっても楽しんでやりたい」と思ったし、昨日私はブルター ニュのクレープを食べでシードルも飲んであんなに楽しかったではないか。ここでせめて自分の力を 発揮出来ないのなら今帰ったほうがましと思った。私の中で葛藤が続く…が、ふと、やらないでゼロで 帰ったら今朝までの思い出が全部どこかへ行ってしまう。と自分に言い聞かせてストレッチを続けた。

競技はそんな私の気持ちも無視したかのようにあっさりと始まった。先ずはステップを一時間。プレゼンターは私の全く知らない男性。地元のインストラクターで、自身も競技会経験者らしい。ここで考えるのが、せこい私はパリだったら知ってるインストラクターでもっと安心感あってやりやすかったかなと即座に思ったが、同時に初めてのインストラクターとの出会いというのも何かもたらせてくれるかもなんて一人前に偉そうな事も考えた。

が、私の考えは甘かった。競技が始まって半分位 たつと、徐々に私の動きはぎこちなく、金縛りに あったかのようになってきた。冷や汗のようなものがどっと出てきているのがわかった。手足が動かない。決して難しい振り付けではないのにプレゼン ターのしている事とまったくズレている。帰りたかった、がそうもいかない。取り敢えず最後まで通してから休憩のため客席に向かった。

がっかりである。最初は余裕で始めたのに、これでは昨日からのサンマロの良き思い出が台無しである。

そこへ40歳代の男性と20歳位の女性がやって来て、まずは私の名前を聞いた。話し方も動作も穏やかな男性はソフロローグだという。人間のメンタルと肉体のバランスをとる事を制御し、ストレスを調整して落ち着かせる、要するに先程の私のような人を何とかしてくれる職業なのだ。女性は私のように参加者であることはゼッケンでわかったが、番号からして隣にいたはずなのにちっとも気がつかなかった。それ程あがっていたのだ。

男性の話しは特にこれと言って変わったことはなかったし、「君はストレスを悪い方向に持っていってしまったけれど、良い方向に持っていくように考えてごらん。」的なことを言葉を変え、静かに、丁寧にず〜っと私に話しかけ続けてくれた。

「そうか、ポジティブな事ばかり考えてみよう。 自分のまわりの、自分が好きな人、自分のことを好きな人、楽しかった事…、あっ、昨日の夜のクレープ。美味しかっただけではなくてすごく楽しい時を過ごせて幸せだったっけ。」なんて、小さな出来事を、よくも悪くも展開するのが得意な私なので、 クレープシュゼットがまるで一つのストーリーと なって巡り巡っていった。

さて、ハイローが始まった。一時間のダンスだ。 振り付けをこなすだけではなく、体力もないと、 要するに、一時間ずっと動きがきびきびしていないといけないのである。もうあとは何も考えない。 自然と笑顔も出てきた。

結果は何と1位。ソフロローグさんの娘さんが2位。私のステップの得点は良くなかったが、ハイローでかなり高得点を貰ったのて総合ダントツ1位だった そうだ。ソフロローグさんも祝福してくれた。最高に気持ちの良い瞬間であった。

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初めてのスポーツ大会であったが、その後私はフィットネス&ミニ旅行が病みつきになってしまった。 チャンピオンシップやフィットネス研修会、合宿など、仲間と一緒に、或いは一人ででも計画するようになった。南仏や、一度イタリアのアンコーナまで一週間のダンス合宿に一人で行ったこともあったっけ。スペインに行った時にフィットネスクラブで1日レッスン体験した事もあった。

ソフロローグさんがいなかったら、また、クレープをあそこのレストランで美味しく楽しく味わって いなかったら、私のサンマロでの滞在はまったく 違うものになっていただろうな。これからも私の 旅行は土地の魅力発見だけでなく、人間、グルメとの出会い追求でありたいと強く思わされたミニブルターニュ旅行であった。

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